肆の陣:合流
レナが心配するグリフィルスは、彼女の予想通り降魔忍群と共にいた。
真っ暗なキョウの夜道を、何の迷いもなく忍びが歩いてゆく。
一応灯りを持たされているが、こちらは彼らほど夜目が利かない。
「心配ないよ、突破するわけじゃないんだ。様子を伺ったら、すぐに引くんだし」
グリフィルスの杞憂を知ってか知らずか、志摩が振り返って、そう言った。
「ただし、近づいたら灯りは消しておくれよ。連中に見つかっちまう」
「灯りがなかったら動けないぞ」と文句を言うと、憎まれ口が返ってくる。
「ならば聖騎士殿は、待っているといい。我らが調べてこよう」
夜道で突っ立っているんじゃ、何のために偵察を申し出たのかも判らない。
とはいえ真っ暗な中、自分に検問が見えるかと言われたら、これもノーだ。
偵察は明日でも良かったのではあるまいか。
立ち止まってしまったグリフィを見て、オーギュもそんな風に考える。
そして迷う聖騎士の様子に、飛鳥も何かを察したようだった。
「……ふむ。お主らは夜目が利かぬか。なら偵察は我々だけでいってこよう」
かくして里へUターンしたシェスカたちは、忍者屋敷で夜を明かした。
翌日――検問を偵察してきた志摩の話によると、見張りの数は増えており、容易には突破できなくなっていた。
だが、それでも彼らには策があるという。
「遠回りになるけど、森林を抜けていけばオオエドへ入れるんだ」
町と町の間にあるのが検問と呼ばれる仕切りだ。
木材を組んだ壁で道を塞いでおり、冒険者ならば冒険者カード、民間人なら身分を証明できるものか、お金を要求される。
だが、その検問とて無限に続いているわけではない。
必ず壁の終りがある。志摩は、そこを抜けていこうと言っているのだ。
道なき道を行くと言われて、オーギュは懸念を示す。
「その……ジパンにゃモンスターってのがいねぇのか?」
森林でモンスターに遭遇するとなったら、余計な怪我も増えかねない。
「怪物?いるよ」と答え、志摩は肩を竦めた。
「遭遇しないよう回避しながら行くに決まっているじゃないか。あぁ、でも、あんた達には難しいかもね」
彼女の視線が聖騎士の足元へ向かっているのを見ながら、シェスカも深々納得する。
どれだけ気配を忍ばせたとしても、蹄の音までは隠せまい。
だが検問を通過しようにも、降魔忍群は全員顔が割れていようし、どう変装してもケンタウロスはごまかせない。
早くも八方塞がりだ。
再びグリフィが短気を起こす前に、オーギュが提案した。
「オオエドへ行く前にナゴヤを偵察しておくってのは、どうだ?」
「ナゴヤを?なんで」と驚く皆の顔を見渡しながら、今さっき思いついたことをあげてゆく。
「キョウ城で、あれだけ暴れたんだ……殿様が奪還された件も、今頃は向こうへ伝わったんじゃないか?連中が、どのように動くかを調べておいたほうがいい。向こうの戦力を知っておかなきゃ、助っ人だって、どれだけ集めりゃいいのか判らんだろ」
「まぁ……そうだね。それもそうだ」と忍びが納得するのを横目に、グリフィが愚痴たれる。
「俺達の策は常に行き当たりばったりだな。オオエドへ行こうと言った翌日に行き先変更とは」
「仕方ないだろ、状況把握すんのが難しいんだ」とオーギュも片眉をあげて、言い返す。
「ナゴヤなら裏地が使えるね」
「裏地?」と聞き返したのはシェスカで、志摩は自信ありげに頷いた。
「ナゴヤとキョウを結ぶ抜け道があるのさ」
「抜け……道、だとぉ!?」
初耳だ。
そんなもんがあったとすりゃあ、見回り組だって検問を通る必要がなくなる。
聖騎士の推測が伝わったのか、飛鳥も俯きがちに吐き出した。
「そうだ、裏地は奴らに見破られた。大地神社が味方にいるのならば、偽装を見破るのは造作もなかろう」
「なんだって、そんな危険なもんを作ったんだよ!」
オーギュの疑問へは月影が答えた。
「検問の通行料は高いのでな……殿は懐の貧しい者でも行商へいけるよう裏地を作られたのだ」
親切が裏目に出たか。
だが、昴を浅はかだとは責められまい。
見回り組はナゴヤの配下だ。奴らの暴挙を止められなかったナゴヤの殿様こそ責めるべきだ。
「それじゃ……行こうか。見回り組の巡回が始まる前なら、見つからずにすむよ」
裏地はキョウの城下町にあった。
空き家と空き家の間に高い壁で仕切った細道を作ったという。
壁は、どんでん返しになっており、正しい順路を踏めば最短距離で向こう側へ抜けられる。
「よくこんなのを見つけたなぁ、あいつらも」と呆れるオーギュには、月影が応えた。
「法術を使ったのだろうよ。我ら暗黒の残り香を辿って、な」
闇を封じるばかりではなく気配まで辿るとあっちゃ、法術とは神聖魔法よりも優秀と見える。
グリフィルスもオーギュと同じ結論へ至ったのか、不満げに鼻を鳴らした。
「たとえ便利な術であろうと悪事に使っているようでは、その大地という男も見下げた野郎だな」
全くだ。
忍びの案内で細道へ入り込んだ後は、彼らの先導に従って走リ抜ける。
「まず、後光五」と呟き、月影が影の落ちた壁を叩く。
すると、壁がくるりと一回転して先へ続く道がひらけた。
「次は影三」
今度は影が道側へ落ちている壁を叩き、同じように隠された道へ入り込む。
「最後は北四十」
速度を緩めて手前の気配を探った後、再び忍者は走り出す。
このまままっすぐ、北へ四十歩。
不意に視界がひらけた。小道の先には大通りが見える。
「無事、ナゴヤへご到着……ってね」と肩を竦めて志摩が言った時。
飛鳥が「たっ……竜魔様ぁ!」と叫ぶや否や、走り出したではないか。
突然の奇行にグリフィルスは勿論、残りの降魔忍もド肝を抜かされる。
「待ちなよ、竜魔様って!?」と止めても止まらず、仕方なく志摩も彼女の後を追う。
裏地を抜けて大通りへ出た真正面、飛鳥が誰かの足元へすがりついて号泣するのが見えた。
着流しの男が怒鳴りつけている。
「何やってんだ、テメェ!あぁ、もう、城へ戻るぞ!」と言っているからには、ナゴヤ城の関係者に違いあるまい。
通りに人影は少ないが、こんな道端で騒いでいたら見回り組に見つかるのも時間の問題だ。
忍者は頷きあい、走り出す。ケンタウロスも後を追った。
「おい、そこの二人!城へ行くんだったら、俺達も連れて行けッ」と叫びながら。
みたび城へ舞い戻った劫火の機嫌は悪い。
「いつになったらキョウへ出かけられるんだよ、俺達は?」
苛つかれても誰も答えられず、肩を竦めるしかない。
だが、それよりも何よりも、城入りしたグリフィルスを驚かせたのは「よぉー馬、無事だったんかぁ」と喜ぶ虎男なんかではなく、その傍らに立つ振袖姿の女性であった。
ジパンの着物で変装しているが、凛とした佇まいは見間違えるはずもない。
「グリフィルス……無事だったのですね」
労りの言葉が耳へ流れ込む。
手が背を撫でてくる。何度も、何度も。
「心配したのです。あなたがジパンの内乱へ協力すると、そこのテトラに聞かされて」
まっすぐ見つめられて、どくどくと心臓が脈打った。
「あ……あ……」
うまく言葉が出てこない。
ありがとうございます――ただ、それだけを伝えたいのに。
極度の緊張で固まった聖騎士を訝しげに一瞥してから、志摩が竜魔へ尋ねた。
「頭目も無事でようございました。しかし、どうしてナゴヤにいたんですか」
「成り行き上、仕方なく……な」と答える彼の膝の上では、泣き疲れた飛鳥が寝息を立てている。
道端で号泣したばかりではなく、城までの道のりでも大騒ぎして、劫火に怒られながら到着した後は力尽きて、このざまだ。
カチコチのケンタウロスを撫でるのをやめたレナが、話に加わった。
「貴方がたこそ、どうしてナゴヤへ?」
「見回り組の現状を調べに来たのさ」と答え、志摩は座った格好でレナを見上げた。
「あんたらこそ何なんだ?そんなチャチな変装して、さ」
「チャチで悪かったな」と不機嫌に遮ったのは劫火だ。
ナゴヤ城配下、甲賀忍者の頭目である彼が言うには現在、ナゴヤ城と見回り組は敵対関係にある。
柳一族と大地神社が連中の味方についたと知り、戦力不足を補うには竜魔以外の降魔忍者も必要だと考えた。
そういった理由で、裏地を使ってキョウへ出ようとしていた次第だ。
「こいつらは特に目立つからな、チャチだろうと変装は必要だろ?」
劫火が指さしたのは獣人、ワータイガーのテトラだ。
「そっちも苦労していたんだね……」
しみじみと志摩が呟き、ちらりとケンタウロスを見た。
注目されていると知った馬男の硬直もようやく解けて、言いたかった一言を吐き出した。
「あ、りがとうございます……団長」
「は?ありがとうって何がだ」とジェイドに遮られるのも何のその、レナは微笑みで返す。
「いいえ。貴方が無事であればよいのです。これまでお疲れ様でした、グリフィルス」
おかげで、再びグリフィルスの緊張は急上昇。
大きな音で唾を飲み込んだ彼は、直立不動の姿勢で固まった。
騎士の挙動は気になるものの、今、話し合うべき問題は、それではない。
「こうして合流できたんだ。まずは降魔の里へ戻らないか?」
「里へ?しかし」と言いかける月影を制したのは劫火で、シェスカの案に賛成を示す。
「あぁ、反撃するとなりゃあ、まずはキョウの城を奪還したほうがいいだろうぜ。そのためにも、本拠地は向こうに移すべきだ」
「キョウの城を!?」と驚く面々には「何を驚くってんだ。キョウをあのまんまにしといたら、見回り組の本拠地を攻める時、挟み撃ちにあうじゃねぇか」と劫火は肩を竦めてみせる。
キョウ城を奪還するには、最初に検問を封鎖する必要がある。
ナゴヤ及びオオエドに派遣された増援を断ち、キョウ城にいる見回り組を孤立させるのだ。
検問封鎖にあたり、ナゴヤ城の手勢だけでは数が足りない。
やはりオオエドの協力が必要だと劫火に迫られ、半蔵は快く承諾した。
「それぐらいなら、お安い御用でござる。オオエドでも見回り組討伐隊が起っておるし、彼らに検問の制圧を頼むとしよう」
「見回り組討伐隊?なんでぇ、オオエドも動く気があったのかよ」
後出し情報に眉をひそめる劫火へ微笑み、半蔵が念を押した。
「殿のお忍び旅行も討伐隊設立も、全ては内乱を粛清せんがため。大地殿の説得も拙者に任せられよ」
「……その、殿のお忍び旅行なんだがよ。どんな格好で旅立ったんだ?」と、劫火。
半蔵は即答した。
「顔を白粉で塗りたくり、お歯黒を塗って黄金色の羽織を纏っているでござる」
一拍の間を置いて。
「ハァッ!?」と驚愕に叫んだのは劫火だけではない。
全員が呆気にとられて、半蔵を見た。
「お忍びって言えるのかよ、それ!何考えてやがんだ、テメェんとこの殿は!」
激怒の劫火に掴みかかられて、ガクガク揺さぶられながら半蔵が笑う。
「我が殿は変わっておられるのでな、その程度で驚いていては付き合いきれぬでござるよ」
「変わりすぎだろ!」との文句も右から左へ聞き流し、半蔵は話を締めた。
「とっくにナゴヤへ到着したと思ってござったが、まだとなると安否が心配でござる。もし見回り組に殿が囚われているとなったら、お救いせねばなるまい。その時は」
「あぁ、力を貸してやるよ。だから今は、お前の配下にも協力してもらうぜ」
劫火が頷き、半蔵も頷き返す。
「では早速、オオエドへ伝書鳩を飛ばしておくでござる」
窓に乗り出して、鋭く指笛を吹く。
小さな白い鳥が半蔵の胸元から顔を出すと、羽ばたきを残して空へと消えていった。
「今の何だ!?かくし芸か!」と驚くジェイドへ「伝書鳩にてござる。いつも連れ歩いている拙者の可愛いポッポウにござるよ」との半蔵の答えに、劫火のツッコミが被さった。
「おっと、こいつの戯言を真面目に受け取んなよ?今のは簡易式符だかんな」
式とは本来、法術に含まれる魔法を指す。
簡易式符は誰にでも使えるよう作られた、使い捨ての魔法道具だ。
何かのアクションを添えることで発動する。今の符は、指笛が術式の発動合図となっているのであろう。
「すげーな!たくさん鳩を出せば、腹いっぱい食えるじゃねぇか」
ジェイドの戯言には取り合わず、劫火が全員の顔を見渡す。
「これだけいるんだったら、抜け道をいくより検問を突破したほうが早ェ。そう思わねぇか?」
「思わないでちゅ!」と反論があがり、全員が声の主を見た。
「劫火しゃんは強いからいいでちゅけど、ねこや久我たんが怪我したら、どうちゅるんでちゅ!?」
ねこむーちょは畳を叩いてご立腹だ。
「おい、やめろ。畳が傷んじまう」と注意してから、劫火は先ほどの案に訂正を加えた。
「なら、こういうのはどうだ。検問を牽制する役を立てて、その間に弱い奴らが裏地を抜けるってのはよ」
「囮役は俺がやろう」
一番に名乗りを上げたのはグリフィルス。
いつの間にやら硬直が解けており、自信満々な目が劫火を捉える。
即座に「駄目です!あなた一人を置いていくわけには」とカイルが叫び、レナも懸念を示す。
「そうですね……一人での囮は危険ですし、一度騒ぎを起こしてしまっては、グリフィルスが裏道を使う機会も失われてしまいます」
「だったら、裏地を抜ける組と検問を突破する組で二手に分かれりゃいいんじゃねぇのか?」とはジェイドの案で、団長に退けられてショックを受けていたグリフィも、ここぞとばかりに賛同した。
「そ、そうです!検問突破組に戦力を注げば、自分一人が取り残される心配もなくなります」
「そうですか」と頷き、レナの手がグリフィルスの肩に置かれる。
両目を見開いた馬男をまっすぐ見つめて、言い切った。
「私も検問突破に同行しましょう。裏地を抜けるのは素早い者や、腕に自信のない者が行けばよいのです」
正面突破するのであれば、変装も必要あるまい。
各所に武具を置いてきた面々には、代わりの武器と鎖帷子が渡される。
「おいらも突破組なんだべか……」
鉞を受け取って肩を落とすテトラを、月斗が陽気に励ました。
「平気平気!俺やジェイドやカイルもいるんだし、なんなら聖騎士様だってついているんだぜ?お前は後ろで鉞を振り回して、オリャーとか叫んでりゃいいんだって」
「せやで。あんさんのツラァは目立つんやし、囮にもうってつけや」
久我にも煽られて、引け腰ながらもテトラは覚悟を決めた。
「うぅぅ、おいらが最後尾を守るからよ、皆も頑張ってけろ」
脇差しを抜いて、二、三度振り回してから鞘へ収めると、オーギュは腰のベルトに差し込んだ。
これだけ人数がいりゃあ、自分は戦わなくても済みそうだ。
いつもの剣と違って、やはり全く慣れそうにない武器だし、極力使わないでおこう。
それより一番狙われそうな人物を、ちらりと見てから劫火へ尋ねた。
「なぁ、この城にゃ馬につける鞍ってのはないのか?」
途端に「お前まで俺を馬扱いする気か!?」と怒鳴る友人へも振り向いて、弱点を指摘する。
「だって、お前……城で暴れた時も散々斬りつけられていたじゃないか。痛々しいんだよ、見ている方が」
そんなことを言われたって、ケンタウロスは古来より下半身の防具をつけない種族だ。
尻尾を振り回して、不満を目一杯アピールしながらグリフィルスも反論する。
「怪我したって治せばいいだけだ!お前は俺の心配よりも、自分を心配しておけッ」
その直後に横合いから半蔵が口を挟んだ。
「ふむ、鞍というのは名案でござる。グリフィルス殿、誰か一人を背に乗せての囮役というのは如何でござろうか?」
「何……?」
尻尾を振るのをやめた聖騎士へ重ねて提案する。
「一番目立つお主が一番強いのだと印象づけるには、上に将を乗せるのが効果的でござる」
誰を乗せるかなんてのは、言うまでもない。
この中で一番見栄えが良いのは誰か、なんてのは。
オーギュも口を揃えた。
「そんならレナルディ団長、あんたが乗ればいいさ」
「ちょ、ちょっと待て」と慌てる友には、耳元でこっそり囁いてやる。
「いいじゃねぇか、お前にだって悪くない案だぞ?こりゃ。最も間近で団長を守ってやれるし、いざとなったら団長を乗せて、お先に里までお送りすりゃいいんだし」
「そ、それは、しかし、いや団長は俺が守らなくても充分強いだろ!」
声の高くなるグリフィルスには、半蔵が頷いた。
「気高き騎士、戦場に咲く一輪の花……この中で将をやれるのは、レナルディ殿を置いて他におらぬ。彼女を乗せているからこそ、囮が映えるというものでござる。どうしても鞍をつけるのが嫌でござったら、そのまま乗せるとよかろう」
「そ……そのままッ!?」
見る見るうちに赤く染まった頬の真横で、悪魔の囁きが呼びかける。
「ますますいいじゃねぇか。直接乗るとなったら、団長の柔らか~いお尻が、お前の背中を直撃だなぁ?こいつぁ役得ってやつだぜ、グリフィ」
「や……やめろぉぉぉぉッッ!」と両目をつぶって絶叫するケンタウロスを一瞥してから、レナはきっぱり断った。
「申し訳ありませんが、私の武器は剣……地上で斬りつける戦いに慣れています。見栄えを求めての囮でしたら、カイル、あなたがやってみては如何ですか?」
カイルは「えっ」と間抜けに返して、ぽかんとなる。
今の今まで、すっかり他人事だと思って聞いていたのに、ここで指名を受けるとは。
「何を驚くのですか。あなたは竜騎士でしょう?なら、騎乗しての戦いには慣れているはず」
すぐさま我に返ると、手を振って断った。
「い、いえ。ドラゴンなら勝手が判りますけれど、ケンタウロスは無理です。乗ったこともありませんし」
自分をほっといての議論もそうだが、乗り手がレナではなくなるのも納得いきかねる。
いや、団長が嫌だというのなら涙をのんで承諾するが、彼女以外の者を乗せるのは、動きを制限される不安もあった。
グリフィルスも仏頂面で断っておく。
「敵を引きつける役は俺一人で充分だ。団長は……」
一瞬、寂しげにレナを見た後で付け足した。
「……俺と違って真の実力者なんだ。囮にしたり先に逃がすのは得策じゃない」
「カイル、オマエ竜騎士だったのか!」と違う方向から声が上がり、またしてもカイルは「え?」となる。
「ずっと格闘家かと思ってたよな」
月斗も頷いており、仲間からの認知度の低さがカイルの胸を深々と貫いた。
「ど、どうしてですか……ギルド名簿にも記載されているでしょう、僕の職業は」
昨日今日で知り合った月斗はともかく、ジェイドとは何度か同じ依頼を引き受けた仲だ。
「だってオマエがドラゴン連れてんの、一度も見たことねェぞ!」
相棒のマンキリーは巨大なドラゴン、職務以外で連れていける機会は、そうそうない。
「それに、あんさんの普段のカッコ見て竜騎士だって判る奴のほうが少ないんとちゃいまっか」
久我にまでやりこめられる彼を横目に、劫火が話を元へ戻す。
「囮が一人で充分ってのには俺も同感だ。ここんとこの騒ぎが原因で、検問は強化されちまってっからな」
以前は二人交代制だったのに、今は十人前後が見張りについている。
こちらも総掛かりで戦わねば突破できまい。
忍びは裏地を優先する。
顔が割れているというのもあるが、混戦での致命傷を避ける狙いがあった。
「竜魔様がいると判ったら、援軍を呼ばれちまうからね。それに、あんたら異国民が揃っていりゃあ、向こうは躍起になって捕まえようとするだろうさ。その分だけ死ぬ確率も下がるってもんだろ?」とは志摩の弁。
「どうして奴らが、こいつらを殺さないって思うんだ?」
劫火の疑問には月影が答える。
「ケンタウロス殿の話によれば、奴らは獣人の生け捕りを目的としていたそうだ……恐らくは、あの御方を探しているのであろう」
あの御方とは誰なのかと追及する劫火に緩く首を振り、こう締めた。
「もう、この地にはおらぬ。以前、我らを見回り組の牢から救い出してくれた恩人だ」
検問へ向かうのはグリフィルスの他に、レナルディ、ジェイド、カイル、オーギュ、シェスカ、テトラだ。
ねこむーちょと月斗は裏地へ回し、久我のガードを任せる。
「お前らの心配はしていねぇ……だが」
グリフィルスを見つめ返して、竜魔は微笑んだ。
「あぁ。誰一人欠けることなく、降魔の里で落ち合おう」
我が親友、昴 頼智は生きていた。
再会の際に飛鳥が伝えてきた、素晴らしい情報であった。
里へ戻れば彼に会える。
そう想うだけで、竜魔のやる気に火が灯る。
傍らで、そっと彼の横顔を伺って、カイルも内心安堵する。
もう心配はいらない。部下や殿が生きていたおかげで、竜魔の憂鬱は完全に晴れた。
作戦は、こうだ。
聖騎士たちが検問を襲っている間に隙を見て、裏地を駆け抜ける。
もし、援軍が裏地を通ってくるようであれば、忍者が一掃すればよい。
作戦も編成も全員が異存なしの采配だ。
今度こそ、一行は城を後にした。
