二十三周年記念企画・チェンジif

ヤマダくんはオレがまもる!←→宇佐美くんは孤独がお嫌い

ただ一人の人間、山田を守るためだけに沖縄から東京へ転校してきたアキラ。揺るぎない信念を持つ彼が、距離ゼロ寂しん坊と入れ替わってしまったら、どうなってしまうんでしょう。「ヤマダくんはオレがまもる!」のアキラと「宇佐美くんは孤独がお嫌い」の伊藤で入れ替えっこ!

「ヤマダくんはオレがまもる!」より
四話 逆上の山田

相手の女子が到着し、「あの、伊藤くん……」と何やら話しかけたところで山田は建物の影から飛び出した。
「あ、あれっ?山田くん、先に帰ったんじゃなかったの?」
伊藤は驚いている。まぁ、そうだろう。
てっきり先に下校したと思っていた相手が、物陰から飛び出してくれば。
構わず山田は叫んだ。
「伊藤くん!見損なったよ、君のことッ」
えっ?となったのは伊藤ばかりではない。
相手の女子もポカンとしている。
「君は僕を守るとか言っておいて、そんな子とイチャラブしようってんだねぇ!」
「え、えっ?山田くん、一体何を怒って」
動揺する伊藤に、怒りをぶつけ続ける山田。
「判ってる、判ってるよ!僕のこれが、くだらない嫉妬だって事ぐらい!でもねぇ、男が一度誓ったことは絶対なんだろ!?それを覆すってのは、どういうことなんだい!」
大声で喚く山田は、さぞキチガイめいて映ったであろう。
相手の女子の眼に。
見れば、彼女は思いっきりドン引きしている。
「何この人……怖い」
少女の呟きが山田の耳に入り、怒りのボルテージが引き上がる。
「つきあう気がないなら、手紙なんか無視すりゃいいだろ!なのに君は中庭へ来た!!彼女とつきあう気満々じゃないか!ハッ、カップル誕生かよ、おめでてーなッ。クラスの連中とだってそうだ!仲良くする気がないなら無視すりゃいいのに、ハイハイ愛想ばらまいて返事しちゃってさぁッ」
それを言ったら伊藤が転校してくる前の山田自身だって似たようなものなのだが、本人はブーメラン発言に気づいていない。
「女の子とラブラブしながら、僕を一生守るつもりだったのかい?お笑いだね!そんなナンパ野郎の護衛は僕のほうから、お断りだ!!」
暴言を立て続けに浴びせられ、伊藤は山田が何で激高しているのか、だんだん判ってきた。
何故だか知らないが、彼は手紙の主と伊藤が交際する前提で話を進めている。
しかも、当然のように二人がラブラブカップルになると思いこんでいるようだ。
とんだ勘違いだ。
ここへは、交際を断りに来たというのに。
「ホントは君は、僕が友達じゃなくても別に良かったんだろ!友達になってくれそうな奴なら、誰でも良かったんだろ!?一番最初に僕へ声をかけたのは、たまたま、僕のことを前もってお父さんから聞かされていただけで!」
「ち、違うよ?俺は自分の意志で、君を守りたいと思ったんだ。だから引っ越しだって、自分一人で手続きできたんだし」
伊藤は思いっきり動揺しつつ、それでも必死で弁解を重ねたが、山田に声は届かない。
「もういいよ!言い訳なんか聞きたくないッ。その子やクラスの仲間と、お幸せに!!さよなら、リア充の伊藤くん!!」
ことさらでっかい声で言い切って、ハァッと山田は大きく溜息をついた。
どうだ。
ここまで言えば、二度と僕の許可無く彼女を作ろうなんて思うまい。
二週間に渡る交流で、伊藤の性格は把握したつもりである。
彼は穏やかで大人しく、しかも極端に涙もろい。
山田に対して依存症な面が見え隠れしており、突き放すような事を言えば言うほど必死になった。
伊藤は全くの無言、顔面蒼白で今にも倒れそうな顔色だ。
否、ふらっと足元がふらついて、地面にへたり込んでしまう。
「え、えっと、あの、その……」
すっかりアテが外れた山田へ、女子の非難が突き刺さる。
「ちょっと、伊藤くんに謝りなさいよ!あんな酷いこと言う権利、あんたにないでしょ!?」
「え……あ……す、すいません……」
女子の剣幕にタジタジとなる山田の謝罪を遮って、伊藤が呟いた。
しゃがみこんだままの姿勢で、下向き加減に。
「……山田くんは悪くない」
「え」
「で、でも、こいつが滅茶苦茶言ったから、伊藤くん、傷ついて」
山田と女子は双方ポカンと伊藤を見つめ、伊藤もまた、地面を見つめたまま言った。
「俺が悪いんだ、誤解させるような態度ばかりで……ごめんね、山田くん。君のそばに一生いたいと思っていたけれど、君が俺を嫌いになったんなら、それも無理だよね」
「ちょ、ちょっと待って。僕は、そんなこと一言も言ってないだろ?カノジョとラブラブリア充満喫な状態で、僕の護衛が務まるのかって話を」
今度は山田の制止が、伊藤に届かない。
伊藤は幽鬼のような顔色で立ち上がると、別れを告げた。
「さようなら、山田くん。今まで楽しかったよ、ありがとうっ……」
「ちょっと待ったぁ!!」
ほうっておいたら冥土へ旅立ちかねない彼を、はっしと山田が捕まえる。
「あのさ、言っとくけど!僕は一度も君を嫌いになったとは言ってないよね!?」
「えっ、でも、一番最初に言ったよね?見損なったって……」
伊藤には潤んだ瞳で見つめられ、ごくりと山田の喉が唾を飲み込む。
ヤバイ。なんだか伊藤が可愛く見える。
僕より二まわり、いや下手したら三まわりは年上なはずの彼が。
テレ隠しも兼ねて、山田は喚いた。
「き、君が悪いんだよ!?僕を放ってフラフラしてるから!僕が君と一緒に下校できなくて、寂しくなかったとでも思ってんのか?寂しかったに決まってんだろ!それに君はいつまで経っても、僕を家に招待してくれないよねぇッ。僕達って何なんだ!友達じゃないのか!?友達だったら、自分ちに呼んだりするもんじゃないのか!」
この二週間、友達として交流してきたが、一度たりとて甘える仕草を見せなかった山田くんが。
どこか冷めていて、友情にはクールなはずの山田くんが。
今、『寂しい』と胸の内を吐露している。
伊藤は感激のあまり、山田を勢いよく抱きしめた。
「山田くんっ!」
伊藤の性格、もう一つあった。彼は、ひどく距離ゼロでスキンシップ大好きでもあったのだ。
「山田くん、ごめんね、ごめんねっ!今から君を俺の家へ招待するよ!!」
山田は勿論、大きく頷いた。
「いいとも!」

End.

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