俺がサンタになってやる!

今年のクリスマスは夜までかかるかもしれないから家族で祝えないって言われて、驚いちゃった。
だって芽依に、あの子に夜まで一緒に遊べる友達がいたなんて。全然知らなかった。
そもそも、あの子は、あんまり学校で起きたことを教えてくれないのよね。
小学生ぐらいまでは毎日教えてくれていたのに。
それでも中学生までは家に友達が遊びに来るから、大体の交流関係は把握していたつもりだった。
芽依は漫画やアニメ、ゲームが大好きで、友達も似たような趣味の女の子が多かったわね。
男子は今まで一度も遊びに来ていない。小学生の頃から、徹底して友達は女子限定だった。
小学校から高校まで一貫して共学なんだけど、共学だからこそ男子が怖くなっちゃったのかもしれないわね……
ほら、子供時代の異性って、意地悪してきたりするでしょ。
大人になった今なら他愛のない悪意だったと思えるけど、あの頃は、そんな心の余裕もないし。
でも、芽依からイジメの話を聞いた覚えもないし、単に異性が苦手なだけかもしれない。
ま、それはいいとして。
夜までかかるクリスマスパーティーに参加したいからいい?って言われて、私は二つ返事でオーケーした。
やっぱり高校生ともなると、盛大にお祝いしたくなるのよね。
いいわねぇ、私も昔は友達と朝まで騒いだもんだわ。
どんなことをして遊ぶの?って聞いたら、ケーキを作ったりゲームをするんだって。
ゲームは判るけど、ケーキも自分で作っちゃうんだ!今どきの高校生って、すごいわぁ。
「今年は一緒じゃないのか、寂しいなぁ」
ぽつんとパパが呟いてきたので、言ってやった。
「そのうち、芽依に彼氏ができても寂しくなるわよ」
「彼氏!」と叫んで、パパが私の顔を見る。
「まだ、早いんじゃないか?」
「もう高校生なのよ?遅いぐらいだわ」
そう、私が高校生の頃には彼氏がいた。もちろんパパとは違う人。
卒業まで良い仲だったんだけど、社会に出たら疎遠になっちゃってね……
パパとは会社で出会って、寿退社したってわけ。
専業主婦になってもよかったんだけど、それはそれで子どもが大きくなっちゃうと暇なわけで。
今は午前中だけ宅配レディをやっている。
って、何の話だっけ?
そうそう、芽依に彼氏がいないのは遅すぎる!って話よ。
あの子ちょっと内気でシャイなとこもあるから、きっと学校でも、そのシャイっぷりを発揮しているに違いないわ。
おとなしい子は同性から見ると可愛いけれど、男子から見ると物足りないかもしれない。
私の昔のカレも、そう言っていたしね。
なんかそれ、私が騒がしい子だと思われているみたいでムッときたのも過去の話。
芽依は元が可愛いんだから、もっとおしゃれすればいいのよ。
何度か、そう言っているんだけど、本人は全然興味ないみたい。
もしかしたら、恋愛にも?うーん。でも、恋愛小説やドラマは好きみたいだし……
まぁ、いいわ。その時が来たら、きっと私達にも彼氏を紹介してくれると信じている。
そうしたら、私は笑顔で受け止めるのよ。おめでとう!って。
パパは……どうかしらね?ショックで落ち込むかもしれないけど、祝福できるよね?親なんだし。


日曜日、私達は芽依に誘われて近所のデパートまで出向いた。
驚いたわ。
だって、クリスマスパーティーに似合うお洒落着を買いたいって、あの子が言い出すんですもの!
私が何度提案しても頑としてファッションに無関心を貫いていた、あの子が、よ!?
芽依には、どんなスタイルが似合うかしら。えぇ、もちろん本人の好みを尊重したうえで。
せっかくのパーティなんだし、いつもの野暮なセーターは脱ぎ捨てて、ふんわりしたブラウスと――
「ね、これ似合う?」
あ、はいはい。
さっそく芽依が体に当てて確かめているのは、いやだ、毛糸のセーターじゃない。
いつもと同じジャンルじゃオシャレしたって言わないわ。
「うーん、いつも着ているのと変わらなくない?」
彼女の好みは尊重したい、けれど普段の登校と同じ格好じゃ駄目よ、イケてないわ。
「これなんか、どうだろう」
パパ推薦ファッションは黒のスーツだった。
スマートな芽依が着ればシュッとした印象を与えるけど、面接に行くわけじゃないから。
「スーツは堅いんじゃない?」と私が言うそばから、「やだ〜!リクルートスーツでクリパする人なんていないよ。お父さん、センス大丈夫?」って芽依にもボロクソ罵られて、あらら、パパったらシュンとしている。
普段全然おしゃれしない娘にセンスを疑われて、がっかりくるのは判るけどね。
「これなんか、どうかなー」
私が選んだのは白のブラウスに明るい灰色のパンツの組み合わせ。
ブラウスは胸元に星型のアクセントがついていて、光加減でキラキラするとこなんかクリスマス向きだと思うのよね。
芽依に派手な化粧は似合わないから、おとなしめでいながら目立つ服を与えないと。
たとえクリスマス女子会だったとしても、地味なモブで終わっちゃったら寂しいじゃない。
「ん〜。可愛いけど、ブラウスだと被っちゃいそう」
「誰と?」
思わず聞き返した私に、芽依が答える。
「友達の一人が、こういう服好きっぽくて。あっちのほうが全然可愛いし、被ったら悲惨だよ」
あー……可愛い女子一人、確定。ブラウスはペケ、と。
「他にどんな子が参加するの?ほら、誰とも被らない方向でいくなら」
ついでとばかりに野次馬根性で聞いてみたら、最近の彼女にしては、すらすら答えてくれた。
「もう一人女子がいるけど、この子とは被らないと思う。趣味が全然違うし。残りは男子が二人で」
「男子!?」
パパと私の驚きが重なり、芽依も驚いた顔で私達を見やる。
私は慌てて取り繕った。
「あ、ごめん。男子なら被らないわね。さぁ、あなたに似合う服を探しましょ」
再び芽依の選ぶ服やパパの選んだ服を見ながら、私の思考は上の空まで飛んでゆく。
男子、男子……うわぁ。
男子が二人も参加するんだ!
ケーキ作りをするって聞いていたから、てっきり女子会なんだとばかり思っていた。
お菓子作りが好きな男子かぁ。おとなしそう。
あの学校には粗野な男子が多いんじゃないかって、ずっとパパと心配していたのよね。
だって県内有数のヤンキー高校でしょう?
あの子に表坂を受けたいって相談された時は仰天したわ。
いくら学力が届かないからっていっても、不良だらけの高校を選ぶなんて。
もうちょっと頑張ってみればって励ましても結局、表坂と公立と櫻谷の三つを受けて、それで表坂だけが引っかかったのよね。定員割れで。
あーあ、せめて櫻谷にも受かっていればなぁ……
まぁ、今となっては表坂でもいいかって感じよ。芽依に男子の友達が出来たんですもの!
櫻谷は女子校だもんね。そっちに行っていたら、この展開はなかったわ。
それにしても、うふふ、二人かぁ。どっちが芽依の好きな子かしら?
あ、でも可愛い子が参加するって言っていたわね。まさか、二人とも、その子狙い?
ううん、友達とも言っていたし、あくまでも清き男女交流グループなのよね?
あぁん、具体的に名前を知りたい!あと姿格好も大体でいいから聞き出したい!
「ママ、ママ、どうしたんだい?」
「も〜お母さんってば、全然聞いてない!」
……ハッ!
我に返った私を、娘とパパが心配そうに見つめている。
やば、うっかり妄想の虜になっていたわ……!
「疲れているんだったら、少し早いけど、どこか入るかい?」
気遣ってくるパパに手を振り、私は「ごめんごめん」と謝るのが精一杯。
「あ、それで服は」
「もう決まったよ。あとはプレゼントを買いたいから六階行こ」
「え?交換会もやるの?」とピントのズレた私に、パパが突っ込む。
「いや、そうじゃない。芽依が個人的に渡したい相手がいるんだそうだ」
え、何それ?どういうこと?
チラリと娘を見やると、芽依は恥じらいながら、ボソボソっと早口に呟いた。
「プレゼントをあげたい人がいて、クリパが終わったら渡そうかと思って」
――あ。
ぼやけていた私の脳裏に、ピンと閃くものがある。
こうやって暈すってのは、男子二人のどちらかにあげるんだ!プレゼント。
私が妄想の虜になっている間に、しっかり聞き出していたのね。
パパGJ!GJ!!
「オッケー。その子は、どんなものが好きなの?」
「えっと。多分だけど、ゲームは好きじゃないと思うんだ」と、芽依。
ゲームが好きじゃないのに、ゲームをやるパーティに参加するの?
随分と、つきあいがいいのね……或いは、友達に気を使うタイプかしら。
「自然が好きで……あと、空手もやっていて」
空手?
「空手以外のスポーツも大体好きっぽい」
ふむふむ、スポーツマンかぁ。
「なら六階じゃなくて、五階のほうが良くない?」
私がスポーツ用品売場を指差すと、芽依は首を振る。
「スポーツ用品は他の子にも貰っていると思うから、本をあげようと思って」
本?でも、空手やっていてスポーツが好きなのよね?
言っちゃなんだけど脳筋、んんっ、ゴホン、インドア趣味は興味ないんじゃなくて?
「本を?でも、スポーツが好きなんでしょ」
「自然も好きって言ったでしょ。だから、昆虫図鑑をあげようと思ったの」
さすが芽依、オタクなだけあって鋭い着眼点ね。
自然というか具体的には虫好きなんだ。典型的、外で遊ぶタイプじゃないの。
インドア派な芽依とは正反対だし、どういう経緯で彼と友達になったのかしらね。
他にも参加する友達がいるみたいだから、友達の友達?それなら、ありえるか。
「それで六階なのね」
尋ねる私に、娘も頷く。
案内板を見るまでもない。芽依が行くのは、いつも六階にある本屋だ。
本屋で吟味して、これぞ!という立派な昆虫図鑑を選んで帰路につく。
最近の図鑑って二万円もするのね……とほほ。
服もプレゼントも全部親持ち。どうりで買い物に私達まで誘ったわけだわ。
けど、芽依の幸せそうな笑顔を見られたんだからヨシとしなくっちゃ。
あの子には、いつも幸せな気持ちで生きていてほしい。
まぁ、親なら当然よね、娘の幸せを願うのは。
初の男子参加クリスマスパーティも、どうか幸せなものでありますように――

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