体育祭!

夏休みは終わり、体育祭が始まった。
この手の行事は嫌いじゃない。走るのは苦ではないし、団体競技にも興味がある。
ただ、問題があるとすれば保護者が見物に来てしまう点だ。
……あまり、父を友人には見られたくない。
悪い人間ではないんだが、だからといって誇れる父親かと言われると、そうでもない。
けして見に来るなと念を押したにも関わらず、先程、保護者の席にて父を見かけた。
ご丁寧にも、背中に竜虎のプリントが入ったTシャツを着て。あきらかに周囲から浮きまくっている。
だから、来てほしくなかったんだ……
まぁ、いい。今日は父に構っているほど暇じゃない。
全部で五つのレースに参加しなきゃいけないんだ。
個人競技に出るつもりはなかったんだが、誰も手を挙げず代表の決まらない競技が多く、そうこうするうちに担任が推薦で決めると言い出して、五種目出る羽目になった。
やる気のない俺達生徒と比べると、担任はやる気満々で、短距離と男女混合リレーの走者は足の速い順に選ばれた。
しかし、うちは陸上部員が一人もいないから、男女混合リレーは勝てないかもしれない。
空手部の先輩曰く、体育祭のラストを飾る、このリレーは陸上部員の晴れ舞台らしい。
男女混合リレーが一番盛り上がるのだとも言われたが、果たして、うちのクラスの連中が体育祭で盛り上がれるかどうかは甚だ疑問だ。
一応、練習は全員が真面目にやっていたんだがな……
俺の出場競技は借り物競争、障害物競争、二人三脚、被り物競争、パン食い競争。
いわゆる色物レース、お遊び要素の強い競技だ。
俺の足は遅くない代わり、とびぬけて速くもない。俺より速いやつは沢山いるし、その逆も然りだ。
だから担任も俺を、この競技に据え置いたのかもしれない。
色物レースに選ばれたのは、短距離で良いタイムを出せていない生徒だらけだ。
二人三脚での俺の相方はクラスで一番背が低い高藤で、やはり担任は足の速さのみで決めたと見える。
ほとんど余り物みたいな扱いの奴ばかりだから、全員相方との身長が合っていない。
身長が合わないと走りにくいのではないか?と思ったんだが、練習では意外や上手くいった。
背の低いほうがリードするかたちで走れば、歩幅があわないこともない。
練習は二人三脚しかやっていない。あとは、ぶっつけ本番となろう。
そして今日の気温だが、まだ夏なのではないかと錯覚するほど暑い。
この真夏日和で何種目も走るのかと思うと、それだけで熱中症になりそうだが、気力と水分補給で乗り切るしかあるまい。
「二組ー絶対、優勝!」
練習では渋々だったくせに、当日は全員が声をあわせて気合の入った応援だ。
なにしろ、応援しないと担任の激が飛んでくる。体育の成績にも関わってくると言われては、応援せざるを得ない。
プログラム進行は50メートル走から始まり、綱引き、借り物、玉入れ、障害物、創作ダンス、騎馬戦、二人三脚で前半が終了。
昼飯を挟んだ後半は応援合戦で始まり、100メートル走、被り物、パン食い、男女混合リレーで締めとなる。
最初は競技数の多さに驚いたんだが、競技によっては男女各一回しか走らないものもあり、玉入れと騎馬戦は全クラス同時に行うし、綱引きに至っては全クラスで同じ綱を引っ張るだけの儀式と化している。
何の為にやるのか謎な競技も多い。体育祭っぽいものを手当たり次第かき集めたんだろうか。
男子の50メートル走は、三回とも三組が一位だった。どうやら三組は有能な陸上部員に恵まれているらしいな。
続く女子の50メートル走で坂下の姿を見つける。
彼女の足の速さは、これまでにも何度か目撃しているから納得の代表だ。
予想通り坂下は余裕の一位を飾り、女子も三回終わったところで長い縄が運ばれてくる。
一学年全員で引っ張った後は、やっと出番だ。
俺は濡れタオルで顔と、それから綱で汚れた掌も拭っておく。
二組のラインに立った直後、「小野山くーん、頑張ってー!」と大声で応援する声があがって驚いた。
なんだ?これまでずっとクラス単位での応援だったのに、何故俺だけ名指しで応援されなきゃいけないんだ。
しかも、俺を応援しているのは二組だけじゃなさそうだ。あちこちから聴こえてくる。
生徒のみならず保護者席でも「育ちゃーん、がんばー!」と父が叫んでいて、猛烈恥ずかしい。勘弁してくれ。
「よぉ、人気者じゃんかよ小野山くん。オレら陸上部を差し置いてさァ」と絡んできたのは三組の……誰だ?
名も知らぬヤンキーは「けどレースじゃ絶対負けねぇから、優勝は三組がブッチギリで取っちゃるから。お前の出番は、ここで終わりなんだよ」と睨みを効かせてきて、色物レース出場者とは思えないぐらい気迫に満ちている。
ヤンキーなのに陸上部員で、しかも陸上部員を色物に出せるのか。三組の余裕風が羨ましい。
やる前までは適当に流そうと考えていたが、喧嘩を売られた以上は負けたくない意識が俺の心にも燃え上がる。
幸い、借り物競走に足の速さは関係ない。運だ。うまいこと借りやすい物を引き当てた者が勝つ。
パァン!とピストルが鳴った直後、飛び出した。
いいスタートが切れたのは良かったんだが、地面に置かれた紙を開いた直後、俺は硬直する。
紙には『シルバーアクセサリー』としか書かれておらず、つまり、その……シルバーアクセサリーとは何だ?
銀色の貴金属なら何でもいいのか、それとも、これは固有名詞なのか?
判断がつかず困ったが今は競技中、誰かに尋ねることも出来ない。
とりあえず、俺は叫んでみた。
「この中で銀色のアクセサリーを所持している人がいたら、貸してくれ!」
俺を見て驚いた顔を見せた三組のヤンキーも、負けず劣らずな大声で「誰かー!アルミホイルの芯プリーズッ」と叫び出し、あちらもあちらで妙な物を借りなきゃいけないようだ。
俺達の呼びかけに応援席及び保護者席は大きくざわめき、何人かが一斉に席を立つ。
「これ、これぇ!私の髪留め、小野山くん、使ってぇぇぇー!」
大声で真っ先に走り寄ってきたのは、誰なのかは判らないが化粧の目立つ女子だ。
彼女を追いかけるように走ってきた女子も「こっちがいいよ!こっちのほうが小さいし!」と銀色のイヤリングを差し出してきて、あぁ、この子は確か坂下の友人だったか?
他にも銀色のボタンや銀色の指輪などを手に女子が集まってきて、そんなに沢山要らないぞ。
だが、さすがは女子。体育祭でもアクセサリーは持ってきているんだな。
借りるのは一番手前で差し出された銀色のボタン、これでいいか。
銀色のアクセサリーを持って駆け寄ってくる女子の間をすり抜けて、アルミホイルの芯を握って走るヤンキーを追いかける。
一気にゴールまで走り抜けた瞬間、どっと汗が出た。
背後では「あぁっ、クソッ、負けちまったー!」と叫ぶヤンキー、最後まで名前は判らずじまいな相手だが、勝てて良かった。
「ウォォーッ!小野山ー、いいぞー!」と、二組応援席が沸いている。
応援してくれた皆の期待も裏切らずに済んで何よりだ。
この一競技だけで力を使い果たしてしまいそうになったが、体育祭は始まったばかりだった。
水飲み場へ歩いていくと、俺は頭から水をかぶる。水で濡らしたタオルで拭く程度じゃ、汗が引きそうにない。
少しでも休んでおきたいが女子のレースが終われば次は団体競技で、それが終わったら、また出番がやって来る。
休む暇がない。一人で五競技出場は、やはり無理があったのではなかろうか。
呆然とする俺に、同じクラスの桂木が囁いてくる。
「小野山、玉入れは適当に流しといていいから」
「……え?」
「団体競技は点数低いんで全部流していけって、コレ、山倉先生の作戦な」
走者選択だけに留まらず全体の作戦まで立ててくるとは、生徒よりも体育祭への意気込みが半端じゃない。
桂木曰く、担任が言うには各個人競技で二位三位につけておけば、陸上部員皆無の二組でも勝つチャンスはあるそうだ。
俺を全色物レースに出場させたのは、空手部ならではの体力に期待しているらしい。
こうなったら山倉先生の期待にも答えてやるしかない。
玉入れを適当に投げて終わらせた後は、障害物競走のラインに立つ。
皆しきりに腕で汗を拭っているが、先ほど水をかぶったおかげで俺の汗は引いている。万全だ。
さっきの玉入れで張り切ってしまった奴は、しきりにシャツを引っ張って風を送っているしで、真面目に参加していたら俺もああなっていたのかと思うと、流す作戦を事前に教えてくれた桂木には感謝だ。
そこへ「あーっと、小野山じゃん!一緒のレースだなんて運命感じちゃうな〜」なんて気持ち悪い発言を寄こしてきたのは後藤で、一つ隣の列から手を伸ばしてくる。
「うわー汗ビッショリ〜!腕ベッタベタじゃあん?五種目制覇ってマジだったんだぁ?タオル貸したげよっか?あ、それとも、こっそりシャワー浴びてきちゃう?モチ、二人っきりでネ!」
他の奴も見ているというのに、俺への欲望を一切隠そうとしないのは珍しい。
体育祭のテンションと直射日光を浴びすぎて、奴の中の少ない理性が飛び散ってしまったんだろうか。
スタート直前まで気持ち悪い話題を振られ続けたせいか、レースは散々な結果で終わった。
いや、後藤のせいばかりにはできないか。ハードルは正直にいうと、全然得意じゃないんだ。
飛ぶのではなく倒せというんだったら、楽勝だったんだが……
しょげかえっていたら「小野山、ドンマイ」とクラスの面々には慰められて、俺は気持ちを仕切り直す。
高藤がチョコチョコ走ってきて、俺に耳打ちした。
「あのさ、二人三脚は捨てていいって、先生が」
「何故?」と尋ね返す俺に、ちらっと担任のほうを見てから高藤が言う。
「六組がガチ練習してて完璧チームワークなんだって。だから、パン食いと被り物で稼いで欲しいって」
パン食い競争は男女各一名のみ参加、つまり俺の独壇場だ。
ただしパン食いと被り物は続けての競技だから、どちらかを捨てようと考えていた。
どちらも頑張れとは、先生も酷なことを言うじゃないか……
いくら俺が空手部だからといっても、体力は無限じゃないんだぞ。
気落ちしたのが他の面々にも伝わったのか、それぞれが大声で叫ぶ。
「よーし!100メートル走、絶対一位取ってやるかんなー!」
「俺もー!俺も被り物でトップ狙ってやるー!」
「二組、逆転優勝ーっ!ね、皆、男女混合レースは絶対制覇しよッ!」
「おうともよ!」
ここへきて、やっと二組に連帯感が生まれた。
現在の総合得点は、三組が断然トップ、二位は意外や一組、二組は三位につけている。
三組は陸上部員、一組は女子が強敵だ。
「あっ、次ダンスじゃん。いってくるね」と女子が走り出し、一組から順に整列する。
坂下は一番前か、短パンがよく似合っているな。
その手前で「激写激写ァ!」と叫んでいるのは後藤だけじゃない。
周りを見渡してみれば、他の男子も席を離れてスマホを構えた状態で開始を待っているじゃないか。
ふむ……写真に撮りたくなるほど素晴らしいダンスなのか?
俺は急いで保護者席まで走っていき、父へ話しかけた。
「父さん、カメラ貸してくれ」
「あっ、育ちゃん障害物レースお疲れ様ぁって、カメラ?これでいい?」
父の周りの保護者が俺を指さして何か言っていたようだが、まさか他の保護者に妙な話を吹き込んだんじゃなかろうな……
いや、父に構っている暇はないんだった。
すでに音楽が始まっている。応援席まで戻った俺の目に映ったのは、寸分の乱れもなく動きを合わせる女子のダンスであった。
特に坂下、普段はダンスなどしそうにないだけに貴重なものを見てしまった気分だ。
どうせなら使い捨てカメラなんかじゃなく、皆のようにスマホの動画で撮りたかった。
踊り終わって応援席へ戻る途中の坂下を後藤が呼び止める。
「よー坂下!お前も女子だったんだな」
「あー?」と目つき悪く返してくる彼女にも、後藤が臆した様子はなく。
「そう睨むなって、お前の勇姿を写真に収めてやったんだし!な、小野山。お前もバッチシ撮っただろ?」
まさか、こちらに話を振ってくるとは思ってもみず、俺は立ち尽くす。
「おめー、それ、使い捨てカメラじゃねーか!そんなの持ち込んでいいのかよ!?」
おまけに坂下には大声を出されるやらで、周りの視線が俺達に集まってしまう。
「父に借りたんだ」
「保護者ならセーフだよなー」
「はーぁ?んで?なんで、お前ら二人揃って俺のダンスなんざ撮ってんだ?」と坂下には、なおも追及されたので答えておく。
「格好良かった……だから、写真に撮ったんだ」
言ってから、だんだん恥ずかしくなってくる。
後藤と坂下が驚愕の眼差しで見つめてくるせいだ。
「お前らがそう来るなら、俺もお前らを激写してやっからな!覚えてろよ、二人ともっ」
「へへーん、俺もう後は個人競技ないもんね」
後藤の出番は前半戦で終わりなのか。
もう妨害されない安堵感に俺は溜息をつきつつ、一言断っておく。
「なんでもいいが、パン食いだけは撮らないでくれ」
「は?なんでパン食い限定なんでェ」と坂下には不思議がられたが、後藤は何かを察した顔で手を打つ。
「あー判る!パンに食いつく瞬間って、どうしても間抜けな顔になるもんな」
その通りだ。あれは参加した奴にしか判るまい。
「それよっか騎馬戦の勇姿を激写してくれよな!」と言って、後藤は走り去る。
そうだ、悠長に話している場合ではなかったんだった。
もうすぐ騎馬戦が始まる。
まだ何か言っている坂下を置き去りに、校庭の中央へ向かった。
俺達二組は早めにハチマキを取られる作戦で乗り切り、次の二人三脚も歩きといったほうが正しい速度で体力を温存する。
だいぶ疲労は回復できたが、それでも汗が止まらない。
「おい小野山、昼休みの間にシャワー浴びとこうぜ!」
「使えるのか?」と驚く俺に、言い出しっぺの近松が頷く。
「先生に言ったら、水泳部のシャワー使っていいってよ」
そういや山倉先生は水泳部の顧問なんだったな。
職権乱用という気がしなくもないが、水飲み場だけじゃどうにもならないぐらいベタベタになっていたんだ。
ありがたく使わせていただこう。
「桂木ー、いちおー誰か来ないか見張っといて」
「おう」
見張りに一人立たせて、俺達は上から下まで全部脱ぐ。
この真夏気温で下にジャージ着用なんて、狂っているとしか思えない。
シャツは勿論、ジャージやパンツも蒸れに蒸れて、絞れそうなほど汗で重たくなっていた。
「うわ、臭っ。あっせ臭ぁ〜。最悪だわ、このイベント」
自分のパンツを摘み上げて、近松が騒ぐ。
「汗だけかぁ?臭い元」と清水が笑う横で「ついでにジャージも洗っちまうか?」と上原が言うのへは「それより身体洗ったら交代してくれぇ〜。俺も早く浴びたい」と桂木の催促が飛んできて、ざっと頭から水をかぶった俺は場所を譲ってやる。
「あ、小野山は、もっとちゃんと冷やしといたほうがいいぞ」
「大丈夫だ」と言ったんだが、桂木にはシャワーの下へ押し戻されて、仕方なく、もう一度全身に水を掛ける。
「そうそう、マツグロが言ってたんだけど、暑い時は股間冷やすといいんだってよ」
「はー?マジか、それ」
「マジマジ、熱中症対策なんだってよ」
近松の言うマツグロってのはボクシング部の顧問、松黒先生のことだ。
まぁ、股間だけといわず冷たい水を、これでもかと全身に浴びたんだ。これなら最後まで保つはずだ。
「あ、やべ、タオル忘れた」
「ジャージで拭いちゃえ」
「洗った意味ねぇーよっ」
俺は持参のタオルで全身を拭いた後、洗ってからギュッと固く絞って上原に差し出した。
念のために持ってきておいて良かった。
全身ずぶ濡れで帰ったら、さすがに他クラスの先生にも感づかれてしまうだろうからな。
「使うか?」
「サーンキュ、小野山!」
上原が体を拭く横では、俺を見上げて清水が笑う。
「小野山さぁ、ホントやばくなったら棄権してもいいからな?こんなん無理してまで優勝狙うことないって」
「そうそ、負けても頑張ったで賞ってんで、終わったら打ち上げ行こうぜ」
上原は100メートル走、清水と近松は被り物、桂木は最後の混合リレーに出る。
「清水も無理するなよ」と気遣ったら、「おう、やべぇって思ったら即脱ぐわ」と返ってきた。
シャワーのおかげで、すっきりした。これならキグルミだろうとハリボテだろうと問題なく走れるはずだ。
そう、思っていたんだが――
被り物が終わった瞬間、猛烈な目眩に襲われ、軽く立ち眩みを起こす。
兎のキグルミが、あそこまで密封された物だったとは……誤算だ。
清水は、さっき保健室へ運ばれていった。
シャワー効果も甲斐なく顔面紅潮の汗だくになっていたから、熱中症になっていないか心配だ。
全く、暑さで倒れる生徒が続出だというのに、まだ続けるつもりな先生方には呆れて物も言えん。
応援席へ戻りかけた俺は、桂木に腕を引かれて立ち止まる。
「どうする?パン食い競争。棄権するか?」
「いや」と首を振り、再び蒸れてきたジャージを引っ張りながらコースへ向かいかけたんだが、それも桂木に止められた。
「女子が終わってからな。だいぶ頭がボーッとしてきてるみたいだけど、本当に大丈夫か?」
「やる」とだけ答え、何度目かの水飲み場で水をかぶった。こうなったら意地だ、意地で全部出てやる。
保健室で休むわけにもいかない。俺だって最後の混合リレーを応援したい。
パン食い競争で全力疾走した後は、応援席に身を投げだした。もう駄目だ、目をつぶると赤い光がグルグル回っている。
『本日最後の競技、男女混合リレーが始まります』
ミナケレバ。
両目を無理にこじ開け、しかしながら声は全く出てこず、俺は心の中で精一杯、走者の四人を応援した。
いいぞ、二組がトップだ。そのままトップを保ってゴールするんだ。
だが最終コースで一組のアンカー、あれは見間違えようもない坂下だ、坂下の小さな体が、ぐんぐん迫ってきて、あっと思う間もなく二組のアンカーは抜き去られる。
なんだ、あの速さ。こんな炎天下で、シャワーも浴びたように見えないのに、どうやって体力を温存していたんだ。
恐るべし坂下。あんな足があるなら、空手部ではなく陸上部に入るべきだ。
ガンガン痛み始めた後頭部を手で抑えながら、俺は、ぼんやり考えた……

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