己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


龍輔&誉

ネオンダクトの街で生まれた誉は、親の顔を知らない孤児であった。
路地裏でゴミ箱を漁る毎日だったのを悠平に拾われて盗賊団の仲間になり、いきなり知らない奴らにチヤホヤされて最初は戸惑ったし気味悪いとも思ったけれど、その中でも特に、親しげに話しかけてくれる龍輔には好感を持った。
龍輔は不思議な奴だ。
盗賊団のメンバーの殆どが貧しい奴か孤児という構成であるのに対し、彼の両親は健在だし暮らしに困っていたふうでもないのに、盗賊団の仲間になった。
やがて彼の目的が風花にあると判っても、誉の心に生まれた龍輔への想いは消えなくて、だからこそ元の世界には帰りたくないと誉は切に考えた。

下着も全て取っ払い、誉は龍輔の全身を、まじまじと眺める。
良い体格だ。
無駄な贅肉がなく、適度に筋肉もついている。
いわゆる細マッチョというやつであろう。
「龍輔……」
肩、胸、腹と触れていき、そっと下腹部のものにも手を伸ばす。
下半身は見慣れたものであるが、龍輔のを見て女性が驚くのも無理はないと誉は思っている。
龍輔は少年少女の多い盗賊団において、悠平と並ぶ成人男性である。
従って、そこんところも充分大人なわけで……
「ん……ぁ」
誉は躊躇することなく、龍輔のものに舌を這わせる。
イベント参加は対人モード常時オンだから、口の中にも龍輔の味が広がった。
どれだけ誉がペロペロと舐めまわしても、龍輔の起きる気配は一向にない。
強制的に眠らされるアイテム、クッキーを無理矢理口に詰め込まれたのだ。
一定時間で効果は切れるとも書いてあったが、正確な時間が判らない。
判らないが、この時間が永遠に続けばいいのにと誉は思った。
龍輔が好き。
誰にも渡したくない。
この世界の女どもにも、そして風花にも。
爆睡していても感じているのか、龍輔のものはムクムクと起立し、そり上がる。
ぬるぬるしてきたのは自分の唾液のせいか、それとも別の何かなのか。
「龍輔、龍輔……好き」
先端にちゅっちゅと軽く口づけてから徐に誉が咥えこむと、「ん……んんっ」と小さく呻いて龍輔が身じろぎした。
「ふっ、風花……そこはっ、やばい」
風花とする夢でも見ているのか。
彼の口から、あいつの名前が漏れた途端、誉の心にチクリとした痛みが走る。
違う。
龍輔を愛撫しているのは、俺だ。
風花じゃない。
咥えたまま舌先で何度も突いてやると、そのつど龍輔の口からは言葉にならない声が漏れる。
びくんびくん、と体を震わせる彼を可愛いと感じた。
彼は誉より、ずっとずっと大人なのに、年上なのに。
「龍輔……」
脈打つものを解放してやると、誉は龍輔の唇に己の唇を重ね合わせる。
するとキスされるのを待っていたかのように、龍輔の瞼が開かれた。
「……ん……んんんっ!?」
まず、ベッドに寝ている自分を確認し、続けて自分が、どのような事態に陥っているかを確認した龍輔は、勢いよく上に乗った者をはね除ける。
はね除けられた誉が、すたっと華麗に着地するのには目もくれず、感情のままに叫んだ。
「んなっ、何してやがんだ、誉ェ!!」
「キスしてた」
あっさり答えが返ってきて、龍輔はキョドった目を向けた。
誉は平然としており、黒い瞳でじっとこちらを見つめている。
「誉、なんで、こんな真似を」
「俺は龍輔が好きだ。だからキスした」
「す、好きって」
そういう"好き"だったのか?
ずっと兄貴分な存在として好かれているんだと思っていただけに、青天の霹靂だ。
それに誉が、天使の如く清らかで穢れを知らぬように見える彼が、キスを知っていたのにも驚いた。
「ほんとは最後までやりたかったけど」
最後までとは、どこまでか。
いやさ、本格的に性行為を誉がご存じだったとは、開いた口がふさがらない。
「龍輔は入れられるのと入れるのと、どっちが好きなのか判らないから、やめておいた」
真顔で淡々と言われ、龍輔は全身から力が抜けるんじゃないかと思った。
「あ、あのな……」
まだ動転しているのを無理矢理自分で制し、龍輔は緩く頭を振る。
「入れるのと入れられるのどっちが好きって、単純に考えりゃ判るだろ?」
龍輔は自他共に認める女好きである。
男を好きだと宣言したことは、生まれて一度もない。
いや、この世界へ来てからは一度だけ男に迫ったりもしたが、あれはエイジが可愛すぎるからいけないのだ。
「入れるのが好きか」
「まぁな、だが男のケツに入れる趣味もねぇよ」と龍輔は答えると、ベッドを降りた。
「お前こそ、男が好きだったのかよ」
尋ねると、誉は首を真横に振る。
「違う。男が好きなんじゃない。俺は龍輔が好きなんだ」
またしても、じぃっと黒い大きな瞳が自分を見上げてくる。
龍輔は返答に詰まり、ボリボリと頭をかいた。
誉は可愛い。龍輔の目から見ても。
可愛いが、しかし、性的な対象かと言われると違う。
エイジの時とも状況が違う。
あの時はエイジがエロい声を出したりするから、龍輔の調子もおかしくなった。
では誉がエロい声を出したら、エイジと同じく誉にも欲情してしまうのか?
――と、言われると……
「誉、ちょっとごめんな」
「えっ?」
「テスト、テスト」
何を思ったか、龍輔がいきなり誉の乳首をシャツ越しに摘んでくる。
「はぅんっ」と小さく喘いで、誉は龍輔に抱きついた。
「や……っ、龍輔、だめっ……」
長い睫毛を伏せて、小刻みに震えている。
両手は、しっかり龍輔の首に回されており、誉のスレンダーな体が密着する。
誉もエイジ同様、男らしいとは到底呼べない、どちらかというと中性的な顔立ちだ。
それが急接近してきて、乳首をきゅっきゅとこねるたびに甘い吐息を漏らすものだから、元よりいきり立っていた己の下腹部に熱い血がたぎる。
そもそも、なんで自分は勃起しているのか?
素っ裸なのは誉がやったんだとしても。
夢で風花といちゃついていた記憶があるから、そのせいか。
だが、それよりも今は誉だ。
彼は譫言のように何度も龍輔の名を呼んでいた。
熱い吐息を漏らす様は、エイジ以上にエロティックである。
不思議なものだ。これまで全然眼中になかった相手をエロいと感じるなど。
「龍輔、好き……大好き……」
誉の長い睫毛が涙で濡れている。
そっと口づけてくるのを、今度は、はね除けたりせず龍輔も受け止めた。
舌で口の中をなぞり、唾液を吸う。
何度もそうしたあとで唇を離すと、誉は、ほぅっと小さく溜息をついて俯いた。
頬が微かに赤い。
黙ったままというのも居心地が悪い。
何か言おうと龍輔が口を開きかけると、先に誉が微笑んできた。
「龍輔。今度は受け止めてくれて、ありがとう」
「……ん、あぁ、まぁ」
泣くほど好きだと言われては、無下に突き放すことも出来ないじゃないか。
それに、きっと誉がしなければ自分でしていたかもしれない。キスを。
エイジの時もそうだったが、衝動的に『したい』という欲情が突き上げてくるのを龍輔は己のうちに感じていた。
何故なのかは、自分でも判らない。
判らないが、要するに自分は相手が誰でもお構いなしな野獣なのだろうか?
風花じゃなければ嫌だと言い切れる自信もなくなってくる。
「龍輔」と腕を引っ張られ、龍輔は我に返った。
誉が指をさす方向を見て、呆然と呟く。
「壁が……開いてんな」
「あぁ」と頷き誉も立ち上がる。
だが部屋を出るかという時に、不意に彼が尋ねてきた。
「これからも、ずっと俺の側にいてくれるか……?」
「ん?そりゃあ、な。約束したし」
よかった、と誉が小さく呟くのを耳にしながら、龍輔は誉と一緒に部屋を出た。
そして二人揃って「えっ!?」となった。
何故ならば――


そこは、今まで通ってきたはずのイベント用ダンジョンではなかったからだ。
「何呆けてんのよ、龍輔。誉ちゃんは、おかえりなさい!今まで何処に行ってたの?」
耳に響く甲高い少女のキンキン声。
いや、これは風花の声だ。
周りを見渡すも、見慣れたアジトの景色じゃないか。
いつ、どうやって、何がきっかけで戻ってこられた?
考えようとすると頭が痛い。
だが、考えなければいけないはずだ。
いや、考えなければいけないものか?
傍らの誉を見ようとして、龍輔の視界は、ぐらりと歪む。
「ちょ、ちょっと誉ちゃん、しっかりして!誰か、誰か救急箱ーっ!」と叫ぶ風花の悲鳴を聞きながら、誉も龍輔も意識を失い、次に目覚める頃にはMMORPGでの記憶など一切二人の脳からは消えていた――


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