俺が正義になってやる

俺がサンタになってやる!

今年のクリスマスは仲良しグループ単位で祝うことになった。
ウチの好きな子だけ集めて祝いたかったんやけど、向こうは向こうで友達付き合いあるよって。
友達全員、みんなのとスケジュール合わすのも一苦労や。
今年は、ほんまギリギリ日程になってしもた。
十六日から連日始まって、最終日が本命中の本命、小野山くんとのクリスマスパーティやね。
ま、正確には、ここも仲良しグループなんやけど。
小野山くんが引っ張りだこになってへんのは不思議やったけど、みんなの話訊いて納得したわ。
なんかね、全部断っとるんやて。んで、坂下ちゃんとのパーティだけ許可したんやて。
ウチが知り合った時点で坂下ちゃんと友達やったし、やっぱ彼女だけは特別なんかな。
プレゼントは交換会にしよって案も蹴って、自由に渡したいゆうてたし。
きっと坂下ちゃんに渡したかったんやね。
そんなら二人だけで祝えばえぇんや。なにもウチらとやる時に当てつけなくてもよくない?
って言葉が喉元まで出かかって、ウチはギリギリ押し留めた。
あかん。
なんか二人のこと考えるとウチ、胸の奥が痛みだすねん。
ただのムシトモだと思うとったんやけどな、小野山くん。
最初は数多くいる友達の一人やったのに、今は独り占めしたくて堪らないねん。
小野山くんのどこが好き言うたら、やっぱ奥ゆかしいとこやんな。
物静かやし、他の男子みたくスケベやないし。ここ、特大ポイントや。
二人きりになっても幅詰めてきたり手を握ろうとしない男子、小野山くんが初めてやわ。
坂下ちゃんは小野山くんよりウチに優しくしようとしてくれるのが、またつらくて、ね。
もう二人、付き合っとるようなもんやし、ウチに無理して気遣いせんでもえぇのに。
小野山くんの視線が坂下ちゃん一直線なのに対し、坂下ちゃんの態度が煮え切らんのも生殺しや。
当日は、なるたけ二人から離れて月見里くんや佐藤ちゃんと仲良うやっとこ。
けど月見里くん、大人しくて良い子やけど、彼の視線も小野山くんに向いとるんよね……
そいや、ウチの友達が言うとったわ。
小野山くんのおっかけ男子にはゲイも多いんやて。
もし月見里くんがそうやったら、小野山くん狙いでライバルやん。
嫌やな。友達と争うの。
佐藤ちゃんは、もっと分かりやすく小野山くん一筋や。
ウチの友達にも大勢いるタイプやね。
このクリパ、坂下ちゃんがリーダーと見せかけて、実は小野山くんファンパなんちゃう?
そんならそれで、ウチにも考えがあんで。
クリパで小野山くんに告白する。
いきなり付き合って下さいはハードル高いし、ここまで友達で仲良うやってきた関係にヒビが入るのも勘弁や。
だから、ね。
年末年始の家族スキー旅行、彼も誘うてみよ思うてる。
北海道の大自然、正しくは虫さんやんな、それを餌に引っ張ったら、イケるんちゃう?
二人っきりでテントに入って、それとなぁく良い雰囲気出して。うん。
梓ちゃんには悪いんやけど、小野山くんをウチのものにしたい。ウチだけの友達に。
はじめてなんや。男友達相手に、こんな想い抱いたの。
明日は佐藤ちゃんと一緒にお買い物行く予定や。
佐藤ちゃんって大人しいし手足も細くてウチ好みやけど、ちょっと野暮ったいんよね……
服選びが一昔前のアニメキャラっぽいってゆうか。
クリパで彼女を大変身!させてあげてもえぇんやけど、小野山くんが彼女を好きになったら困るし。
って、ウチなに言うてんねん。
えぇんや。小野山くんが誰を好きになろうと。
ウチは、ただ、小野山くんの一番の友達になりたいだけやし!
アホなこと考えとったら、寝不足になってまう。はよ寝よ寝よ。

佐藤ちゃんとの買い出しも終わって、あとは当日を待つだけやね。
当日の計画がゲームとケーキ作りだけって、一番物足りない内容やん。
ウチ、やっぱ小野山くんにプレゼント渡したい。
渡して、ウチだけの友達になってってお願いしたい……
けど、そんなこと言うたら小野山くんは優しいから困らせちゃう。
友達、いっぱいおるもんね。ウチだけに絞るの、なんぼなんでも無理や。
……よし!こうなったら、当日は目一杯オシャレしよ。
ウチがお願いするんやのぅて、小野山くんがウチになびくよう持ってったらエェねん。
彼の好みは坂下ちゃんやろし、要はナチュラルorスポーティやろ?簡単や。
髪の毛もアップにして、なるたけ坂下ちゃんに近づけたろ。ちょっと切らんとあかん?
そんなこと考えて鏡の前に陣取っとったら、夕飯になってママが呼びに来た。
「もうすぐクリスマスだけど、あなたは予定いっぱいかしら?」
「そやね、今年は家族パーティ無理かも」
頷くウチに、ママが笑う。
「夜までかかるわけじゃないでしょう?あ、それとも夜デートしちゃう予定なの」
ここで「うおっほん!」とパパの咳が妨害してきても、ママは超無視や。
「高校でもカレシいるんでしょ?今度ママにも紹介してちょうだいよ」
でもって何や、でもって。ウチは小中フリーやったで?
高校でも小野山くんと月見里くんだけや、親しい男子っちゅうたら。
他は、まぁ、ただの雑友やんな。雑談友達。
一緒に出かけても、なぁ〜〜〜〜んも関係が発生しない仲の。
「ウチ、そうゆうのいらんわ」
「まっ。高校生でカレシがいないなんて、逆に恥だわよ」
「うぅおっふぉん!」
またまたパパが咳妨害したけど、ママは安定のスルーやった。
ママのこーゆーマイペースなトコ、ウチ大好きやねん。
詮索好きなトコは、ちょぉっと辟易やけど。
「誰かいないの?夜までデートできるようなカレシ」
「彼氏やないけど、年末年始のスキーで誘いたい子いるよ」
「まっ、誰?誰、誰??」
「あとでママだけに教えとくわ」って言った時、悲しそうなパパの顔が目に入ったけど、あえて無視してウチは席を立つ。
どうせママ経由でパパにも伝わるんや。省略、省略。

クリパ中はプレゼント交換なしでも、小野山くんへのプレゼント、終わった後で渡そ。
小野山くんの好きなモノ……
虫が好きなのは判っとる。
趣味が空手とスケボーなんも。
スケボーは坂下ちゃんの受け売りとして、空手は小中高やってるって聞いた。
けど、クリスマスにスポーツ用品?ありきたりやし、そんなん毎日いっぱい貰ってそや。
ウェアも一生分もらってそうやし、スポーツ絡みのプレゼントは難しいわぁ。
む・む・む・むむむむ……むし。
そや、やっぱウチはウチの得意分野で勝負せな。
ウチがこれまでコレクションしてきた昆虫標本、この中でいっちゃん綺麗な蝶のやつ。
これ、贈ったろ。絶対誰のプレゼントとも被らん自信あるし。
プレゼントも決まったし、あ〜、当日楽しみぃ。
さぁて、寝る前にスケジュール確認、っと。
本命クリパ日に何の予定も入らんよう、念の為、友達全員に連絡回しとこ。