FES

グリフィルスの日常

グリフィルスのアレコレ

聖騎士団に所属しているからって、年中無休で城に詰めているわけじゃない。
休日は家へ帰り、じっくり身体を休めるのも騎士の務めだ。
「よぉー、グリフィ。遊びに来てやったぞ」と手を振って現れたオーギュを、グリフィルスは自分の家へ迎え入れた。
「お前も今日は休みなのか?」
「馬鹿言え、傭兵は自分で仕事を取らなきゃいけねぇんだよ。従って毎日が休業で開業だ」
オーギュは以前、聖都の聖騎士団に所属していたのだが、自分には合わない仕事だのと抜かして退職してしまった。
それでも、こうやって休日や酒場で出逢えば、雑談などで盛り上がれる程度の交流が続いている。
「しっかし、お前なんだよ。休日だからって洒落っ気のないシャツ着てんなよ。聖都の聖騎士様ともあろうもんがよォ」
いきなり服に駄目出しをくらい、グリフィルスは己の格好を見下ろした。
どうということはない、麻の布地の白シャツだ。
自分の家でまで着飾っているのは気疲れするし、第一オーギュぐらいしか遊びに来ない家だ。着飾る必要が何処にある。
「いいんだよ、俺なんかが着飾ったって誰も気にしやしないだろ」
「そうか?お前が休日にダサシャツ着ているって知ったら、団長がガッカリするぞぉ~?」
「それこそ杞憂だろ。団長は俺が裸だったとしても気にしないさ」
自分がどれだけ目立つ存在なのか無自覚無意識なグリフィに、オーギュは、そっと溜息をつく。
この馬男は故郷にも騎士団があるというのに、レナルディの下で働きたいが為だけにファルゾファーム島までやってきた。
当然、聖都聖騎士団の中で、ケンタウロスなのはグリフィルスだけ。
目立たないわけがない。
レナ団長だって彼を気にしているのは、遠目に眺めるだけでもよく判った。
「俺さ、前々から不思議だったんだよ」
「何が?」
「お前って上は服着てんのに下は着てないよな。恥ずかしくないのか?」
もう一度、自分の身体を見下ろしてからグリフィが答える。
「いや、別に。服を着る文化ってのは、本来ケンタウロスにはなかったからな」
「えっ!?そうなのかっ?」
「あぁ、元々は弓矢対策だったんだ。鎧を着込む際、素肌に金属が触れるのは冷たくて嫌だから……というんで、シャツを着るようになった。それが習慣づいて、今でも上は着るようにしている」
「着るように、している?」
グリフィは「あぁ、ここでは、な」と、意味ありげにオーギュを見て笑った。
今でもコーデリンでは服を着ない奴のほうが多いと締められて、これが異種族の壁なのかとオーギュは考える。
異種族の壁と言えば、もう一つある。
騎士団に所属していた頃、グリフィルスが風呂場やトイレへ行く姿を一度も見なかった。
当時は川や海で水浴びないし用足ししているのかと軽く考えたが、本当に、そうなのだろうか。
はっきり自己紹介されたわけではないが、彼は名前から考えると貴族の出である。
貴族が野外で用を足す、それ自体がありえない。
あの頃は高貴な騎士たちの目もあるしで怖くて訊けなかったけれど、職場を変えた今なら遠慮なく訊ける。
「なぁ、お前ってさ……風呂やトイレは、どうしてんの?」
一瞬ポカンとなった後、割合素直に答えが返ってくる。
「風呂は……川で水浴びしている。トイレは家以外だと野外でするしかない」
「家以外だと?」と聞き返すと、「あぁ、家には備え付けの専用トイレがあるんだ」と手招きされる。
案内されたトイレ空間には、中央に大きな箱が置いてあった。
平面には穴が空いていて、その穴に突っ込んで用を足すのだと説明された。
「へぇー。確かにこりゃ、専用トイレだ」
オーギュが使おうとすると、べったり箱へ抱きつく形になる。
ちらりとグリフィルスの下半身に目をやって、あぁ、なるほど馬だから、この形なのかとオーギュは何度も納得した。
「こういうトイレを城にも置いてもらったらどうだ?」
「使うのが俺しかいないんじゃ無駄経費だろ」と肩をすくめて、グリフィが苦笑する。
何気なく、ぐるっと室内を見渡したオーギュの目が不思議なものを捉える。
「……なぁ。あれ、なんだ?」と指差す方向を部屋主も見て、ぐぐびっと唾を飲んだ。
「あ、あれは……あれも、必要道具だ」
なんとグリフィときたら、視線をあからさまに逸らして照れているではないか。
不思議な物体は、ぐるぐる巻きになった藁が横倒しで踏み台に乗っかっているような形状で、使い方が想像できない。
「へぇ。どうやって使うんだ?ちょっと使って見せてくれよ」
「いっ、嫌だ!
拒絶の激しさに驚いてオーギュがグリフィの顔を見やると、勢いに本人も気づいたのか、ますます視線を逸らす。
「なんだよ、使うのが恥ずかしい道具なのか?」
突っ込んだ質問には「ど、どうだっていいだろ」とグリフィも尻すぼみになるばかりだ。
「ん~、けど必要なんだよな?お前にとっちゃ。訓練用具……にゃ見えねぇし」
しばし考えたオーギュの脳裏に、ふと先ほど見たトイレが浮かんだ。
あれはケンタウロス背丈で考えて、ちょうどよい位置に穴が空いていて、突っ込む仕様だった。
これにも、ちょうどケンタウロスが伸し掛かった体勢での位置に穴が空いている……
「……ほぅ。ほうほうほう」
顎をさすってニマニマ笑いながら近づいてくる友には、グリフィルスも引き気味だ。
「な、なんだよ。気持ち悪い笑いを浮かべやがって」
「いやいや、なんでもない。しかし、お前も残念な奴だよなぁ。せっかくの休日を男友達と過ごすなんざぁ」
きょとんとなるグリフィの耳元へ、わざと卑猥な口調で囁いてやる。
「どうせなら、レナ団長を誘ってデートにも行ってくりゃいいのにさ。団長の乗せ心地は抜群だろうなぁ~、お尻の柔らかさが、こう、ダイレクトに背中へ伝わってきてよぉ~」
「…………ッ!」
グリフィは大きく唾を飲み込んだかと思うと、身体をぶるるっと震わせて、次の瞬間には顔を真赤に怒鳴ってきた。
「ばっ、馬鹿野郎!俺は団長を、そんな目で見ちゃいねぇッ!!」
「まぁまぁ、そう恥ずかしがるなよ。確か宿舎の横っちょにあったろ、人間用の風呂場ってなぁ。そんでバシャバシャ音が聴こえてきたらよ、お前にだって団長の湯浴みイメージが脳内に浮かんだんじゃねぇか?」
「…………し、してねぇっ、そんな妄想は!」と怒鳴っているが、後ろ足は突っ張っているし、尻が若干上がり気味だ。
「ほー。そういや、お前、下は履いてないけどよ。勃起した時にゃーどうやって処理してんだ?」
「はっ!?何言ってんだ、突然。って、覗き込むなッッッ!
ちょっと足元を覗き込む真似をしただけでも、勢いよく後退して潜り込ませまいとしてくる。
「いいじゃねぇかよ、俺とお前の仲だろうが」
「どんな仲だってんだ!」
「下は履かない主義なんだろ?ケンタウロスって。ならチンチン見られても、どーってことないじゃねーか」
「だからって、見られて嬉しいとでも思っているのか!?もう帰れ!お前、ここから出ていけっ!」
しまいには、全力で庭先に追い出されてしまったオーギュであった。
「ちっ、なんだよ……そこまで隠されると余計気になるじゃねぇか」
冒険者なんぞやっていりゃ民家の間取りは概ね把握できる。
ってなもんで、オーギュは謎道具が置いてあった場所の大体の位置を見定める。
あの部屋は西日が入る角度にあった。
ぐるっと回って探すと、ほぅら、あった。ちょうど例の道具を上から覗き込めるような位置に小さな窓が。
ちょっと背伸びすれば、道具と向き合うグリフィルスが見えた……

オーギュを追い出した後、グリフィルスは大きく溜息を吐き出す。
あいつときたら騎士団にいた頃は団長と俺との仲を勘繰りまくっていたと思えば、引退後は俺自身の生態に興味津々だと?
だがな、そう簡単に何でもかんでも話せるほど、仲良しこよしになった覚えはねぇ。
大体こんなの――道具に目をやって、もう一回溜息が出た。
こんなの、たとえ幼い頃からの大親友であろうと話せたもんじゃない。
よいしょっと道具に伸し掛かかり、藁を両手で抱える格好で、ギンギンに漲ったブツを穴に差し込んだ。
「……んっ、レナ……団長っ……」

窓から覗き見していたオーギュは、ひっそり唾を飲み込む。
グリフィが何をやっているのかといえば、藁のど真ん中に空いた穴へ己のいきり立ったブツを突っ込んで、一心に腰を振っている。
要はオナニーだ。あの謎道具は自慰行為で一発抜く用であった。
後ろ足の間に生えているんだとしたら、どうやってオナニーするのかと常々疑問だった謎が解消された。
さっきの猥談に反応していたとは、相変わらず青臭い奴である。
オーギュが騎士団に所属していた頃と何ら変わらず、全くの進展なしか。
グリフィルスがレナルディに惚れているってのは、態度で察した。
わざわざ聖都までやってきた理由を問いた時、キラキラした羨望の眼差しで彼女の魅力を一部始終語ってくれたのだ。
物腰穏やかで容姿が美しく公平な判断ができる人だとか何だとか。
おそらくは、何かの催し物で彼女を見ての判断だろう。
聖都の出身で、グリフィより先に所属していたオーギュから見ると、そこまで美化される相手ではない。
確かに見た目は麗しいのだが、割と激情家だし直情的だし一度こうだと思い込んだら部下の言う事なんか微塵も聞きやしないし、己の正義で突っ走っての暴走は一度や二度じゃない。
それでも彼女が失脚しないのは、貴族の出であるのと、あの見た目が大衆受けしやすいからだと思われた。
入団以降、それとなくグリフィルスの様子を伺ってみると、始終目で団長を追い回している。
そればかりか、じっと眺めて頬を赤らめる時もあり、恋しているんだとはっきり判る態度を見せた。
それでいて、問い詰めると誤魔化す。背中を押しても尻込みしてしまう。
任務の時は勇猛果敢なくせに、このギャップが可愛くて、オーギュの中で放っておけない奴になった。
今だって妄想の虜になりながら腰を振っており、口から漏れる喘ぎが妙に色っぽくて、オーギュは己の股間に火照りを覚えた。
「……やっべぇ」
覗き見がバレても事だし、そろそろ退散したほうが良さそうだ。
足音を忍ばせて庭をぐるっと周り、表の道まで出てくると、駆け足でその場を離れる。
まったく、貴族同士なんだし、さっさとデートに誘うなり何なりすればいいのに、グリフィも。
レナ団長だって気にかけているんだし、奴のほうから誘いをかけりゃあ無下にすまい。
なんせ騎士団所属中は、しょっちゅう団長に訊かれたのだ。ケンタウロスの生態について。
中でも彼女が一番ご執心だったのは、下丸出しなら遠征中のトイレはどう処理するのかといった点で、えっ意外とエッチなんだな貴族のくせに?なんて当時は泡を食ったりしたのだが、今思うと、団長なりに配慮していたのかもしれない。
きっとグリフィが遠征中に、おもらしでもしたら大変だと考えたのだ。
シモの内容だけに同性であるオーギュへ尋ねたらしいのだが、そんなのこっちだって知ったこっちゃない。
適当に答えて終わらせてしまった。
だが、今なら豆知識として伝授してやれる。
オーギュの足は、自然とレナルディの家へ向かった。


おしまい