体育祭!

運動音痴にとって最大の苦行、体育祭が始まった……
夏休みを挟んで、またも脳筋イベントを開催するなんてヤンキー高校えげつなーい。
と、文句を言っても俺の都合で中止にゃならないし、またしても単位を人質に取られたんじゃ参加せざるをえない。
こういう融通の利かないとこが駄目なんだよなー、日本の教育は。ぶちぶちっ。
競技は色物レースとガチ短距離走、団体競技、そして最大の目玉が男女混合リレーだってんだけど、正直どれもどうでもいい。
だってさぁ……フォークダンスがないって、どういうことですか!
高校の体育祭なのに!
高校の体育祭っつったら、フォークダンスが最大の目玉競技、華でしょ!?

悠ちゅわんのお手々を握るチャンスすら与えてくれないなんてクソだぜ、マジクソ。はぁー練習やる気しない。
テンション大幅ダウンしながらも一応、団体競技の練習を嫌々やりつつ、当日がやってきた。
おー、爆竹がバンバンあがってますねー、学校側はやる気満々だわ。
我が四組は、やりたい奴が立候補する形だったんで、俺は個人競技を全部パスさせてもらった。
だってクラス単位での戦いっつったら、代表で出るのは一大責任じゃん?
負けたら同級生全員から責められるわけで……そんなの無理、俺の繊細ハートが耐えられない。
幸い、四組は陸上好きが集められていたのか、それぞれの競技では必ず立候補の手があがりまくっていた。
一方で俺以外に個人競技をフルパスした生徒は、数少ないながらも居る。例えば悠ちゅわんが、そうだ。
意外だな〜。悠ちゅわんって文武両道、何でも出来そうなイメージだったんだけど。
でも、かけっこで万が一転んだりして悠ちゅわんの膝小僧に傷でもついたらと思うと、もうね。

俺「悠ちゅわん、膝から血が出ている!俺が舐めてあげるね👅」
悠「あんっ、駄目、くすぐったいよぉ、碧くん……っ。皆が見てるのにィ」

なんて悶える悠ちゅわんを想像しただけで、股間が滾っちまう。やばーい。
午後イチには応援合戦なんてのもあって、女子はチア、男子は学ランで代表が音頭を取るんだけど、そっちにも悠ちゅわんは立候補しなかった。
もしかして、目立つのが嫌いなのかな。いつもクラスの中心で、これ以上ないぐらい目立っているっていうのに。
女子の団体競技には悠ちゅわんも出るけど、創作ダンスの衣装は短パンだと小耳に挟んだんで期待大だ。
憧れの悠ちゅわんの太腿が拝めるとなったら最前列でガン見したいとこだけど、応援席は背の低い人順だから、俺の席は後方なんだよね。
しかし、そこんとこも対策は整えてある。
ジャーンッ、双眼鏡!こいつがあれば応援席からは豆粒レベルであろうと、ばっちり悠ちゅわんの太腿を拝めるって寸法よ。
席にいる間、俺達は担任の監視により応援を強制されている。個人競技に出ない勢は、声が枯れるまで応援しなきゃいけない。
俺は声を出しているフリをして口パクで誤魔化しているんだが、今んとこ先生にもバレていない。最後列の特権だな、これは。
トップの競技、50メートル走は、どのクラスも足の速い代表ばかりで、あっという間に終わった。
うーん、体育祭って、どうしても陸上に偏りがちだよな。
陸上部は部活の一環でインターハイだの何だのあるくせに、学校行事でも目立てるなんてズルイんじゃないの?
それにしても、このクソ暑い中、よく全力で走れるよなぁ。走るのが好きな奴って、外気温を感じない鈍感ばっかなのかねぇ。
俺なんか、さっきから汗かきっぱなしなんだけど。応援席に座っているだけなのに。
とか言っていたら、次は綱引きだってよ。
うわ、面倒くさっ。テキトーに引っ張って終わらせたら、さっさと応援席に戻るかー。
ってんで、戻ってきた後ぼーっと眺めているうちに借り物競走の準備が終わり、各組の代表が位置につく。
途端に「小野山くーん、頑張ってー!」って一斉に女子が騒ぎ立てて、は?クラス対抗なのに二組の代表応援してどうすんだっての。
うん、二組の代表が小野山なのには俺も気づいていた。
あいつ空手部なのに足速いの?って疑問に思っていたんだけど、こうやって女子が応援するってこたぁ、速いの?むかつくわぁ。
けど借り物競争は足の速さって、あんまり関係ないか。借り物が手に入れられないと、どんなに足が速くてもドベ確定だし。
表坂の色物レースは、どれも一筋縄ではいかないって鉄研の先輩諸氏が言っていたしな。
きっと、相当変なものを借りに行かされるんだろうなぁ。悠ちゅわんのパンティ限定だったら、参加しても良かったけど。
「悠ちゅわん、パンティください!あ、脱ぐのが恥ずかしかったら、あっちの物陰で……」なんつったりして。
そんで、物陰で恥じらいながらもパンティを脱いだ悠ちゅわんが視線をそらして恥じらいながら、「これ、どうぞ」って俺に手渡して、パンティは悠ちゅわんのぬくもりが残っていて、ほんわり暖かく……
「この中で銀色のアクセサリーを所持している人がいたら、貸してくれ!」
うぉっ、うるせぇな!小野山が突然大声を出してきやがるもんだから、俺の妄想も四散しちまった。
銀色のアクセサリー、だと?そんなもん体育祭に持ってきている奴いるのかよ。
って思っていたら、あちこちで席を立つ女子多数。へー、モノによっちゃ持ってきている奴も、いっぱい居るんだねぇ……
借り物競争はクラスに関係なく借り物を借りれる上、物が見つからなくて動けなくなっている連中には「誰も持っていなさそうな物なら、ここにあるぞー!」って先生のヘルプが入る親切競技だった。
小野山は逆転勝利で一位を取りやがって、おかげで応援席がキャーキャー女子の声でうるさいったらない。
うちのクラスは悠ちゅわんだけだ、キャーキャー言ってないのなんて。
まぁね、二人が友達だと判った時は焦ったけどね、アレだよ悠ちゅわんが小野山を旅行に誘ったのって、きっと中村さんあたりに頼まれたのかもしれないし?友達の友達だよね、多分。
女子の借り物競争が終わったら、男女混合の団体競技、玉入れが始まる。
めんどくさいけど、背の高い俺は皆に期待されていることだし、ちょっとは張り切って投げてみますかね。
そーれ、ポポイのポイポイ。あれ、意外と入らないもんだな……そりゃそりゃっ。
ムキになって投げれば投げるほど入らない。ふむ、じゃあ今度は力を抜いて、ほーいっ。
投げ方を研究しているうちにピーッと甲高い笛の音がなって終わっちゃった。
集計の結果、玉入れは一組の圧勝。くそぉ、ヤンキークラスに負けるなんて超悔しい。
玉入れが片付けられた後は障害物が運ばれてきて、あれ、また二組の代表が小野山じゃん。
あいつ、もしかして色物レース担当なの?足、わりかし速いのに?
やる気あるんだかないんだか判らんなぁ、二組。
うちの男子障害物代表は後藤だ。あいつは特別足が速いわけじゃなし、体育の授業でもふざけてばっかなんで絶望的。
うちのクラスは、そもそも希望者優先だったしね。二組以上に勝つ気ないよね。
スタートが掛かるまで一人飛び越したラインで小野山に滅茶苦茶話しかけてっし、闘争心ゼロじゃん後藤クン。
おかげでスタートダッシュに出遅れて、あっ、でも、ハードルは意外と上手いんだな、飛び越えるの。
あいつが真面目に陸上やってんの、今日初めて見たわー。だって練習の時だって、不真面目だったんだぞ。
すげぇ、ハードルで距離稼いで二位に入ったじゃん。やるな後藤、ちょっぴり見直した。
「いいぞー後藤!」と四組応援席は大喝采。
一位は三組代表、小野山は四位だった。俺は後藤ばっか見てたんで、どんな走りだったのかは判らないけど。
ただ、四位でも「小野山くーん!」と騒ぐ女子は多々いて、ふーんイケメンはいいね、三位以下でも褒められて。ケッ。
女子障害物はハードルで引っかかる代表多々。まぁ、ハードルって難しいもんね、仕方ないかな。
いつの間にか真剣に競技を見ちまっていたが、あっこの次は待望の創作ダンスじゃぁん!
いそいそと双眼鏡を取り出した直後、「おっ、良い物持ってんじゃん」と隣のヤンキーに声をかけられて、俺は嫌な予感に駆られる。
「ねェねェ、それ貸してよ。友達が出てるんだけど、ここからじゃちっさくて見えないんだよね〜」
俺が貸すの前提みたいな口調で圧をかけてきやがった。お友達のヤンキー諸君も俺を見つめてきて、同調圧力すんげぇー。
俺だって友達……じゃないけど悠ちゅわんが見たくて、持ってきたんですけど?
応援席からじゃ遠くてよく見えないのは、やる前から判っていたんだし、だったら、お前も双眼鏡ぐらい持ってこいよ!
俺は心の中で拒絶しながら「いいよ」と、にこやかに笑ってヤンキーに双眼鏡を貸してやる。
「いいの?」って小声で鉄友に聞かれて、俺も小声で「スマホで見るから大丈夫」と答えておいた。
スマホのカメラを拡大全開にすりゃ見えないこともない。ただ、この方法だと太腿のきめ細かさまでは確認できないのが難点だ。
応援席で一番よく見えるのは一組と二組だ。けど、悠ちゅわん以外は特に興味ない女子ばっかだしなぁ……
気のない顔で眺めていた俺の目が、やっちんを捉える。
悠ちゅわんほどじゃないにしろ、彼女の太腿は、すらっとしていて美しいラインと言えよう。
うぅん、彼女の前にいるデブが邪魔でチラチラっとしか見えないのが残念だな。やっぱスマホ拡大で悠ちゅわんを眺めるか。
スマホを通して見ているのは俺だけじゃない。保護者は当然として、応援席でもスマホで写真を撮る生徒は多い。
「うはー、やっぱいいよな短パン。体育の授業も短パンでやりゃあいいのに」なんて俺の双眼鏡を借りたヤンキーが喜んでいて、誰の太腿を拝んでいるんだか知らないが、全く以て同感だ。
表坂は体育の授業、男子も女子もジャージなんだよね。しかも夏場にジャージ。汗だくで蒸すこと、この上ない。
先輩の話だと去年までは私服でもオッケーだったらしいんだけど、今年からルールが変わったらしい。先生のイジメかよ。
ダンスが終われば次は男子の団体競技で騎馬戦だ。俺は馬役なんで、正直気が重い。
いや重いのは気だけじゃなくて、上に男子を乗せなきゃいけない重量もなんだけどね。
なんで男なんか担がなきゃいけないんだよ……悠ちゅわんだったら良かったのにー、のにー、のにー(エコー)
すべすべの太腿に挟まれて、って考えるだけで前かがみになっちゃう。だって男の子だもんっ💓
しかも六組合同でドタバタやんなきゃいけないわけで、スタートがかかると同時に目の前は砂埃で何も見えなくなる。
上に乗った島津が「あっちだ、あっちを狙え!」とか騒いできて、うるせぇ、あっちって言われてもどっちだよ?方角ないし方向で言えっての!
あいたっ!今、誰かが俺の足踏んだ!
うがっ!島津の生暖かい太腿が頬にあたって気色悪ッ!
練習の時も思ったんだけど、こんなん上に乗っている奴しか楽しめない競技じゃん。
中学の体育祭じゃ男子団体は組体操だったけど、あれのほうが、まだマシ!
馬役のハァハァいう吐息が、あちこちで聴こえんのもキモイ。まぁーハァハァは俺も言ってんだけどサ。
なにしろ乗っけている荷は重たいし、足場も視界も最悪だし、あちこち動き回らなきゃなんないしで。
なにがなんだか状況を把握できないうちに「あぁっ、しまったぁ!」と島津が叫んで、どうやら俺達は負けたらしい。
しばしの間を置いてピーッと甲高い笛の音、五組の馬が最後まで残った勝者だった。あー、やっと終わった、疲れたぁー。
急き立てられるように応援席へ戻った後は、二人三脚レースを眺める。
これこそ男女混合でやってほしかった競技だよな、リレーなんてのじゃなくて。
悠ちゅわんと肩を組んで走れるんだったら、真横でタプンタプン揺れるおっぱいを眺められるんだったら、本気を出しちゃうんだけどなぁ。
これにも小野山が出ていて、やっぱり奴が二組の色物レース担当なんだ。
昼飯を挟んだ後の応援合戦じゃ、一番気合入っていたのが各クラスの担任っていう摩訶不思議。
俺は安定の口パクで乗り越えて、女子100メートル走は一組のレンカがブッチギリの一位。
最初の50メートル走でも一位だったし、レンカすっげー足速い。
前のガッコじゃ陸上部員だったのかねェ?ってぐらい速かった。
なんで表坂では陸上部に入らなかったんだろ。陸上じゃモテなかったから?
それはさておき、この分だと最後の混合リレーでも出てきそうな予感がする。ガチじゃん一組。
その割に色物レースで、どれも順位が振るわないのは捨てに走ったのか。陸上競技一本に狙いを定めて。
考えこむ俺の目の前をキグルミが、どすどす走っていった。
被り物競争っていうんだそうだ、こんな競技初めて見た。
もしかしたら、これにも小野山が出ていたのかもしれんが、スタートを見逃したんで、どれがそうだったのかも判らねぇ。
判ったところで何だって気もするけど、こんなんじゃ。これまでの競技と比べて声援が少ないのにも納得だ。
頭から爪先までキグルミですっぽり包まれていたんじゃ、女子も男子も華がないじゃないの……
レース観戦の醍醐味は苦しみながら走る選手の表情と揺れる乳、この二つがキモだよね☆
次はパン食い競争かぁ。パン食い競争なんて小学校の運動会レベルの競技じゃね?
って思っていたら、女子が一斉にキャーッ!って騒ぎ出して、えっ、そこまで盛り上がるような競技だったっけ?
「小野山くーん!」って、あぁ、ハイハイ、あいつが出てんのね。
ってか、あいつ何種目出てたよ、今まで!?もしや色物レース全制覇したのか?どんだけ色物レース大好きっ子なの、小野山。
どのクラスも背の高い奴が代表で、一組も背が高いってか、ありゃ〜高柳か。ガチじゃん、色物なのに。
うちの代表も背が高い。ま、うちの場合は偶然なんだけどね。
スタート前から応援合戦になっていて、「小野山くーん、がんばって!」の他にも「ぶっちぎれー、ヤナ!」だの「三組ー、一位確定!」だの「いっけーバカ!」だのと応援席は大騒ぎだ。
何これ。俺も盛り上がらないと駄目なやつ?つってもなー。パン食いでしょ?紐でぶら下がったパンを取って走るだけの。
でっかい奴等が必死になってパンに噛みつこうとしてんのを見ているのはアレだ、プール際でアシカやオットセイに餌をやる飼育員の気分。
いまいち盛り上がれない俺とは異なり、応援席はスマホカメラで激写する面々や応援で声を張り上げる面々が気温を上昇させにかかっている。
皆、ちょっと盛り上がるタイミングがズレてない?一番盛り上がるのはラストの競技だと思うんだけどなー。
パン食い競争が終わったら、やっと最後の混合リレーが始まる。長いようで短……いや、フツーに長かったわ、この行事。
シャツは汗でビショビショだし、パンツの中も汗で蒸れて気持ち悪いしで、早く帰りてぇー。
冷たい水で濡らしたタオルを首に巻き付けながら、ただひたすら閉会式を待つ俺なのであった。

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