デューンとアイルでハッピーハロウィン
王子を驚かすのは本来なら妹の役目だが、妹は妹で別の仕掛けを用意していることだろう。それに、アイルは自分とのハロウィンを一番楽しみにしているはずだ。
期待に答えずして、何が騎士団長兼お守り役兼教育係か。
そんなふうに自己完結して、デューンはハロウィンの準備に励んで一週間後――ついに本番の日がきた。
「デュ〜〜ン、Trick or Treat?どっちか選ぶでちゅ」
先に仕掛けてきたのはアイルで、デューンは一瞬硬直するも、すぐに答えた。
「あ、はい。じゃあTrickで」
「え?いたずらしちゃっていいんでちゅか?」
迷わず素直に頷く。
アイルに菓子が作れるとは思えないし、それでも菓子を持ってきたのであれば、それはリューンが代わりに作ってやったモノで違いない。
あいつの菓子を口に入れる危険性を考えたら、いたずらのほうが何億倍も安全だ。
「ウヒヒ、デューンってば大胆でちゅ。んじゃあ、いたずらしちゃうでちゅからねぇ」
口元のよだれを拭って近づいてきたアイルが唇を突き出してきたので、今度も迷わず抱き寄せた。
間髪入れず、唇を重ね合わせてやったら「んにゅぅ」と小さく喘いだアイルが、両手を背中に回してくる。
王子が、そうした行為を仕掛けてくるのだって重々予想できていた。
恐らくは、こちらが嫌がるとでも思っていたんだろう。
予想通りに振る舞ってやっても良かったのだが、どうせなら予想外の行動に出てやったほうが、こちらとしても面白い。
口の中を這い回り、歯の裏へ隠れたアイルの舌を己の舌で舐め、絡め取る。
「んふぅ」とアイルが小さく身動ぎする。
構わず、抱きしめる手を下へ動かして小ぶりな尻を撫で回した。
アイルは男にしては華奢で、腰が細い。
胸もぺったんこで全く筋肉がついておらず、何年経っても中性的な外見を保っていた。
初めて顔合わせした日以来、ずっとデューンには好意的だ。
騎士団長になって、やっと話のできる立場になれた。
それまでは遠い存在だったのだが、実際に会っての第一印象は想像していたよりも子供っぽい――であった。
けして見た目通りの愛らしい性格ではなく、我儘の権化で、幼児がそのまま成長したような生き物だったが、それでもアイルを愛らしいと感じ、両親に溺愛されているのも納得だと思ったものである。
王子というよりは年の離れた弟、或いは我が子のような存在だ。
だがアイルのほうでは、どうやらこちらを恋愛対象と見ている、と判ったのは何度目かの晩餐会で。
何度も執拗にベッドへ誘われて、年齢の割にはませた発言も多くて、こいつは誰の影響だ、もしや王と王妃の関係は世間が言うほど悪くもなく、本当はラブラブ熱愛夫婦なんじゃないかと思わせた。
のちに熱愛夫婦説は誤解だったと判るも、アイルのアタックは年々猛烈な勢いを増してくる。
そろそろ受け止めてやってもよい頃合いだろう。子供ではなくなった年齢となった今なら。
散々口内を蹂躙した挙げ句に、唇を離すと「んぷぅ」と息を漏らしたアイルが恨みがましい目を向けてくる。
「やぁん、こんなやらしいキス……一体、何百人を練習台にしてきたんでちゅ?ひどいでちゅ、デューンのファーストキッスはボクがもらうって決めてまちゅたのにっ」
デューンに恋人がいるのは王子も知っているだろうに寝ぼけた発言を放ってきて、しかしデューンの脳内では"嫉妬する王子ってば可愛い"に変換された。
「やだなぁ、誰一人として練習台になんかしてませんよ。俺のポリシーを知っていますでしょう?来るもの拒まず、一夜を全力で愛しますってね」
「んもぉ、ナンパマンなんでちゅから、デューンは。でも、そんなとこも好きっ!」
同じセリフをアーリアに言ったら地獄行きは免れないが、抱きついて終了にしてしまうアイルの物わかりの良さにはデューンもメロメロだ。
「今度は俺の番ですかね、Trick――」
「Trickで、おねがいしまちゅう!」
ぎゅうっと抱きついてきた王子を軽々抱き上げて、デューンは口元に笑みを浮かべる。
「了解です、んじゃあ王子には大人のいたずらをしちゃいますからね」
「大人のいたずら?」
きょとんとする眼差しを受け止めて、デューンも頷き返す。
「えぇ。大人のいたずらはキス程度じゃ済みませんよ」
終着点はベッドだ。
ベッドにアイルを横たわらせると、シャツをめくりあげて薄い胸を撫で回す。
同じ年頃の女性でも、ここまですべすべで柔らかく、きめ細かやかな肌の持ち主は、そうそういない。
胸元を軽く触っていた手が、次第に乳首を触りそうで触らないギリギリを撫でてくる。
「はぅ……デューンの手つき、いやらしいでちゅ。王国一のスケベ女体ハンターは伊達じゃないでちゅね」
「……は?」
聞き捨てならない悪口がアイルの口から出て、眉をひそめるデューンに王子が言うには。
「知らずは本人ばかりってやつでちゅか?有名でちゅよ、デューンのナンパ好きは。宮廷でも噂になってまちゅ、誰彼構わず受け止めちゃうって。ただの嫉妬だと思っていたんでちゅけど、この手慣れた動きを見て確信しまちゅた。噂はホントだったんでちゅね」
「い、いやだなぁ、受け止めていたのは女性だけじゃないですよ?」
目を逸らしながらデューンの脳内を駆け巡るのは、大いなる不安だ。
城下町の女性はコンプリートした記憶があるけれど、宮廷内では誰と誰に手を出したんだっけ?
やばい、全然覚えていない。
この噂が、どうかアーリアの耳にだけは入っていませんように。
そうだ、今日のことも、王子には口止めしておかなくっちゃ。
「そうでちゅか、男もアリでちゅか。なら、百戦錬磨の老若男女ハンターだったんちゅねぇ」
呆れたのかと思いきや、アイルの視線は恋する者そのもので、うっとりと劣情を浮かべている。
ひとまず嫌われていないと知って安心したが、いつ、どこでアイルが口を滑らすか判ったものではない。
「王子……俺は武勇伝をひけらかすような真似が嫌いなんです」
シリアスなキメ顔でアイルの上へ伸し掛かり、デューンは小さく耳元で囁いた。
「ですから、今日のことは誰にも内緒にしといてください」
「判ったでちゅ。二人だけのひ・み・ちゅ、でちゅ」
「ありがとうございます、王子」
ちゅっちゅと薄い胸に口付けて、軽く乳首を吸ってやると「あぁん、ちょこ、気持ちいいでちゅ、もっとちゅって〜」と王子が甘えてくる。
デューンの腕に掴みかかって頬を擦り寄せたかと思えば、こちらの舌の動きに併せてビクンビクンと身体を小刻みに震わせた。
「あぁん、デューンのペロペロ、えっちで気持ちいぃでちゅ……頭がまっちろになっちゃうぅ〜、はふぅ」
シーツをぎゅっと握りしめ、そっと瞼を閉じる。
うっかりすると下についているのも忘れてしまうほど、仕草の一つ一つが可愛い。
きゅっと丸めた足の指ですら愛おしい。
これはもう、いっちゃいますか。王子の後ろの処女を奪ってしまいますか!
部下にはエロ禁を出したデューンであるが、自分がやらないとは一言も誓っていない。
王子も子供じゃないんだ、愛撫以上の行為だって期待しているんじゃないのか?
びくびく震えながら快感に酔いしれているのを見た限り。
「王子……ここんとこ、ひくひくしているじゃないですか。俺をエッチ連呼する割に、王子もそうとうなエッチですよね」
尻の割れ目に指を差し込んで奥をツンツンしただけでも、アイルの反応は顕著で。
「はぁんっ!デューン、ボク、もう我慢できないでちゅ、パパがママにやるみたいなこと、ボクのアナルにもやってぇ〜、ガンガンしちゃってぇ〜」
「パパ、いや王様が王妃様へやっていたこと、ですか?」
子供時代ませていたのは、両親の情事を覗き見していたせいか。
アイルが覗いていた頃は、まだ王も今のような冷戦夫婦状態ではなかったようだ。
「そうでちゅ、ママにまたがってパパってばガンヅキピストンラッシュだったんでちゅよぉ」
しかし、それだけでは下品な言葉を知っている理由にならない。
やはり、誰かが王子へ余計な知識を与えたとしか思えない。
――まさかとは思うが。我が妹が教えたのではあるまいか。
いやいや。妹は俺と違って、年相応の少女だったはずだ。
常識範囲での恥じらいぐらい持っている、と思いたい。
余計な雑念を振り払い、デューンは指をアイルの穴へ潜らせる。
少し動かしただけでも痛いほどに締め付けてきて、「あぁう、ぐちゅぐちゅイイッ、自分でやるよりキンモチイイでちゅぅぅ〜!」とアイルは涎を垂らして身悶えした。
「ほぅ、自分でやるよりも」
「あっ!言っちゃった、はぢゅかちぃでちゅ」
キャッと口元を押さえて恥じらう姿が、デューンの胸をキュンキュンさせる。
計算づくで可愛く見える仕草を取る女性を何十人と見てきたが、王子の可愛さとは比較にもならない。
王子とだったら、朝までガンヅキなんたらラッシュしたい。
身分違いの壁がなかったら、アーリアと出会う前にアイルと出会っていたなら、速攻で恋人にしていた。
「デューンとチたくて、じゅっとチたくて毎晩チてる夢を見て、指で自分を慰めてたんでちゅ」
「そこまで待ち焦がれていたんじゃ、しないわけにいかないですよね……」
ゆっくり指を奥へ沈めてゆく。じっくり慣らしてからだ、本番は。
そう考えていたら、アイルが目元に涙を浮かべて恍惚とした顔で、じっと見つめてくる。
「あっ、あのでちゅね、パパがママにやるみたいにしてほしいでちゅ」
「え。えーと、それは、どんなふうに?」
「えっと、ガンヅキちゅる前に、このバイタが!って罵りながら、お尻をバシバシ殴るんでちゅ」
「……え?」
まさかの暴力行為ありなセックス状況に、ぽかんとするデューンを置き去りに、アイルは両親の営みについて語った。
「ママは毎回、違う、私はバイタじゃないって否定するんでちゅけど、お尻をビンタされた時はビクンビクンしてたでちゅ。あれって痛みを通り越して気持ちいいってことでちゅよね?」
「あー……いや、痛くて痙攣していたんじゃないかと……」
「そうなんでちゅか?でも、その後パパに髪の毛掴まれてガンヅキされている間は、ぢゅっとアンアン喘いで気持ちよさそうでちた。もうイヤ、やめてぇ〜って言いながら涎ダバダバの汗だくでちゅたよ」
夫婦なのに、そんな乱暴な行為をしていたんじゃ冷戦にもなるわけだ。
「ママの泣き顔を見ながらイクのが、ボクの日課でちた。あ、これ、皆にはナイチョでちゅ」
アイルには秘密と人差し指を立てられて、デューンも困惑に視線を逸らす。
「いやぁ……誰に話せってんですか、今の話を」
こんなのは誰に話しても母国の恥だ。
しかも、その強姦みたいな真似をやれと催促されたって、自分には無理だ。
さっきまでヤる気満々だったが、今の話のせいでデューンの下半身は、すっかり萎えてしまった。
自分にもしてほしいと頼むってこたぁ、アイルにはドMの血が流れているのだろうか。
そういうのを見て興奮していたってのも、愛あるセックスをモットーとするデューンとしては納得いかない。
「すみません、そういうのは想定していなかったんで、今日はいたずら止まりで」
下がり眉での撤退宣言に「えー?さっき、してくれるってゆったでちゅ!」とアイルの不満も爆発だが、構わずデューンは身を起こして逃げの一択だ。
かわりにと言っては何だが「そうですね、今日はこういった趣向で」と荷物箱から取り出したのは、一本の棒だった。
「なんでちゅ?傘?」と首を傾げるアイルの尻穴に棒を差し込む。
「きゃん!?」
突然の挿入に驚く王子を見つめて「王子待望のガンヅキピストンラッシュを俺の代わりにしてくれますよ、この棒が」とデューンは宣い、スイッチを入れる。
以前、東大陸へ遠征した時に土産として現地人にもらったアイテムだ。
一度スイッチを入れると、内部バネの反動が収まるまで棒の先端が伸びたり縮んだりを繰り返す。
ただ、それだけの動きをする玩具だが、体の内部で棒の伸縮を受け止めた王子の反応や如何に。
「あぴゃ!あぴゃぴゃぴゃっ!?あっひぃ〜〜〜ん、ゴシゴシされる、されちゃうぅぅ〜ダメェェッ」
棒の動きに併せてビクビクと身体を震わせ、涎を撒き散らして、おまけに白目。
「いびび、あびゅびゅびゅ、いっひぃ〜〜」
ワケの判らない喘ぎを始終あげていて、よほど気持ちよくて仕方がないんだろう。
「やらっ、はじめてはデューンとって決めてたでちゅのに、棒がハジメテの相手になっちゃうでちゅぅぅ、あびゅびゅっ」
これなら一晩ほっといても大丈夫だ。きっと満足してくれる。
「王子、ここに俺のお菓子を置いておきますんで、よかったら味わってくださいね」
ベッドから離れた机の上に小袋を置いて、デューンはアイルのいるテントを後にした。
End.

