二十四周年記念企画・if短編

女体化ハリィと色欲な仲間たち

その日、なかなか集合場所へやってこないリーダーに業を煮やしてボブが迎えに行くと、扉を挟んでの会話越しでハリィが言うには。
「身体に異変だぁ!?だったら今すぐ医者行きゃいいじゃねぇか、なんで家に閉じこもってんだヨ」
「それが……どの分野にかかればいいのかも判らなくてね」と、扉の向こう側での歯切れは悪い。
具体的にどんな病状なのか見せてみろと問い詰めても、人前に出るべきではないの一点張りで、次第にボブはイライラしてきた。
自分とは何でも言える間柄だというのに、ハリィは何を躊躇しているのだろう。
こうなったらドアを蹴破ってでも確かめてやる。
じりじり後退する気配を扉越しに感じ取ったのか、体当たりをぶちかます前に「待て、ボブ。今鍵をあけるから、実際に見てくれないか?」と、やっとこハリィも扉を開けてくれた。
最初から、そうすりゃいいのだ。
素早く左右を見て、誰もいないのを確認してから中へ入る。
部屋の中は、いつも通りだ。ハリィはベッドの上に座っていた。
ここ最近はクソ暑い気温になってきたというのに、すっぽり布団をかぶって。
「なんでェ、寒風病か?」
寒風病というのは夏にかかる病気で、体中に悪寒が走り、酷い時には高熱が出る。
診てもらうのは、どの分野の医者でもいい。
解熱剤と栄養剤をもらえば数日で治る軽い病気である。
「いや、病気というか……とりあえず見て欲しい。その上で、君の意見を聞きたい」
ばさっと毛布を投げ捨てて身を晒したハリィに、何をもったいぶっているんだろうと初め、ボブは思ったのだが……
顔、胸、腹、腕、太腿、踝と順に見ていき、ン?となった。
もう一度、頭のテッペンまで視線を戻して、順繰りに見ていったボブは今度こそ「ハァ?」と大声をあげる。
「お前、なんだ、その胸?」
いつもは薄い胸板が、不自然なほど膨らんでいる。
かといって肥満というのでもなく、まるで女性の胸のような盛り上がり型だ。
男の胸が膨らむなんて病気は、これまで一度も、お目にかかったことがない。
分野が判らないとする親友の気持ちも、実際に状況を見た後でなら、よく理解できた。
「ツメモンってわけじゃねェよナ?」
「詰めてどうするんだ?」
質問に質問が返ってきて、自分でも愚問だと考えたボブは、ハリィの隣に座る。
「ちょっとまくってみろ」
素直にシャツを捲り上げた親友の胸に触ってみると、意外や弾力を感じてギョッとなった。
握ると芯を感じるから、肉体の一部で間違いない。
なおもハリィの胸をモミモミ無言で揉みながら、ボブは考えた。
胸が膨らんでいるというだけで、乳首の先っちょが色っぽく見えるのは何故だろう。
ついでだからと、乳首にも触ってみた。
人差し指と親指で摘んだだけで乳首は硬さを増してツンと尖り、「そこは触らなくていいだろ」とハリィには怒られてしまった。
「お、おう。いや、乳首にも異変があるんじゃねーかと思ってヨ」
慌てて取り繕うと、ボブはゴクリと唾を飲む。
「……変化があったのは胸だけなのか?」
「鋭いな」とポツリ呟き、ハリィが俯く。
「お察しの通り、下はあるべきものがなくなっていてね……完全に女体になってしまったんだ。だが、原因が」
「見せてみろ」
「は?」
「下も見せてみろってんだヨ。ホレ、パンツを脱いでみな」
「いや、脱がなくたってズボン越しの目視で判るだろ?俺のが、いくら君より小さかったとしても」
一旦はおどけてみせたけれど、ハリィは素でドン引きした。
だってボブときたら、目をギラギラと血走らせて鼻息まで荒くしているじゃないか。
女体を見るのが初めてな思春期の少年でもあるまいに、何を興奮しているのだろう。
しかも相手は悪友兼親友のハリィだ。興奮する要素なんて、どこにもない。
それとも、この奇病を見た人は、皆こうなってしまうとでも?
悩んでいたので、ハリィは反応が遅れた。
ボブがガバァッと勢いよく抱きついてきて、ベッドに押し倒される。
「ま、待てっ。見なくても判るし、君が見たって治し方は判らんだろう!?」
ぐいぐいズボン、それからパンツを下に降ろそうとしてくるボブの手を両手で掴んで阻止しようとするも、相手は遥かに怪力、かつ全体重で伸し掛かられていたんじゃ分が悪い。
抵抗虚しくパンツは引き下ろされて、金色の毛に覆われた恥丘がお目見えする。
恥丘というに相応しい、のっぺりした股間には何もついていないばかりか割れ目まで存在していて、そこにボブが舌を這わせてくるもんだから、ハリィは心底驚いた。
好きな女性ないし娼婦ならともかくも、女体になったというだけで顔は元のままの親友の股間を舐めるなど、正気の沙汰ではない。
「よせって!正気に戻るんだ、ボブッ……」
どれだけ止めてもボブの勢いは止まらず、舌を割れ目の奥にねじ込まれた瞬間、ぞくっとハリィの背中を悪寒が駆け抜ける。
このままやられっぱなしでいたら、こいつ、挿入するんじゃあるまいか。
そんな予感がしてならない。
現にボブはズボンのチャックを降ろしており、片手で己のブツを扱いている。
力のかぎり引き離そうと無駄な努力を繰り返すハリィの唇を、ボブの唇が塞いできた。
ただでさえ重量圧の上、口まで塞がれたんじゃ息が苦しい。
「んんっ」と呻くハリィの頬を涙が伝って落ちる。
こんなことなら絶対扉を開けるべきじゃなかったと考えるハリィの耳が、「なっ!何やってんですか、ボブ軍曹!?」といったジョージの悲鳴を聴き取った。
しまった。ボブの奴、鍵をかけるのを忘れたのか。
重ね重ね、ろくでもない真似をしでかしてくれる。
「ちょ、ちょっと、相手は大佐でしょ!?目を覚まして――」
言いかけて、ジョージの目は点になる。
視線はボブの下敷きになっていたハリィの股間に釘付けだ。
「え?あれ?大佐じゃない?えっ、でも、ここって大佐の家ですよね?」
ハリィを呼びに行ったボブが、あまりにも遅いから迎えに来てみたら、ボブは何でかベッドの上で盛っており、しかも襲われていたのがハリィではないとなれば、ジョージが混乱するのも尤もだ。
ともかく、んじゅるるると不快な音を立ててキスし続けていたボブを無理やり引っ剥がして、襲われていた相手を不躾に眺める。
顔はハリィだ。
苦しそうな息を吐き出して「あ、ありがとう、助かったよジョージ」と呟く声も本人のもので、じゃあ、この人物はハリィ本人?
しかしジョージの記憶にある大佐は男で、昨日だって男だった。当たり前だが。
捲り上がったシャツの下には、どでかい乳房が垂れ下がっているし、ずり降ろされたパンツの中身は女性器が覗いている。
そこは唾で濡れてテリテリと赤く輝いており、ジョージはゴクリと唾を飲み込む。
女体を見るのは初めてではないし、性の経験だってある。
なのに目が離れない、離せない。
「なっ、エロイだろ」と耳元でボブが囁いてくるのに、知らず頷いていた。
指で開くと奥までよく見える。
作り物なんかじゃないのは、ちょいと指で陰核をつついた途端「くぅっ」と小さくあげたハリィの喘ぎでも判る。
すぐに「な、なんで今触ったんだ?」と指を跳ね除けられたジョージは、動揺した目で言い繕う。
「あ、いや、その。本物かな?と思いまして」
「触らなくても見りゃ判るだろ、本物だよ」
目を逸らしてぼやくハリィも頬が紅潮しており、こんな会話を繰り広げているの自体が気恥ずかしくなってきた。
気恥ずかしいのもさることながら、大佐の動作言動すべてを可愛いと感じている自分にもジョージは動揺する。
バカな。可愛いなんて言葉、普段のハリィからは最も縁遠い言葉じゃないか。
いや……そうでもないか?
改めてジョージは普段の大佐を思い返す。
非力を恥じたり自虐的なジョークを飛ばす彼には愛嬌を感じたし、釣りや銃のコレクションといった趣味を語っている時は、どこかしら少年味があって可愛い。
そうだ、元々可愛かったんじゃないか、大佐は。
なら女体と化した彼を可愛いと感じても、なんらおかしくない。
ジョージが自身の思考で軽く混乱している間にも、ボブは野獣のごとく再びハリィへ襲いかかっており、どんなに「やめろって!」と嫌がられても、己のいきり立ったブツを突き入れる気満々だ。
そこへ「おい、どうしたんだ?大佐いなかったのか」と入り込んできたのはカズスンとモリスで、二人共、入ってすぐ部屋の異常事態に気づく。
「ちょ、何やってんですか軍曹!大佐にキスするとか正気ですかッ」
「やめなさい……っての!」
二人がかりでボブに掴みかかって引き剥がしたら、今度はジョージがハリィの股間に吸い付いて二度仰天させられた。
「お、お前まで何やってんだっ」
「いや、待てカズスン!あれ、あれっ!アレ見てみろ、アレがない!」
滅茶苦茶動揺したモリスが指差す先をカズスンも見て、三度目の仰天が彼を襲う。
ジョージがベロベロ舐め回しているのは誰がどう見たって女性器の形をしており、本来そこになきゃいけないはずの陰茎が何処にもない。
「えっ、誰これ!?いや大佐……ですよね?」
「だよな!もしかして性転換ってやつですか!ウソッ、大佐が性転換したのォ!?」
目の前では引き剥がされたはずのボブが性懲りもなくハリィの上においかぶさって、乳首に吸い付いている。
胸と股間の同時攻撃にハリィは為すすべもなく、精一杯弓なりに背を反らして「う……くぅっ……」と小さく呻くばかりだ。
嫌でたまらないのに、身体が勝手に刺激に反応してしまう。
乳首は今や尖りに尖りきって摘まれるたびに痛みまで感じたし、始終舐め回されている股間には火照りを感じた。
淡い吐息にゴクリと唾を飲み込んだのは、どちらであったか。
あるいは両方だったかもしれない。
カスズンは無言でハリィの脇に顔を埋めると、匂いと味を堪能する。
普段のハリィだったら嗅ぎたくもない汗の匂いが、女体というだけで甘美な匂いに変わるのは我ながら不思議だ。
尻の穴にはモリスの指が入り込み、グチャグチャ掻き回してくる動きにハリィの口からは「うぁっ」と喘ぎが漏れる。
上に伸し掛かって、ハッハと犬の如き荒々しい息を吐いたボブが囁いた。
「ナ、いいだろ?ハリィ。挿れさせてくれヨ」
「い……いや、だっ……!」
はっきり拒絶したというのにギラギラした狂気は去ってくれず、ボブは血走った目で「んなら、したくなるまで弄り倒してやらぁ」などと悪人めいたことを宣うではないか。
ちゅぅっと陰核を吸い上げたジョージが、にやりと笑う。
「充分感じているみたいですけどね、大佐は。ここんとこも引くつかせちゃって」
膣に指を這わされた瞬間、びくっと身体が跳ね上がる。
意識しない動きだったというのに、ボブも「いやらしいなぁハリィちゃんは、触っただけでイッちまったのかァ?」と下卑た笑みを浮かべて煽ってくる。
頬を流れる涙は止まりそうにない。
最初は抵抗できない無力の悲しみだったのが、今は悔しみで。
狂気の輪姦宴を食い止めたのは、最後のメンバーが部屋に入ってきた時であった。
「もー、昼になっちゃうじゃん。誰よ、朝イチで会議しようなんて言い出したの」と愚痴るレピア、そして「文句言うなよ、もしかしたら病気なのかもしれないしさ」と宥めるルク、「あれ?ドアが開いて……大佐ー、いらっしゃるんですか?」と足を踏み込んだバージの三人だ。
入った瞬間、異常な光景に出くわして、ルクとバージは「え?はっ?」と固まるが、レピアの反応は迅速で、「ウルァッ!」と怒号一閃、蹴り出した足は確実にボブの股間をクリーンヒットする。
「ボゲァッ!」と叫んでハリィの上から転がり落ちる軍曹など見もせずに、次々と金的でノックアウトしていくさまは、見ていて壮観だ。
先輩だというのに全く躊躇がない。
「な、なにをするんだぁ」と股間を押さえて蹲ったモリスの文句に「変な真似してるほうが悪いんだよ!」と答えたレピアは、改めてハリィに目をやった。
上は胸丸出し、下も股間丸出しで、しかも勃起している。
ハリィは荒い息を吐き、汗を腕で拭いながら「あ、ありがとう……」と呟くのが精一杯、下を隠す素振りさえ見せないもんだから、この際じっくり拝ませてもらった。
あまりにも見すぎたせいか「何ジロジロ見てんだ」とルクに邪魔されて、勃起したものは布団で隠されてしまったが。
部屋のあちこちで股間を押さえて悶絶する仲間を一通り見渡した後。
「一体どうしたってんです、こりゃあ」
呆れた表情を浮かべてバージも問うが、ハリィはポツンと「訳が分からない……悪夢だったのかな」と言うばかりで、結局ここで何があったのかは判らずじまいだ。
きっと部屋の蒸し暑さのせいで、皆おかしくなってしまったんだ。そう思うしかない。
今日は何もしなくても背中に汗をかく気温だってのに、冷房もつけていないんじゃ。
ひとまず「シャワーあびたら、気分直しに一杯引っ掛けましょうぜ」と、バージはハリィを慰める。
彼のシャワーが終わるまで、三人は無断で冷房をかけて寛いだのであった。


End.