肆の陣:合流
ナゴヤ城主の堀田に降魔忍群探索を命じられたジェイドたちは、ナゴヤの辺境チャイナロウスにて無事、竜魔を見つける。
城へ報告するため城下町まで戻ろうという話になり、地元民である月斗の協力を得た後は道場の裏門を抜けて細い小道へ出た。
月斗曰く、外壁を大回りに抜けていく道なのだそうだ。
それでは余計に時間がかかってしまうのでは?と慌てるカイルへ手を振った彼が言うには、迷路のように入り組んだ道よりは歩きやすく、それでいて距離も最短らしい。
「ただ、ここにも見回り組は入り込んでっからな?あいつらと出会ったら、俺に任せといてくれよ」
「お願いします」と素直に頷き、一行は月斗の後に従った。
一本道を黙々と進むうちに、前方へ見えてきたのは例の羽織を着た侍だ。
「おう、お前ら何処へ行きよるんじゃ?」
身構える間もなく話しかけられて、緊張するカイルらを背に月斗が答える。
「これから対外試合をするんですよ、ナゴヤでね」
「ほぅ……」と顎をさすり、隊員が月斗の顔を覗き込む。
「相手は誰じゃ?」
「へぇ、雪柳流泉点火っちゅう我流の拳法だそうです。是非にともとお願いされたので、胸を貸してやろうと引き受けました」
恐らくは完全アドリブだろうに、月斗の舌もよく回る。
しばし考え、侍は歯を見せて笑う。
「ホンマに聞いたことのない流派じゃけぇ。チッポケな相手やけんど、ゾロゾロ向かいよるんか」
「こっちゃ老舗の流派ですからネ。マイナー流派が相手といえど、手は抜けませんや」
ニッカと笑う月斗へ見回り組隊員は、ひらひらと手を振った。
「そうけそうけ、ほな頑張りやぁ」
何度もペコペコお辞儀する月斗に習い、ジェイド以外はお辞儀をしながら侍の横を通り抜ける。
完全に侍の姿が地平線の向こうへ消えた辺りで、カイルは、ほぅっと安堵の溜息をついた。
「……さすがです、月斗さん」
「まぁね、何度もやっているからねぇ、今のやりとりはサ」
月斗は肩を竦めて、しかし速度を緩めず歩いていく。
「へぇー。何度も対外試合を引き受けるって、オマエの流派って流行ってんだな!」
ジェイドにも褒められて、「まぁねぇ、うちも伊達に老舗を名乗ってねぇかんな」と頷き、月斗は笑った。
永遠に続くかと思われた長い道にも終わりが来て、一同はナゴヤ城の裏側へ足を踏み入れる。
城の周辺に変わった様子はない。最後に出た時と同じように見える。
だが表に回って、初めて気がついた。
門の周辺を埋め尽くさんばかりの侍が、警備についていた。
「な、なんや?いやに物々しいやんけ」と久我が驚くのも無理はない。
城を中心として、殺伐とした空気が漂っている。
こちらが話しかけるまでもなく、武道家軍団は警備の一人に呼び止められた。
「何者か!貴殿らの身分証明を致せ」
「ワイは万寿屋が店主、久我 団十郎が第三の子息、久我 十三郎!殿の命により、行方しれずとなっていた竜魔はんの身元を保護したんや」
警備の者が一斉にどよめく。
「左様か。では、ついてまいれ」
警備に案内されて、一行は再び城に入った。
廊下でも腰に刀を差した侍は以前より多く、出会うたびに訝しげな視線を向けられる。
そのたびにカイルは内心卑屈になりながら会釈を返し、ようやく殿様のいる部屋へ到着した。
ナゴヤの城で一行を待っていたのは殿様だけではない。
甲賀忍頭目、劫火の姿もそこにあった。
「は、はじめまして。カイル=ディ=シルフィナと申します」といったカイルの挨拶をうるさそうに手で払うと、劫火はジロリと久我を睨みつける。
「帰っていたんだってな?なんで俺に連絡を寄越さなかったんでぇ」
「や、すまんのぅ。殿様の命令で竜魔はんを探しに行っとったんや」
久我は悪気なく答えると、座り位置を直して竜魔が誰の目にも入るようにする。
「降魔忍群が頭目、竜魔はんを連れて戻りましたで。ほんで堀田様、今の情勢はどうなっとりますんや?なんかえろぅ外の警備が物々しゅうなっとったけど」
答えたのは殿様ではなく劫火だった。苦々しい顔で吐き捨てる。
「あぁ、柳一族が見回り組の配下についた。おかげでやりにくくなりそうだぜ……ったく何考えてんだ?あいつは」
後半は誰に言ったものでもなく、独り言のようだ。
「柳一族というと……ギルド員の楼さん、でしょうか?」と尋ねたのはカイルで、劫火は頷く。
「あぁ。幻の忍術、伝説の忍者……いろんな呼び方があるが、一つだけ判ってんのは善も悪も関係ねぇ、柳一族は金銭だけで味方を選ぶ暗殺者軍団だ。俺はまだ立ち合った事がねぇが、噂だけなら爺さんから散々聞かされている。爺さんの話じゃ、奴らは単体でも強いんだとよ。やってらんねぇぜ」
ならず者軍団に冷酷無比な暗殺者集団が補強されてしまったのでは、劫火ならずとも投げやりな気分になるのは致し方ない。
「なぁなぁ、まだオオエドの殿さんは来てねぇのか?」
ジェイドの問いにも、堀田は悩ましい下がり眉で首を振る。
「井妻之殿なら遅すぎるのォ~と今、劫火とも話しとったトコじゃけん。しかし、あんお人は変わってなさるきに予想もつかんのじゃけェ。やはり検問に人を立てておくべきじゃったかのォ」
せっかく降魔の頭目を仲間へ引き入れたというのに、事態は全く進展していないばかりか、強敵登場で暗雲が立ち込めている。
暗い雰囲気を払おうと、劫火は強く出た。
「それよりも、殿。こうして無事に降魔の頭目殿を保護できたのです。残りの降魔も探しだし、反撃の狼煙を上げましょうぞ」
彼らが期待を寄せている降魔忍群頭目の竜魔は、ここにきても意志消沈しているかのように項垂れ、皆の話を聞き流していた。
「オオエドが兵を出してくれさえすりゃ~こちらも手の打ちようがあるんじゃけんのォ」
殿様は、ぶつぶつと宙を見上げて呟いている。
元気のない竜魔には、ねこむーちょが話しかけた。
「どうしたんでちゅか?竜魔しゃん。何か気になることでもあるんでちゅか」
竜魔は言おうか言うまいか少し逡巡していたようだが、ポツリと呟いた。
「いや……柳一族を、ここへ来る前に見かけた」
「何だって!?なんでそいつを真っ先に言わねぇんだッ!!」
掴みかからん勢いで鼻息荒く迫ってくる劫火を、やんわり押しのけながら竜魔は続けた。
「すまない……見かけたのは、キョウとオオエドを繋ぐ検問だった。宿から後をつけられたのだ」
「それで?戦ったのか、柳の連中と!?」
「あぁ……恐らく、手加減されたのだろうと思う。こうして生きている以上は」と話を締めて、竜魔は再び項垂れる。
「検問で俺を追いかけてきたのは楼だ。彼は見回り組の隊員と共にいた。だが彼は……金に溺れるような男ではないはずだ。それで、ずっと考えていたのだ。柳一族が見回り組についた真の理由を……」
「ハァ?んなことココで悩んだってしゃーないやんけ。判らんのやったら、あとで本人に聞いたらエェんや。それよっか、今はワイらにできそうな事をアレコレ考えんのが先やで、先!」
久我が仕切り直し、話は一番最初まで戻された。
いつまでも答えの出ない問題に頭を悩ませている場合ではない。
それよりも劫火の言う通り、反撃するなり残りの降魔を探すなりといった予定を考えねばなるまい。
「降魔忍群の生き残りを探すとしたら、やはりキョウへ行くしかありませんね……」
カイルの呟きへ併せるかのようにジェイドも尋ねた。
「そういや、さっき言ってたよな?裏地がどうのって。あれを使えば検問を通らなくて済むんじゃねーのか」
竜魔へ向けた問いだ。
「裏地ィ?なんだそりゃ」と片眉をあげる劫火を見、竜魔が答える。
「そうだ……殿の安否を探るにはキョウ城を離れぬのが鉄則。行こう、裏地へは俺が案内する」
腰を上げた彼につられるようにして、カイルやジェイドも立ち上がる中、疑問が宙ぶらりんになった劫火へは月斗が説明しておいた。
「検問を通らなくてもいい抜け道があるんだってさ」
「なんだって、そんな抜け道を作ったんだよ?」と劫火に重ねて尋ねられた際には、本人が答える。
「検問を抜ける際には、金を取られる。金無き者も行商に行けるようにと考え、昴様は裏道を作るよう命じられた」
「ほ。昴殿は検問を、そのように捉えとったんかヨォ」
驚く堀田を横目に、なおも劫火が追及する。
「で、その裏道は何処と何処を繋いでやがったんだ?まさかキョウとナゴヤじゃねぇだろうな」
心持ち下向き視線で竜魔は頷いた。
「その、まさかだ。大通りに空き家が二つ並んでいるだろう。空き家と空き家の隙間に細道がある。大通りから見れば只の隙間だが、ある一定の間隔を置いて回転する壁が仕掛けられている。それが裏地、つまり隠し通路だ。恐らくは見回り組も裏地を知ったからこそ、簡単にキョウ入りできたのだ」
全ては高い通行料を払えない民の為に作った抜け道であったが、同時にキョウの防衛をも緩めてしまった。
落ち込む竜魔を眺めながら、劫火は結論づける。
「キョウへ行くとすりゃあ、そこを抜けていくしかねぇか。奴らに会ったら会ったで、そん時に何とかすりゃあいいさ。隊員だらけの検問を強行突破するよか、ずっと楽な手段だろ」
「ほな、行くとしようかい」
久我も腰を上げ、一行は一路キョウへ――出かける前に、座にいた忍びが皆を呼び止める。
「その格好でゆくのか?」
今、カイルたちが着ているのは河童拳の派手派手道着だ。
一行を上から下まで眺め回して、劫火も思案する。
「……確かに目立つよな、キョウに入ったら」
目にも鮮やかな色彩だし、ジェイドなんかはパッツンパッツンでサイズすら合っていない。
「適当な服を貸してやっから、あっちの部屋で着替えてこいよ」と指図され、それぞれ地味な着物を手渡される。
「す、すみません。ありがとうございます」
ぺこぺこしながら隣の部屋へ移動したのはカイルだけで、ジェイドは「おー、サンキュ!」と、その場で脱ぎ捨てた。
久我も「よっしゃー、羞恥刑からの解放やー」と喜んでおり、月斗を「そこまで嫌がんなよ」とムカつかせる。
仲間が様々な反応を見せる中、竜魔は無言で着替え終えると戸口で待つ。
ねこむーちょが、ぽてぽて近づいてきたかと思うと、彼を見上げて微笑んだ。
「お仲間しゃん。見つかるといいでちゅね」
「あぁ。だが……俺が手を貸すことで、ナゴヤに迷惑が降りかからなければよいのだが」
「は?ナゴヤに何の迷惑が降りかかるってんだよ」
町民姿へ着替えた劫火に言葉尻を捉えられ、竜魔は暗く沈んだ表情で応える。
「降魔が味方につくとなれば、オオエドはナゴヤとキョウが手を結んだと考えよう。ナゴヤの殿様は邪教徒に手を貸すのか、と誤解されるのではないか」
だが、劫火は呆れたとでも言いたげに手を広げてみせると、軽く首を振って竜魔の杞憂を一刀両断。
「このご時勢だ、オオエドもキョウの辺境までは目を光らせちゃいねぇだろうさ。万が一見つかったとしても、一時的に手を組んだと後で言い訳すりゃーいいだろうが。何が何でも正直者で通す必要なんかないんだぜ、判ってんのか?」
肩を竦めて、言い添える。
「あんた、忍者には向いていないぜ。この戦が終わったら職替えしたほうがいいな」
「……忠告は受け取っておこう」
ぼそっと呟く横顔を見据えて、劫火は話を締めた。
「大体、この内乱はナゴヤとオオエドの間で起きた諍いが原因なんだ。最初っからオオエドとナゴヤは対立してんだし、今さら敵にまわるも何もねぇだろうがよ」
「そやそや、キョウ残党とナゴヤが組んだかて、オオエドが目ェ剥いて怒るとも思えんわ。奴らも薄々気づいとるはずやで、見回り組がナゴヤの配下から抜けかかっとる事に。それより竜魔はん、いつまでぐちぐち腐っとんのや。行くゥ~決めたんなら腹ァくくってくれんとワイらかて動きにくいで?」
着替え終えた久我には心配されて、竜魔の目が足元で微笑むねこむーちょを捉える。
「竜魔しゃん、ねこやカイルしゃんも一緒でちゅよ。あんたしゃんの仲間はナゴヤだけじゃないでちゅ」
「……あぁ。そうだ、な」
ほんのり竜魔の顔にも笑みが浮かび、全員の支度が整った処で表へ出た。
一方、検問を抜けてナゴヤ入りした半蔵とレナルディとテトラは、というと。
「ここが……ナゴヤですか」
日はとっぷり暮れていたが、町並みは寂れていない。
戸の閉じた店が並び、提灯を下げた人影が大通りを歩いてゆく。
帰路を急ぐのは町人だけではない。例の羽織、見回り組もいた。
「……やっぱり、いるんだなや」と呟き、テトラがレナの後ろへ身を隠す。
そんな彼を「堂々としておられよ」と小声で窘め、半蔵は油断なく周囲を伺った。
辺りは静けさに包まれている。
この時刻では、宿屋ぐらいしか開いていまい。
――ふと、何かが視界を横切ったように感じられて、半蔵は足を止める。
反物屋の隣に空き家が二軒ほど並んでいる。
その空き家と空き家の隙間に、人影を見たような気がしたのだ。
「……ふむ?」
「如何なさいましたか、半蔵様」とレナに尋ねられて、半蔵はゆるく首を振る。
気の所為、あるいは見間違いだったのかもしれない。
「いや、なんでもござらん」
そう答えて一歩踏み出した途端、声をかけられた。
「なんでテメェがナゴヤにいるんだ?半蔵ッ」
とっぷり日が暮れているとはいえ、こんな大通りで本名を呼ぶのは何者か。
否、この声には聞き覚えがあった。
「これは劫火殿、お久しぶりでござる」
にこやかに微笑みかける半蔵に対し、着流しの男は憎々しげに吐き捨てた。
「久しぶり、じゃねぇよ。質問に答えろ」
「ここで話してもよいのでござるが」
劫火の背後へ目をやり、そっと声を落とす。
「お主のツレも見回り組に見つかっては面倒になろう?どこかで腰を落ち着けると致そう」
劫火の背後にいるのは、どう見ても変装を施された異国民だ。
黒髪のカツラは帽子をかぶっているかのように盛り上がっていたし、着付けが恐ろしく不自然だ。
腰に帯を巻きつけているのは、まだマシなほうで、斜めがけに巻いた者までいるではないか。
うち一人がカラッと叫ぶ。
「おー!誰かと思ったらレナじゃんか。オマエ、ピンクの服なんかも着るんだな!」
屈強な胸板で着物を押しあげた人物は、レナルディにも見覚えのある顔であった。
「ジェイド!あなたもジパンへいらしていたのですか」
このまま放っておいたら、異国民同士の井戸端会議で身動きが取れなくなってしまう。
そっと背後で竜魔も囁く。
「人が増えた。この人数で裏地へ向かうのは危険だ。一旦戻って策を練り直そう」
ただでさえ大所帯の上、オオエドの忍者まで加わるとなれば、いくら夜道といえど目立つのではないか。
忌々しげに背後を振り返り、劫火は渋々承諾した。
「……確かに、な。おい半蔵、ついてきやがれ。城で詳しい話を聞かせてもらうぞ」
威圧的に連行されようとも、半蔵は笑みを崩さず劫火の後へ続いた。
ナゴヤ城へ戻り、茶菓子などをいただきながら、一息ついた後。
一同は持ちうる情報を出し合った。
「大地 神太郎がナゴヤにいるってのかよ……」
腕を組み、信じられないといった顔で劫火が呟く。
大地 神太郎とはオオエドに本拠を構える神主で、齢七十を越える老人でありながら魔力は随一。
長くジパンの治安を守っている名高い法術師だとは、半蔵の弁である。
柳一族の楼は竜魔、それからレナたちも検問で目撃している。
彼が見回り組についたのは、もはや疑うべくもない。
おまけに、一息ついて安心したのか、テトラが思ってもみない情報を吐いた。
「そういやぁよ、見回り組さにとっ捕まってキョウ城に入った時よ、馬ぁがいたんだなや」
「馬?」
怪訝に眉をひそめる劫火の横で、カイルがハッとなる。
「まさか……」
「グリフィルスですか?グリフィルスが城の中にいたというのですか!?」
レナが叫び、テトラの肩へ掴みかかった。
「あ、わわ、んだ、布さグルグル巻きになった疫病の男と一緒にいただ」
「どうして早く教えてくれなかったんですか!」と感情の高ぶる彼女を宥めたのは半蔵だ。
「レナルディ殿、グリフィルスとは何者でござる?名前からして西の者、お主の知り合いか」
テトラが言えなかった理由は存分に判る。
いつ見回り組に見つかるやも判らない場所では、彼とて話す余裕もなかったであろう。
「えぇ」と頷き、レナが額へ手をやった。
「聖都の聖騎士であり、私の忠実な部下でもあります……」
「あー、あの馬か!なんとなくだけど、覚えているぞ」
ポンと手を打ったのはジェイドで、すぐさまカイルが訂正する。
「馬ではありませんよ、彼はケンタウロスです」
かの聖騎士は、西では有名な人物のようだ。
「それで?」と劫火に促されて、「それで、とは?」と半蔵も聞き返す。
「お前らがキョウへ出向いていた目的ってなぁ、なんだ。偵察か?」
あぁそれは、と半蔵は竜魔をじっと見据えて答えた。
「拙者の目的はキョウ城へ囚われたとされる要人を助けることにござった。殿に命じられたのでござるよ。あの城には昴様が囚われている可能性が高いのでな」
「なら……城の近くには、降魔の生き残りがいるかもしれませんね」と言葉を引き継いだのはカイルだ。
囚われ情報の出どころを劫火に問われた半蔵は、部下に調べさせたのだとあっさり明かす。
ただし本当に昴が捉えられているかどうかまでは、はっきりしないと締めくくった上で。
「オオエドの草に情報が掴めるなら、キョウでも噂になっていよう。信憑性は高いと見た。だから……俺は半蔵殿に手を貸した」
ぼそりと呟いたのは竜魔だ。
視線はまっすぐ半蔵を捉え、決意を伝える。
「明日、裏地を抜けたら里を調べる。そのためにも、誰一人捕まるわけにはいかん」
「そのとおりでござる」と半蔵も頷き、劫火へ話を振った。
「この大人数で裏地、すなわち抜け道へゆくには、人数を分けると宜しかろう。二、三人で少しずつ向かえば奴等の目を誤魔化すこともできるのではござらんか?」
劫火は黙って腕組みをしている。
正直にいうと、ここへきてもオオエドが信用できずにいた。
だが半蔵の案は尤もらしく聞こえるし、過去の恨みで作戦を台無しにする気もない。
なにより竜魔がやる気になっている。腹は決まった。
「……判った。なら竜魔、お前が先頭を歩け。それとなく追いかけるようにするからよ」
今日は泊まって行けとも言われ、連れ立って寝室へ向かう途中でカイルが問う。
「先ほど疫病の男と仰っていましたが、そちらの方には見覚えがなかったのですか?」
問われたテトラは、こくりと頷き、顎に手をやった。
「おいらは知らねかったけんど、馬のやつは知ってたみてぇだ。名前で呼びあったりしてよ」
「グリフィルスの名を……?」
レナは考え込む。
聖騎士団内でジパンへ旅立ったのは、自分を除けばグリフィのみだ。
騎士以外で彼の友人と言われると、そこまではレナの知るところではない。
だが一人ではなく友人と共に旅立ったのだとすれば、これほど心強い援軍もない。
グリフィルスが孤立奮闘ではない点に、少しだけレナは安堵した。
「城で何をしてたんだ?その馬野郎は」と劫火に尋ねられて、テトラは天井を見上げた後に答えた。
「うーんと、戦ってただ。最上階まで登るっちゅうてたから、捕まっていた誰かを助けにいったんでねぇべか」
現地の状況を知る者が近くにいる。
降魔忍群の残党であろう。彼はキョウへ助太刀しに、ジパンへ向かったのだから。
一刻も早く合流したい焦りがレナに芽生えたが、夜道での戦いは夜目の利かない自分には不利だ。
出発は明日に回すしかない。
「んじゃー明日に備えて寝ようぜ!」
「えぇ、ですから寝るために今、寝室へ向かっているんですよ」
なんて会話を聞きながら、布団の敷かれた部屋へ入った後は夢も見ないで眠りの淵へ。
翌日には、レナとテトラも皆に習って変装した。
際立って異形を放つワータイガーの顔面は、包帯でぐるぐる巻きにされる。
「こうしておきゃーあいつらだって、お前に触ろうとは思わないだろうよ」と劫火に言われ、首を傾げる本人をよそにカイルやレナも納得する。
「疫病者を装うのですね」
「そうだ」
「苦しいだよ」と文句を言う獣人は「我慢なさい。裏道を抜けるまでの辛抱です」とレナに嗜められながら、出発を待った。
