己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


龍輔&誉

ここ数ヶ月、龍輔と誉は一緒に行動してきたのだが、全くと言っていいほど誉のフレンドリストは人が増えなかった。
相手が快くカードを差し出してきたとしても、誉が許可しないのでは増えるはずもない。
何故拒否するのか?と尋ねれば、きまって、彼はこう答えた。
「龍輔さえ側にいてくれたら、他には何もいらない」
つきあいは長いほうだが、実際のところ誉が何を考えているのか龍輔には理解し難い。
龍輔に懐くぐらいだから孤独が好きというわけでは、ないのだろう。
しかし、頑として友達を作ろうとしない。
この世界に住みたいという割に、付近の地理に興味を持っているようにも見えない。
もしかしたら単に怪盗団のいる、あの世界へ戻りたくないだけなのかもしれなかった。


やがて次のイベントの告知を見つけ、龍輔は誰かと連絡を取ろうと考え、そして気が変わった。
いつも他のフレとばかりイベントを過ごしてきたが、たまには誉と二人っきりというのも悪くない。
誉は龍輔の覚えている限りじゃ、今まで何のイベントにも参加していない。
せっかく架空世界に来たというのに、それじゃ味気ないにも程がある。
ホワイトデーは、告知を見る限りではバレンタインデーの男版といったイベントだ。
ただし、参加資格があるのはバレンタインデーでチョコを受け取った者のみ。
大丈夫。
龍輔は女性のフレから山ほどもらっていたし、誉には龍輔から贈ってある。
いつも留守番で寂しそうな彼に、お土産として買っていった店売りのチョコだった。
チョコは他にも、そう、ハロウィンで知り合ったエイジにも渡したかったのだが、拒絶された。
そればかりか、どうやらブロックされたようで、あれ以来エイジの姿を一度も見ていない。
寂しい話だ。
だが、いい。
断絶されたなら、縁がなかったのだと諦めよう。
「誉、今日は二人だけでダンジョンに挑戦してみようぜ」と誘ったら、誉は顔を輝かせる。
「行く、すぐに用意する!」
尻尾があったら千切れんばかりの勢いで振りそうなほど勢いよく頷き、自室へと飛び込んだ。
かと思う暇もないハイスピードで戻ってきて、「早く行こう」と急かしてくる。
「お、おう」
却って龍輔のほうが引き気味に、ホワイトデー特設ダンジョンのあるフィールドへ向かった。

ホワイトデーイベントの概要は、こうだ。
バレンタイン同様、他人にあげられるスイーツはダンジョンのボスがドロップする。
ただしランダムで三種類落ち、効果も、それぞれに違う。
スイーツは店売りのもあるから、ダンジョンへ入れるほど強くない者は、それを買うのもアリだろう。
また、イベント限定ダンジョンでしか落ちないレア装備も幾つか用意されていた。
「誉、どうせだったらレアドロップ周回も兼ねて、何度か回ろうぜ」
龍輔の提案に、一も二もなく誉は飛びつく。
レアドロップよりも龍輔と一緒にいられる事が嬉しいといった風に、腕を組んできた。
「龍輔と一緒にイベント周回できる日が来るなんて、夢みたいだ」
「えっ?」
「今日は、ずっと二人だけで一日すごそう」
しかも、いつもと違って饒舌でもある。
誉がベラベラしゃべる姿を龍輔は初めて見た。
ここへ来たばかりの頃にも、二人だけで行動していた時期がある。
序盤のレベルアップ時代だ。
その時は誉も、ここまでハイテンションではなかった。
そもそも元の世界でだって、誉は大人しい奴であった。
龍輔に懐いているといっても口数は少なく、大抵は頷くか首を振るの二択だったのに。
嬉々としてダンジョン入場用チケットを買い求める誉に、龍輔が話しかける。
「ランダムドロップはキャンディとマシュマロとクッキーの三種類か。なぁ誉、お前なら、どれを食べてみたい?」
これも普段なら「龍輔がくれるのなら、どれでもいい」と素っ気ない返事がくる場面なのだが、今日の誉は一味違い、そっと上目遣いに言い返してきたのだ。
「それを俺に聞くというのは……俺に、どういう反応を期待しているんだ?」
「いっ!?」
恥じらう表情を向けられて、さしもの龍輔も言葉に詰まる。
まずい。
今の顔は歴代・誉ベスト萌え顔ランキングで上位に入るほどの可愛さだった。
見せられたのが風花や樽斗だったら、速攻で誉を押し倒しているところだ。
「い、いやっ、その、ど、どういう反応って、なぁ?た、他意はねーよ、特に」
なんとなく龍輔まで恥ずかしくなってきて、ふいっと目線を逸らして、どもりまくるうちに誉には再び腕を取られ、「チケットも買ったし、そろそろ入ろう」と促された。
「お、おぅ……」
入る寸前で気がついたのだが、周囲の視線が自分達に集まっている。
正確には自分じゃない。誉に、だ。
あちこちで女性が囁くのも聞こえた。
こんな可愛い子、今まで見たことない――とでも、話しているのであろう。
何度でも言うが、誉は美少年だ。
チラッチラと誉に好色な視線を送ってきているオッサンどもに気づき、龍輔の視線も険しくなる。
ダンジョンはバレンタインの時と同様、パーティ入り乱れての混戦となる。
軽い気分で連れてきてしまったが、もっと周りに気をつけるべきではなかったのか。
いざとなったら、誉を守らねばなるまい。
スケベオヤジどもの手から。
無論スケベオバハンも、その範疇だ。


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