合同修学

ついにやってきた初行事!
その名も合同修学――
ぬぁ〜んとッ!学校内でキャンプごっこをやってしまおうというキャッキャウフフなお楽しみだったのだーッ!
奇数クラスと偶数クラスに分かれて、体育館でテントを張ったり飯を作ったりキャンプファイヤーならぬダンスをやったりするらしいっ。
ンハーッッ!
お聞きになりまして?皆さん。
ダンスですよ、ダンスッ。ダンスといったら、輪になって男女で手を繋ぐアレでございましてよ!
ゲームや漫画では多々見かけるけど、リアルでやったことって一度もないんだよね〜。
そもそもフォークダンスを踊る機会が全くない。運動会の競技にもナイナイったらナイ。
キャンプ自体は家族で何回か行ったことあるんだけどネ、家族とじゃ単なる焚き火だよね。踊るにも値しない。
やっぱりクラスの女子と手を握ってこそダンスの本懐!
憧れの悠ちゅわんの、お手々をしっかり握って……スベスベハァハァ……

俺「悠ちゃんの手ってスベスベで綺麗だね👀」
悠「あん、もう、アオくんってば撫ですぎ😊くすぐったいよぉ」
俺「こっちのほうもスベスベかな👅」
悠「あぁん、だめぇっ、アオくん、そこは……きゃうんっ!💖」

もりあがるダンス、裸になって抱き合う二人――
……グヘヘヘヘ。
おっといかん、涎が。
夜が更けたら、女の子たちのテントに忍び込んじゃおっかな〜。
無防備におねんねする悠ちゅわんのブラジャァを、そっと脱がしたりして、グフフ。
想像だけで滾ってくるぜ。早く夜になぁ〜れっ!


昼飯は照焼チキンと野菜サラダを鉄仲間と一緒に作った。
悠ちゅわんは相変わらずの大人気で、前と左右を女子に囲まれていたんじゃ俺の入る隙間などない。
はぁ……エプロン、可愛かったなぁ〜。
野菜を切るだけだってのに、他の女子なんぞ視界に入らなくなるほど神々しいお姿であった。
新婚生活は、毎日あの格好で俺の飯を作ってくれるのかぁ……えぇわぁ〜。
ついでに後ろから抱きついてモミモミしちゃったりして、ウヒヒ。
俺の趣味を把握している若妻悠ちゅわんは、ノーブラだからビーチクが浮き上がっちゃうんだぜ。
コリコリしたら甘い喘ぎ声をあげたりなんかしちゃってさぁ……
「おいデブ、そこどけ、邪魔だよ」
ドンッ!と勢いよく真横から突き倒されたせいで、俺は勢いよく尻もちをつく。
おほー、痛ェ。体育館の床は固くて、ケツに優しくない。
なんだよ。人が楽しく妄想していたのに邪魔しやがって、クソヤンキーめが。
「だ、大丈夫か?」と友人に心配されて、平気平気と手を振りながら俺は立ち上がる。
「今の、六組のやつだぜ。先生にチクッとこうか」とも言われたが、「やめやめ、変に恨まれたら面倒くさいぞ」と止めておいた。
短い自由時間をクソヤンキーの密告などに使うのは、大いなる時間の無駄遣いだ。
「それよっかJRのキャンペーンチェックしとこうぜ。次の旅行計画をさ」
「おっ!いいねぇ〜」
俺の提案に友人もノッてきて、瞬きの合間にヤンキーの存在は忘れ去られる。
すいすいとスマホ画面をスワイプして、お目当てのキャンペーンを皆で覗き込んだ。
ここ、第二体育館にもWi-Fiは通っている。入学したての頃、あちこちで試しといたんだよな。
行事中はネット不通かもしれないと危ぶんだが、ちゃんと繋がっている。良かった。
自由時間にネットが見られないんじゃ、やることないもんなァ。
不意に、わぁーっとバスケコートのほうで歓声が上がって何だと見てみれば、あ・れ・は……!

小野山 育ゥ……!貴様、何でバスケ部員でもないのにバスケやってんですか!?

そうなのだ……偶数クラスには二組も含まれる、最悪なことに。
午前中の調理実習ではジミメン達と大人しく調理に勤しんでいたようだが、自由時間で皆の注目を集めるたぁ油断のならない、ギリィッ。
試合は3on3、さっき俺にぶつかってきたクソヤンキーも一緒になって遊んでやがる。
が、背丈の差は如何ともし難く、クソヤンキーの頭上をボールが軽々と飛び越えてゴールへ舞い降りる。
ずるいよなー。あのタッパでシュートされたら誰も届かねぇっての。
小野山とチームを組んだ二人は、ほとんど何もしていない。
奴に活躍を独り占めさせるぐらいだったら、チームメンバーになるんじゃねーよ。この役立たずどもが。
あーあ、まわりの女子は全員小野山に歓声向けてるし……って、ハァッ!?
コートを囲む女子の群れに悠ちゅわんを見つけて、俺は目玉が飛び出そうになった。
嘘……
嘘でしょ?
嘘だと言ってよ、悠ちゅわんっ!
きっと友達に誘われて義理で見ているだけだよね、そうだよね!?
断じて小野山に興味があるんじゃないんだよね!?お願い、興味なんか持たないで!
小野山がシュートを決めた瞬間、悠ちゃんが大きく手を振った。
違う、あれは周りに釣られた応援だ。心からの応援じゃない。絶対違う!
やだー!やだやだ、小野山なんか見ないで!目を閉じて!
今すぐ、そこから立ち去って!!
汚れちゃう……悠ちゅわんの目が汚れちゃうよぉ……
やがて絶望の自由時間は終わりを告げて、バスケを見ていた生徒や試合をしていた連中がバラバラあちこちへ散る中、「大丈夫か?気持ち悪そうだけど」と背中を撫でてくる友人の手が温かい。
「ほら、土日ちょうど空いてたから、一応予約取っといたぞ」
俺が悠ちゅわんに気を取られている間に、来週の予定を決めておいてくれたらしい。さすがは我が友、グッジョブ。
それと引き換え、あの野郎ときたら。
「小野山……許さん……」
思わず心の闇が出てしまって慌てたが、友人は全く気づかなかったようで。
「次、裁縫実習か〜。アオは縫い物得意?」と尋ねられて、俺は首を真横にふる。
自慢じゃないが、家庭科は苦手だ。さっきの調理実習だって友人が一緒じゃなかったら、ポイしてたとこだったぞ。
や、ポイしたら昼飯抜きだし、そこそこ頑張って作りましたとも!
つっても肉を切るのや野菜を切るのは全部友人にお任せして、汚れた道具を洗うのに専念したんだけどね。
だってさぁ、俺が作ってマズいメシになるぐらいだったら、上手い人に任せたほうがいいじゃん。
裁縫も然り、俺が縫ったら割烹着もエプロンも全部雑巾になっちまう。
けど、こればっかりは誰かに押し付け、げふんごほん、やってもらうわけにもいかないしなァ〜。
仕方ない。これも友人と一緒に乗り切るか!
「ちまちまやってテキトーに終わらせようぜ」
「そうだねー」
かったるい会話をかわして適当な場所を確保する俺達の背後を、爽やかなカホリが通り過ぎていった。
このニホヒは――悠ちゅわん!?
勢いよく振り向いた俺の目が捉えたのはコワモテ髭面高校生、矢島 一颯であった――
……え?
待って、今のフローラルな香りを振りまいていたのが、かの留年生って嘘だろォ?
今見たものを忘れようと首を振りながら、俺は友人と一緒に裁縫用の布を取りに置き場へ向かった。

TOP
Site Index