第二話 真夜中の攻防
次に目覚めた場所は、真っ暗な夜空が広がっていた。俺は道路の真ん中で大の字に横たわり、星空を眺めていたのだった。
やがて足音が近づいてきたかと思うと、俺を覗き込んでくる顔がある。
「……何これ……死体?」
いや、顔じゃない。
正確にはチンチンブラブラだ。
目の前で振り子のようにぶら下がるそいつを、俺は邪険に払いのけて立ち上がる。
「なんだ、お前は。わいせつ物陳列罪で捕まっても知らないぞ?」
「おっ……おごぉぉぉぉ……っ」
俺にチンコを思いっきり手で払われ、そいつは蹲って呻いている。
少々可哀想な真似をしてしまったかもしれない。
だが、いきなりバッチィもんを他人の顔面に突きつけてくるほうが悪い。
見せてもいいのは女の子だけ、それも可愛い女の子の陰部だけだ。
「ちょっと、何してんのよ樽斗ー。遅いから捕まったかと心配――」
タッタッタッと軽い足音が近づいてきて、高いキーが話しかけてくる。
相手が気づくのと同時に俺も、そちらを振り返って唖然となった。
近づいてきたのは目元のぱっちりした可愛い女の子だが、何も履いていない。
先ほど俺を覗き込んできたチンコ野郎同様、下に何も履いていないのだ。
こいつは珍しい。
女のストリートキングとは。
俺を見た途端、「やばい、警察!?」と叫んで、女の子が身を翻す。
一応警察に捕まったらヤバイという自覚は、あるらしい。
「まてまて、ハニーちゃ〜ん」
俺は後を追いかけてみることにした。
上手く捕まえれば、あんなことやこんなことも……グヘヘヘ。
入り組んだ街を追いかけ回すうちに、彼女の背中を見失う。
くそ、意外と足が速いな。
それに今になって気づいたが、ここは一体何処なんだ?
小さな街にいたはずなのに、いつの間にか大きな街へ移動していた。
サーカスのテントは、何処にもない。
あるのは煉瓦造りの家ばかりだ。
そいつがずらっと立ち並ぶ街並みは、どこかヨーロッパを思い起こさせる。
ま、実際に行ったことはないんだけどな。ヨーロッパ。
今は真夜中、表通りを歩く人影は一つもない。
いるのは俺ぐらいなもんだ。
いや、あとはチンチンブラブラ野郎と、さっきの丸出し少女もか?
大体、あの二人は何なんだ。なんで下を履いていないんだ。
二人でエッチしていた――にしても、終わったんならパンツぐらい履けっての。
全く、風紀の乱れた街だぜ。
なんて溜息をついていると、軽い足音が背後から迫ってきた。
「――!」
俺に追いつく前に足音が急停止したので、そっと振り返ってみる。
あぁ、やっぱり。さっきの連中の仲間だ。
だって下を履いていない。
先ほど殴った奴よりも遥かに小柄な少年が、俺をじっと凝視していやがる。
チンチン丸出しでも全然恥ずかしがる様子がない。
そういう街なのか?
下は履かないのが主流なんだろうか、この街の。
「おい、お前」「お前……警察じゃないな?」
俺と少年の声が重なる。
「いや、俺は警官じゃない」「何者だ」
また重なった。
「何者って……名前は颯斗だけど」「颯斗?」
またかよ。まずは俺の話を聞いた上で、聞き返せって。
せっかちな小僧め。
「まぁね。そういう君こそ何者」「樽斗の兄弟か?」
いい加減にしろ。
「俺は旅行者だ」
胸を張って答えると、少年はしばし思案していた。
よし、油断している今なら捕まえられるかもしれない。
さりげなさを装いながら、俺は一歩、二歩と彼に近づいた。
「ここへは来たばかりでね。旅館があるなら教えてくれないか?」
「…………」
黒い瞳が俺を凝視するだけで、返事はない。
「頼むよ」
手を伸ばせば届く範囲まで近づいたところで、俺は行動に出た。
野獣の如き勢いで、とまではいかないが猛烈な体当たりで少年を押し倒す。
「うわっ、何を」と驚く少年をうつぶせの状態で押さえつけ、俺は尋ねた。
「さっき、お前と同じ丸出しな格好で女の子が走っていったんだ。その子がどこへ行ったか知らないか?俺は、その子に用があるんだ」
途端に、俺の腕の中にいる少年が身を固くする。
「風花に何の用だ」
ほぅ、風花ちゃんというのか。愛らしい名前だ。
「もちろん決まっているだろ?セックスするのさ」
「せ、くす……?」
きょとんとしている。セックスを知らないお年頃だったか。
あえて説明はせず、さらに彼女の居場所を追及した。
「風花ちゃんのおうちは何処だ?お前、知り合いだろう」
「お前には教えない」
強情な奴め。
すぐ後悔することになるぞ。
俺は奴の白い尻をナデナデしまくった。
男の尻を撫でるなど、本来なら虫酸が走るほど気持ちの悪い行為である。
だが、この少年は下についている物さえ意識しなければ、女の子にも見える顔をしていた。
長い睫毛といい真っ黒で大きな瞳といい、女装したら、きっと栄えるに違いない。
そうだ、チンチンブラブラなどついていないと考えれば、こいつは立派に女の子だ。
ぶらさがる物だって、後ろから見る分には見えないし。
それに、こいつの尻。
女の子みたいにすべすべしていて触り心地がいい。
「や、やだ……っ」と呟く声も高くて、女の子みたいだ。
両目をかたくつぶり、ぶるぶると震える姿なんざ、今からレイプされそうになって怯えている女の子そのものだ。
よし、決定。お前は今から女の子。
「さぁ早く、風花ちゃんのおうちを教えろ。じゃないとお前の尻へぶち込むぞ」
「ぶ、ぶちこむって……何を」
「何って言ったらナニに決まってんだろ?アァンッ?」
調子に乗って尻の割れ目へ指を突っ込むと、少年がびくんっと弓なりに体を反らせる。
うわぁ、なんだこれ。可愛いじゃん。
男じゃなかったら、速効突っ込んでいるところだぞ。俺の熱いマグナムを!
「ちょっと!誉ちゃんに何してんのよ、そこの変態ッ」
俺がいきり立つのと、俺の後頭部に堅い物がぶつかったのは、ほぼ同時で。
叫び声すらあげられず、俺は痛みにのたうち回った。
「誉ちゃんを押し倒していいのは、あたしだけなんだからね!勘違いしないでよねッ」
甲高い罵声を聞きながら、俺は後頭部を押さえて蹲った。
オォォォ、痛ぇ。何しやがんだ、コノヤロウ。
何かをぶつけられた箇所が恐ろしいぐらいズキズキ痛む。
少しでも気を緩めたら、涙が出そうだ。
軽い足音が近づいてくる。が、俺は立ち上がる事も出来ずに這い蹲るしかない。
最初に素足、生太ももと順に見上げていって、桃色の痴毛と三角のお股を見た。
あれ、これは……?
「誉ちゃん、大丈夫?卑猥な真似されなかった?」
俺の体を足でごろんとけっ飛ばし、女の子が少年を抱き起こす。
そうだ、さっきの女の子だ。桃色の痴毛には見覚えがあった。
「う、う……風花、龍輔は?それに樽斗も」と少年が小さく囁いて、風花ちゃんは眉間に皺を浮かべながら答える。
「龍輔ぇ?知らない、どっかでサボッてんじゃないの。樽斗なら、さっき道で股間を押さえて蹲っているのを見かけたけど」
樽斗ってのは、俺が先ほど仕留めたチンチンブラブラ野郎か。
風花ちゃんは俺に背を向け、完全に油断している。
これなら……これなら、やれるっ。
俺はじりじりと躙り寄り、両手を組み合わせて人差し指を立てると、一気に突き入れた!
どこって、風花ちゃんのお尻の穴に。
「ぎゃぴぃっ!?」と叫んで、風花ちゃんが文字通り飛び上がる。
どうだ、思い知ったか。後頭部のお返しだ。
いくら可愛い子の仕打ちといっても、限度があるぜ。
倍返しにしてやる。
俺は突き入れた指を、ぐりぐりと奥へ進ませてやる。
「あ、ぎ、や、やめてよ、このヘンッ……タイ……ッ!」
身をよじらせて俺の指を引き抜こうとしてくるが、いかんせん体勢が悪い。
くちゅくちゅと中の肉を突いただけで、彼女は糸の切れたマリオネットになった。
「や、うっ……だ、だめぇっ、そこは、誉ちゃんだけがしていい場所なのぉっ」
知るか、そんなの。
俺に攻撃した報いを、たっぷり受けるがよい。
指の動きを激しくすると、風花ちゃんは俺の腕を掴むのも忘れて身を丸くする。
完全無防備なお尻が、俺の目の前に差し出された。
指を入れたまま、白いお尻に舌も這わせる。
べろんべろんと俺の舌が舐め回すたびに、風花ちゃんはビクビクと体を震わせた。
「や、やぁ、だめ、だめぇ」
「ゲッヘッヘッ。浣腸で感じるとは、いやらしい女の子だね風花ちゃん」
「ち、違うの、違うのぉ……」
違うと言いつつ、口からは涎が垂れている。
嫌がりながらも感じているんじゃないか。
「誉ちゃん、しっかり見ていろよ?これから大人のセックスを見せてやるぜ」
誉ちゃんこと先ほどの美麗少年は、ポカンとした表情で俺達を見ている。
いや、正確には悶える風花ちゃんを唖然と眺めているのだった。
きっと風花ちゃんが悶えるさまを、今まで一度も見たことがないんだろう。
どうだ。君の知る風花ちゃんは、こんないやらしい女の子だったんだぜ。
「誉ちゃんの見ている前で、イカせてやるよ」
風花ちゃんの耳元で囁くと、彼女の両目に涙が浮かぶ。
「や、やだ……やめて、お願い……さっきのは謝るから」
駄目だな。誠意が足りない。全っ然足りない。
俺は手を伸ばし、彼女の着ている薄いシャツを上に引っ張り上げた。
「あっ!」と叫んで胸を隠そうとするのへは、お尻をぐちゅぐちゅかき回して妨害した。
「やぁ、やぁっ、だめ、だれか、誉ちゃん、たすけてぇ」
息も絶え絶えな彼女を抱き起こし、可愛いお尻に俺のいきり立った物を押し当てる。
「どうだい、ビッグなシロモノだろう?」
「やだぁ、怖いっ!助けて、誰かぁっ」
風花ちゃんは半狂乱だ。
涙が頬をつたって落ち、鼻水まで垂らしている。
クックックッ、いいザマだ。
だが、こんなもんじゃ許してやれん。
そう、最後までイかないと許すわけには、いかんなぁ〜?
俺はさながら悪代官の心境で、自慢のマグナムに手をかける。
「君が悪いんだよ。そんな格好で俺を誘惑したりするから」
もう一度耳元で囁くと、俺は風花ちゃんを押し倒し、馬乗りになった。
可愛いお尻を指でこじ開け穴の奥へ突き入れようとするのと、俺の股ぐらを、ものすごい勢いで誰かの足が蹴り上げたのは、どっちが先だったか。
――言うまでもない。蹴られたのが先だった。
「ぐ、ぐぉぉぉ……」
薄れゆく意識の中、俺はぼんやりと男の怒号を聞いた。
「この野郎、俺の風花に何してやがんだ!!」ってのと「風花、大丈夫か!」ってのだ。
誉ちゃんではない。もっと低い、成人男性の声だ。
くそっ。まだ仲間がいたとは、不覚だった……ぜ…………