断崖の謝罪

母さん、お元気ですか。
僕は、久しぶりに手紙を書いています。


僕がこの街に来て、もうすぐ二年になります。
その間に変わったことといえば、学校を卒業したことと、好きな人ができたことぐらいかな。
今の暮らしに不便はしていないよ。
欲をいえば、もう少し便利なところに引っ越したいぐらい。
でも母さん。
この街は母さんの住むところより、少し物価が高いみたいだ。
一人暮らしのアパートを探すのも一苦労だよ。

ああ、そうだ。
今日手紙を書いたのは、そんなことを伝える為じゃない。
母さん。
いまさら書くのも、なんだか照れくさいんだけど。
今まで僕を育ててくれて、本当にありがとう。
僕は、母さんのおかげでここまで大きくなれたのだと思う。
この感謝の気持ち。
感謝するという気持ちが持てる人間に育ったのも、母さんの教育のおかげだと思うんだ。
ありがとう。
そして、ごめんなさい。

これから僕がしようとしていることを、母さんは許すはずもないよね。
だけど、僕はあえて手紙にして母さんに伝えておこうと思う。
母さんが後から知って、悲しむのは嫌だから。
なんていうのは卑怯かな。どうせ同じ事なんだし。
でも母さん。
あなたの息子は、どうしようもなく無個性で駄目な子だったけど、母さんの息子であったことだけは、誇りに思っていたんだ。
それだけは、忘れないでください。


最初に、好きな人ができたって書いたよね。
とても素敵な人なんだ。
この街に来たばかりの頃に、色々と僕の世話をやいてくれた先輩でね、孝史さんっていうんだ。
学生時代に出会ったんだけど、サークルで意気投合してしまって。
気がつけば、僕は、もうこの人のことしか考えられなくなっていた。
あうたびに胸がドキドキして止まらなくなる。
いつの間にか、あの人の後をつけて回るようになってしまったんだ。
母さん。
こんなストーカーまがいの僕を知って、驚いたことでしょう。
ごめんなさい。
でも、それだけじゃないんです。
僕は、この間あの人の家に忍び込んで、盗みまではたらいてしまった。
きっと、警察は僕を捕まえたら母さんと同じぐらい驚くに違いありません。
僕が盗んだものですか?
それは、あの人の下着です。
洗濯かごに入っていた物を失敬してきました。
ごめんなさい。
でもね、母さん。
僕は、あの人の匂いをこうして間近に嗅いでいるだけでも幸せなんだ。
下着に残る微かな糞尿の匂い、そして汗と精液の匂いが僕を興奮させる。
こんな変態な自分を、僕は僕自身で止めることができない。
もう読むのも嫌になっているかもしれませんが、僕の懺悔は続きます。

僕は、昨日とうとう、ある行為を決行してしまいました。
あの人が入るのを尾行して、用を足す姿を盗撮したんです。
僕も、男同士ですから一緒に入ればいいのですが、一緒に入ったら、きっと僕はその場で孝史さんに襲いかかっていたと思う。


僕は僕が許せません。
いえ、このままでは僕はもっともっと変になってしまいます。
いつかきっと恐ろしい性犯罪を犯してしまうかもしれない。
だから母さん。
僕が警察に捕まるのを心配する必要はありません。
僕は今、この手紙を崖の上で書いています。
自殺の名所で有名な場所です。

僕は僕がまだ清らかだった頃に戻りたい。
でも、もう僕はその頃に戻れそうにもありません。
人を愛するって難しいことなんですね、母さん。
願わくば、そのことを前もって僕に教えておいて欲しかった。
でもそれを母さんに怒るのは、筋違いですよね。


さようなら、母さん。
生まれ変われるなら、もう一度あなたの息子になりたいです。



-おしまい-