FES

神様がくれたもの

アルカナルガ島・聖地村長の家

村長の家とは、墓地を偽装した場所の地下に広がる空間であった。
モーリアはベッドに歩み寄ると、横たわる老人へ声をかける。
「長老、長老……お父さん!村が火事だというのに、お父さんは何をやっているんですか!」
老人は【火事】の一言で、がばっと身を起こした。
「何!火事?火事じゃと!?馬鹿な、一体誰のボヤじゃ!?」
モーリアの背後で、シドがぼそっとぼやく。
「ずっと火事だったろうに、まさか今まで爆睡していたってのか?」
「起きたんなら結界外してくれる?」と近寄ったナップを見て、長老は見るも哀れに狼狽えた。
「おぉ!結界があるというのに、ダークエルフが入ってきておる!終わりじゃ、この世の終わりじゃあぁぁ!!」
「お父さん!それはいいから結界を早く消してくださいっ。そこにいるダークエルフの人は魔術使いです、彼が火事の消火を手伝ってくれるそうです!」
息子に促された長老は室内を見渡して、いるのが息子とダークエルフだけではないと知った瞬間、我に返った。
「よ、よし」
長老が呪文を唱えると、周囲を包んでいた清浄な気配は薄れてゆき、ようやくナップの気持ち悪さも払拭される。
「これで消火活動をしてもらえますね?」と期待に満ちたモーリアをほったらかして、シドとナップの二人は家を飛び出していった。
「シド、アレを探すぞ!村が火事の、今がチャンスだ!!」
「判っている!」
と、言い残して――
これには残された面々も唖然となる。
「恩を仇で返されましたね……」
ぽつんと呟く警備団員の肩を軽く叩き、楼は促した。
「……後を追おう。二人は、あれの正確な場所を知らないはずだ。今なら、まだ止められる」


このままシドとナップの後を追うのかと思いきや、楼は民家のほうへ走っていく。
もっとも民家は、ほとんどが火事により焼け落ちてしまっていたが……
不意に楼が足を止めたので、彼の後を追いかけた皆も立ち止まる。
目の前には燃え落ちた建物の残骸があった。
残骸の奥には、かつて本棚だったのであろう燃えかすが並んでいる。
「どうしたんですか?早く後を追わないと」
焦るモーリアをちらりと見て、楼は嘆息した。
「いや……ここに彼らの目的とする物があるんだ。だが手つかずなところを見るに、やはり正確な場所は知らないようだ」
ついでとばかりにジェイドが尋ねる。
「あいつらの目的って何なんだ?」
「この地に埋められた封印だ。ただ、彼らはその正体を知らず、貴重なお宝だと思っているようだ」と、楼。
彼は冒険者ギルドの依頼で、神古神ナスカの封印を守るために来た。
神古神ナスカとはアルカナルガ島を守る神様で、第四次聖戦では賢者笹川とシャウニィ=ダークゾーンの手により、ここ聖地にて封じ込められた。
神を収めた箱は地中に埋められ、何人たりとも掘り起こしてはならない、蓋を開けてはならないとされた。
「蓋を開けると、どうなるんだ?」とワクワクするジェイドの腕を引っ張り、リュミクが促す。
「我々には雑談よりも、することがあるんじゃないでしょうか。救助活動の手伝いといった」
「え~?」と不満げな彼を引っ張って、村人が避難した場所まで走っていくと、団長とナップが言い争う現場へ到着した。
「お前らが火を放ったというのは、もうバレておるんじゃ!白々しくも後から来たように見せかけおってからに、役者ばりの悪人め!」
激昂するオージィ団長に、ナップが弁解する。
「だから知らねーっての。俺達だって火事になってんのを見たから、慌てて来たんだって」
「それが白々しいと言うんざます!聖地の皆様が仰っておりましたわ、村に火を放ったのはローブを身に纏ったダークエルフだと!」
警備団が引き留めてくれているのはありがたいが、どうも語弊が生じているようだ。
「なんだ、どうしたんだ?」
ジェイドに尋ねられて、救助活動に当たっていた警備団員が言うには――
聖地を襲ったのはローブ姿のダークエルフで、彼が火つけの張本人だというではないか。
目撃者は何人もいる。ダークエルフは一人で侵入し、民家に炎の呪文を放った。
だが聖地が火事になった時、ナップはシドやモーリアと共に山道を駆け上っていたはずだ。
シドはともかくモーリアは村長の息子、これほど信用に値する証人もいまい。
ここにいるナップと火事の犯人とで、ダークエルフは二人いると考えるのが妥当だろう。
「だが、そこのダークエルフだって無断侵入なんだ!無罪放免とはいかないぞ」
たちまち周りを囲まれて、シドが早くも短気にボウガンを構えた時、楼が彼らの間に飛び込んできた。
「待ってくれ!……ナップ、君達の探している物は、お宝なんかじゃない。特に……君は絶対に触れてはいけない」
「俺達が何を探しているのか判っているような言い分じゃねぇか」と絡んでくるシドを一瞥し、楼の視線はナップへ戻る。
「あれは闇の眷属に危険を及ぼす。絶対に封印を解いてはいけないんだ」
だが――その封印があった方角から、悲鳴が聞こえてきた。
あの場へ残してきたアレフの声に違いない。
楼の視線を辿り、シドが走り出す。
「その封印、狙ってんのは俺達だけじゃなさそうだな!」
続けて、まばゆい光の衝撃波が飛んできた。
衝撃波は人間、及びナビ族と獣人には、何の影響も及ぼさなかった。
だが、闇の眷属はそうもいかない。
光の衝撃が彼らのいる場所を駆け抜けた瞬間、ナップは激しい激痛に見舞われる。
それは尖った刃物で全身を滅多差しにされたような鋭い感覚であった。
衝撃波は時間にして数十秒、発動場所が遠く離れていたにもかかわらず、恐ろしいまでの気だるさがナップの精神を覆い隠していく。
もう、何も考えたくない。
考えたくないと考えるのさえ、かったるい。
シドが何か叫んでいるのが、意識の遠くで聞こえたような気がした。
「ナップ、おいナップ!!しっかりしろッ!くそ……ッ。一体、今のは何だッたんだ!?」
楼が小さく舌打ちする。
「誰かが封印を掘りだしてしまったのか……!」
「おい、封印ッてな具体的には何を封じ込めていやがんだ!」
シドは目に見えて判るほど狼狽えている。
結界がないにもかかわらず、相棒のナップが動けなくなったせいもあろう。
「聖地にあるのは古代の宝じゃない。古代に施された聖なる封印だ。解けば闇の種族に災いが降りかかる」と答えて、楼が走り出す。
「急ごう。掘り出しただけでは、まだ大丈夫だが、箱を開けられたら最後だ」
「急ぐって、ナップがこんなんじゃ」と言いかけるシドは、本人に遮られる。
「へ、平気だよ。それよか、お宝が他のやつに取られる前に俺達も行こうぜ」
ふらつきながら立ち上がろうとするナップを背負い、シドも後を追った。

急ぎ駆けつけてみると、座り込んだアレフと、ローブ姿の見知らぬ二人組が見えてきた。
アレフは傷だらけだ。
だいぶ殴られたようで、顔は腫れていたし鼻血を流している。
彼のそばにいるのはダークエルフの男性と、もう一人は背中に白い羽根を生やし、頭の上には光り輝く輪が浮いた男であった。
ナップが驚いた顔で呟いた。
「あれ、叔父さんじゃん?」
ダークエルフはナップの親戚ダート=ダークゾーンで間違いないようだが、はてさて背後の未確認生物体は一体何者であろうか。
「ありゃァ、天神族じゃねェか?」
意外な声が意外な主から上がった。
「天界に住むとされている幻の種族が、あれなのか……?」
楼に問われ、シドが頷く。
「あァ。背中に白い羽根、頭に輪っかとくりゃあ間違いねェ。あれは天神族だ。ツラがブサイクなんで ちッと自信がねェがよ」
確かに優美なる種族として伝説に残っている天神族ではあるのだが、目の前にいる羽根の者は、お世辞にも美形とは言いかねる。
ダンゴッ鼻だし、糸目だし、なんか横幅は無駄に広いし。
「伊達に遺跡荒らししてないってか?すっげーじゃん♪」
ヒュウと口笛を吹いておだてるナップを横目に、シドが口元を歪めて笑う。
「遺跡荒らしじゃねェ、俺がやってんのは遺跡発掘だ」
油断なく様子を伺いながら、楼はなおも独り言か質問か分かりかねる呟きを漏らした。
「……天神族といえば聖なる者と聞いている。だから聖地に来たとしても、何らおかしくはない。だが、何故その天神族がダークエルフと一緒にいる……?」
「本人に聞けよ、目の前にいるんだからよ」
ダートと天神族はアレフが座る地面の下に用があるようだ。
そこをどけとダートが脅し、アレフは蹴りつけられようと唾を吐きかけられようと拒否の一点張り。
無抵抗な相手への度重なる暴力を見て、真っ先にキレたのはジェイドだった。
「オマエー!やめろーッ」と叫ぶや否や突進していく彼を見て「ナップ、君は此処へ残れ!」と言い残して楼も追いかける。
「おい、オマエ!酷い真似すんな!アレフは嫌がってんだろ!!」
怒鳴りつける僧兵を一瞥し、ダートは吐き捨てた。
「関係ない者は黙っていてもらおう」
「うるせェ!黙ってられるか!アレフを虐めるっていうんだったら、オマエはオレの敵だ!!」
拳を握りしめてブルブル怒りに震えるジェイドへ向き直り、ダートは静かに問う。
「余計な口出しは死を意味する。もう一度だけ言う。我々の邪魔をするな」
そこに「俺からも質問だ。闇の眷属が新古神ナスカの封印を解いて何になる?」と割り込んだのは楼だ。
「冒険者ギルドの手先か……」
眉をひそめるダートへ「さっきの光、叔父さんも効いたんだろ?あの光さぁ、二度も三度もやられっと迷惑だし、やめてくんない?」とナップも話しかけて、ニッカと笑った。
「ナップ。あの下にある箱を開けたら、あんな程度じゃ済まない。闇の眷属は全て、地上から消滅する」
楼の言葉を裏付けるかのように、ダートも頷いた。
「そうだ。俺は全てを壊すために、ここへ来た。くだらない世界など壊れてしまえばいい……怠惰な平和に溺れ、闇を無理矢理封じ込めた世界など」
一気にスケールがデカくなってきた。
まさかの自殺願望発言に、シドが唾を吐き捨てる。
「全てを壊すだァ?ずいぶん大きく出たじゃねェか。で、一体どうやって世界を壊すッてんだ。さっきの光で滅ぶのは闇の眷属だけなんだろ」
ここで初めて天神族が口を開いた。
「封印の下に眠るのは神古神だけではありません。偉大なる召還師が残した、宝があるのです」
「宝だァ!?」と叫んでシドが楼を振り返る。
さっき彼は言っていた、探し物は封印であって宝ではないと。
しかし目の前の天神族が言うには、それとは別に宝も埋まっているようだ。
じろっとシドに睨みつけられて、楼は視線を外す。
「あれは……今の世に必要ない」
「冒険者ギルドの手先であれば、そう言う他あるまいよ」とせせら笑い、ダートが己の望み、その全貌を明かす。
「そこに眠っているのは禁断の書、【ゲート】の呪文書だ……封印の力では消せない他種族を次元の彼方へ飛ばしてやろう」
「……なんだかスケールがでっかくなってきたなぁ~」
判っているのかいないのか、ナップだけが暢気な調子で飄々としている。
「くだらん話は、これで終わりだ。それ以上近づくというのであれば、消す……ナップ、お前もだ。それ以上は近づくな」
ダートに威嚇されて、シドは油断なくボウガンを構えたまま尋ねた。
「ナップはテメェの親戚なんじゃねェのかよ?」
「世界を滅ぼすのに親族も肉親も関係ない……ただ、消すまでだ」
淡々と語るダートに親族への温かみは一切ない。
対するナップも、やはり呑気な顔で言った。
「んー。叔父さんなら、そう言うと思ったよ。んで叔父さんの計画は、それでいいとして、そっちのデブは何が目的なの?」
途端、事態が急変した。
先ほどまで笑顔を浮かべていた天神族が、何の前触れもなくブチキレたのだ。
ムキー!き、貴様言ってはならんタブーをサラリと言ってのけたな!?ボクたんはデブじゃない!二度と言うな!!」
口から泡を飛ばすほどの勢いで怒鳴っている。
「な、何だこいつ?さっきまでの余裕はドコ行っちまったんだよ」
慌てるシドとは正反対にナップは意地悪な笑みを浮かべて、ここぞとばかりに禁句を連呼した。
「ま、どうせ滅びるんだったら、俺達も言いたい放題言ってやろうぜ。オイ、そこのデブ!お前が叔父さんに協力して世界崩壊させたい理由てな、もしかしてデブでモテねーから、なんてんじゃないだろ~な?」
「違わー!!ボクたんはデブじゃないぞ!」
「バ~カ、横に広い奴はデブって呼ばれるんだよ!デブって言われて怒るってこたぁ気にしてるんだ?そのツラで!安心しろよ、お前が痩せても女にはモテね~から!何しろデブが痩せても糸目でダンゴっ鼻だもんなぁ!モテる要素全然ねぇよ♪」
アホな口喧嘩をBGMに、楼は懐へ手をやった。
「世界滅亡など、させるわけにはいかん……ましてや禁呪を使うなど」
「あァ、全くだ。聖と闇がつるんで世界崩壊?冗談は顔だけにしとけってんだ……よッ!」
バシュッ!と発射された矢はスレスレで天神族にかわされる。
それを合図に、世界存続をかけた戦いが始まった――!

「下がってろ!でけぇ魔法が来たら、テメェを庇ってやれねぇぞ」
シドに怒鳴りつけられて、アレフが「は、はいっっ」と離れた場所へ走っていく。
「サラマンダーを呼べ、ダートッ!!」
激高する天神族とは対照的に、ダートが静かに呪文を唱え始める。
「やべぇ!叔父さん、精霊呼ぶ気満々じゃんっ」
慌てるダートを背に「お前も強力な魔法を唱えときやがれ!」と叫び返し、シドは身構える。
どちらも強敵だ。
だが最も警戒すべきは、やはり召喚魔法を使えるダートだろう。
「チビィッ!ぶっ飛ばァァァーーーす!」と突っ込んでくる天神族とは、ジェイドが四つに組み合った。
「オマエの相手はオレだ!」
「邪魔すんなぁ!」とブチキレる天神族を見据え、ジェイドは、すぅっと息を大きく吸うと、大声で怒鳴った。
「デーブ!デブデブデブ、デーブブブゥ!」
「ムキィィィー!」
うまい感じにナップから自分へと標的を変えさせた。
その間に楼とシドとで間合いを詰めて、それぞれダートへ襲いかかる。
しかし、双方ガツン!と見えない壁に跳ね返されて、後ろへ飛び退いた。
「何だ、今のはッ!?」「……結界……!」
いつ張られていたのか、恐らくは戦う前に張っておいたのだろう。ダートを守る結界は。
「おい、結界って言ったな!どうやったら破れるんだッ」
シドに問われ、楼は短く「術者を潰すか、結界を上回る魔法をぶつけるしかない」と答えた。
頭に血がのぼったのか、天神族はジェイドと真っ向殴り合いの最中だ。
ダートは棒立ちで呪文を唱えている。
もし結界を張ったのがダートであれば、彼より魔力の強いものが魔法を唱えるしかない。
だがダークゾーンの末裔、それも直系の血筋より高い魔力の者など居るのだろうか。
押し黙るシドを見て、楼が策を持ちかけた。
「天神族を使おう……奴を激情させて魔法を此方に飛ばさせる。直前で避ければ結界を相殺で消せるはずだ」
「上手くいくのか?魔法ってな追尾能力がありやがんだろうが」と、シド。
ジェイドと天神族の殴り合いをチラリと見て、楼は頷く。
「範囲魔法だ。ダートを巻き込む形で発動を誘導させるんだ」
「そんなもん受けたら、俺達まで死ぬんじゃねェのか!?」
シドの懸念は尤もだ。しかし、このまま召喚魔法が完成してしまえば、どのみち魔法で殺される。
「結界が外れさえすれば勝てる。傷は僧兵が治してくれるのを期待しよう」
ドカドカ殴り合って顔をボコボコに腫らしたジェイドを一瞥し、シドは渋い顔になる。
「……あいつに、か?」
「だが、他に居ない」と答え、天神族の懐へと飛び込んだ。
「はぁん!?」と舐めくさったデブを小刀で突くと見せかけて、ダートのいるほうへ飛び退いた。
「ボクちんに恐れをなしたな、このひよっこがぁー!くらえ、レインボウビームッ」
七色に光り輝く光線が当たる寸前、楼は身をかがめて避けた。
攻撃対象が楼に移ったのはよいのだが、このデブ、いや天神族は魔法を使わないで此方を倒す気満々だ。
どうにかして魔法を使わせ、さらにダートの結界方面へ撃たせなければならない。
シドも楼の横へ走っていくと、大声で煽ってやった。
「へっ、なんだ今のダッセェ光線!ビカビカ光らせりゃ格好いいなんてのはガキのうちに卒業しとけ!そんなんだからテメェは半永久誰にもモテねぇんだよ、ノーセンスのクソデブ野郎が!!」
「うぎゃぁぁぁあああ!許さん!絶対許さんぞぉ、貴様ぁ!!
「へっ、悔しかったら魔法で俺を葬ってみな!まぁセンスが終わってやがるクソデブにゃあ、魔法を唱えるなんてインテリあふれるマネは逆立ちしたって出来ねぇだろうがよッ!」
口を開けば罵倒が次から次へと飛び出すシドには、隣で身構えていた楼も唖然となる。
「お前にだけはクソセンスとか言われたくないんだけど、服の袖やぶって不良気取りなクソダサファッション男がァッ!お前みたいな藪睨みの三白眼だって全然モテないんじゃないのかぁ!」
唾を飛ばしての大激昂にも、シドは肩をすくめて「ハァ~ン?」と煽り返しに余念がない。
「言っとくがなぁ、俺はちょっとワルぶって声かけりゃ女なんざ両手盛りでモテモテの余裕なんだよ!」
もちろん嘘だ。モテモテどころか恋愛なんぞ、生まれてこのかた一度もした覚えがない。
シドは、歴史の探求のほうが恋愛にうつつを抜かしているより何倍も面白いと考えるタイプであった。
「けど、テメェが同じ手で釣ったって無駄だかんな?団子っ鼻の糸目デブがワルぶったって、滑稽にしかならねェんだよ!」
自信満々に胸を張った後は、嫌味ったらしい視線のオマケ付きで見下してやる。
態度の一つ一つが人をムカつかせる高度なテクニックだ。楼は思わず感心してしまった。
「言ったなぁぁ!ボクちんの魔法で自慢の顔ごと丸焦げにしてやんよ!!」
ここまで煽って、ようやく待望の魔法を撃たせるのに成功した。
ごぉっと唸りを上げて一直線に飛んできた巨大な炎の球は、ぎりぎりで避けたシドの髪の先をチリチリと焦がしながら見えない壁に当たり、直後、楼がダートの懐へ飛び込んだ。
「ぬぅっ!」
一瞬であるが呪文が途切れ、驚愕するダートの腕を掴んで逆ひねりにねじ折った。
「ぐぁ!」と叫んだのを見てから一旦手を離し、自由になった両手を相手の首へ回す。
首を掴んで投げ飛ばすと同時に楼も飛び上がり、相手の首の上に膝を乗せた格好のまま、全体重を込めて着地した。
まともに受け身も取れない状態で、そんな真似をされれば、どんな生き物とて首が折れて死ぬだろう。
ダートも然り、落下と同時に動きを止めた。
すっと立ち上がった楼が、ぽつりと呟く。
「…………柳流、闇渓谷」
一連の戦いを横目に、ナップがようやく呪文を唱え終えた。
「俺もやるぜ、『サンダー・アロー』!」
稲妻の矢はまっすぐ天神族へ飛んでゆき、奴に「ぴゃい!」と悲鳴をあげさせる。
「おい!しっかりトドメさせよ、ダークエルフの末裔!なんだ、そのヘナチョコ雷はァッ」
シドの煽りは味方にも飛んできて、ナップはチェッと口を尖らせる。
「仕方ねーじゃん。お前らと違って、俺はまだヒヨッコ冒険者なんだしさぁ」
「なら、ちったぁ目に焼き付けておけよ、玄人冒険者の動きってやつを!」と叫び、シドは天神族目掛けて突っ込んでゆく。
「枯れ木みたいな身体して、ボクちんとガチンコする気か!?そのすましたツラ、ボッコボコにしてやんよ!!」
勢いよく殴りつけてくる拳を急停止でかわすと、さらに後方へ飛び退き、尻ポケットから棍を取り出す。
振り回せばカシィンと小気味の良い音を鳴り響かせ、一本の棒に繋がった棍で突いてやった。
「びぼぁ!」
――天神族の、目を。
「ひでぇ!楼と同じぐらい外道だ!!そこまでやる必要あったか!?」
再び大きく間合いを取った後、シドは背後の罵倒にも言い返す。
「ハァ?首折った奴と一緒にすんな、ただの目潰しだろうがよッ」
そうは言うがデブの苦しみようや、押さえた手の隙間から絶えず流れる赤い血を見ているだけで気分が悪くなってくる。
青ざめるナップの目の前に「確保ォ!」と大声が振ってきて、ジェイドが天神族の上にドスーンと跨った。
ひとまず全てが有耶無耶になる前に犯人を捕まえることが出来て、放火の冤罪をかけられていたナップは一安心するのであった。


エピローグ

「なんか激しい音が聴こえたんだけど、何やってたんだ?」
今頃になってモーリアや月斗がやってきたので、アレフが一部始終を説明する間。
楼がナップに向けて、深々と頭を垂れて謝ってくる。
「すまないナップ……君の叔父さんを止めるには、こうするしかなかった」
「ナニ謝ってんの?別に俺が殺されたワケじゃないし、どーでもいいって♪」
親戚が殺されたというのに、飄々としたものだ。
一歩間違えば、その叔父さんにナップが殺されるところだったのだが……
「お宝はギルドが没収……封印じゃ売り飛ばしもできねェし、腹もふくれねェ。くそ、とんだ骨折り損ッてやつか」
ぶつくさ言いながら座り込むと、シドは棍についた血を天神族のローブで綺麗に拭き取る。
その彼に、ナップはノホホンと話しかけた。
半分は自分を満足させるかのように。
「そう?俺は禁断の地とされる聖地に入れたってだけでも満足だね。なんかさぁ、伝説に一歩近づけたって感じ?」
「ケッ、なぁに呑気なこと言ってやがんだ」
二人の元へ近づくと、楼が警告してくる。
「ナップ、シド。君達の処遇については俺からギルドに掛け合っておく。天神族とダークエルフの報告もすれば、謹慎か罰金程度で済むだろうが……せめて、その間だけでもバラク島で大人しくしていてくれ。頼む」
頭を下げられても、シドのくちを出たのは悪態であった。
「テメェにお願いされるまでもねェよ。どうせしばらくやることもねェんだ。酒場で大人しくしてるさ」
「よーし!じゃあ山を降りるぞー!」
警備団と冒険者の一団は、ジェイドの号令で山を降りていった。


End.