FES

公女誘拐事件

1.ラグナル商会

通過証明書とは、ラグナル公と面会するにあたり必要な身分証明書だ。
冒険者カードでは駄目なのか?と問うジェイドに、統治者と面会するには、こうした手続きが必要なのだとカイルが説明する。
何故、商会が発行しているのかというと、ラグナル商会は貿易都市に関する管理を一括で任されている。
冒険者ギルドとも連携して街全体の商業活性化をはかると同時に、治安をも守っているのだ。
「へー!カイル、オマエ物知りだなー。ずっと、ただの商店かと思っていたぞ!」
素直な感嘆に「商会と名がつきますし、普通はそう思いますよね」と笑うカイルなどを背に、レナルディは商会の窓口で約束を取り付ける。
「ギルドからの使いだと申し上げたところ、会長との面会を許されました。ルド氏は奥の間でお待ちだそうです」
レナが話している間に、窓口に座っていたお姉さんが門へ向かって声を張り上げた。
「開門、かいもーんっ!お客様の、おなーりー!」
すると腹の底に響くような重低音を軋ませて、大きな門が開いていく。
「なんだこれ!門が勝手に開いたぞ、どんな仕組みだ!!」と大騒ぎなジェイドには、刹那が黙って門の側を指さした。
門の真横にあるレバーの側にいるのは、商会の組員であろう。あのレバーを引けば門が開く。簡単な作りだ。
「いちいち大袈裟に驚かないでください、恥ずかしい」
レナには嫌味を言われ、カイルに苦笑されても、ジェイドには反省しないタイプなのか、おのぼりさんよろしく敷地内を見渡した。
中の造りは思ったよりも豪華ではなかった。
大きな倉庫が敷地の奥に並んでいる。目立つのは、それぐらいだ。
門を抜けて、すぐに構えている建物が本館か。
「では、お入り下さい。途中いくつか通路が分かれてございますが、まっすぐにお進み下さいね。道をまがったり、他の部屋へお入りにならないようお願いいたします」
「判りました」
受付嬢に軽く会釈をし、レナは皆を促した。
「行きましょう」
――と歩き出した一行は、その一瞬の隙を狙われた。
後方から、ものすごい勢いで何者かが大通りを駆け抜けてくる。
確認する暇もなく黒い影はジェイドとカイルを突き飛ばし、本館の奥へと消えていった。
「どわぁ!」「あうっ」
顔面からコケて突っ伏すジェイドや転倒するカイルを横目に、受付嬢が騒ぎ出す。
「あーっ!あいつ、また!誰かーッ!盗人ピートがまた入ってきましたよー!誰か、捕まえてー!」
盗人ピートとは何者であろうか。
しかも、またとは穏やかではない。
レナの手を借りて立ち上がったカイルが見たのは、憤慨するジェイドが廊下を猛スピードで走っていく姿であった。
「っっのヤロウ!人を突き飛ばしてどこ行こうってんだ!?待て――ッ!!」
去りゆく背中とレナ及び刹那を交互に見て、カイルは焦り、答えを求める。
「い、今のは何だったんでしょう?」
「盗人ピートと言っていましたね。頻繁に出没する盗賊の類でしょうか」と、レナ。
「この私の目の前で盗人行為とは許せません!神の名に誓って捕獲しますッ」
彼女まで走り出すもんだから、カイルは二度驚かされる。
「ま、待ってくださいレナさん!」
しかし、正義に逸る聖騎士が待つわけもない。
瞬く間に廊下の奥へと消えた彼女を追いかけて、刹那とカイルも走り出す。
背中に「閉門、へいもーん!」と叫ぶ案内嬢の声を聞きながら。

二人を追って廊下を走るカイルと刹那は、曲がり角を抜けてきた人物と危うく衝突しそうになる。
寸前で避けてから、カイルは驚いた。
なんと曲がり角を抜けてきたのはレナだったのだ。
まっすぐに進めと案内嬢には言われていたはずなのに、何故、角を曲がったのだろう。
誠実な聖騎士らしからぬ行動に首を傾げる二人の前で、レナがぼやく。
「くっ……どうやらこの建物、思ったよりも広いようですね。ここは手分けして探しましょう」
「それはいいけど……どうして今、この通路から……出てきたの……?」
刹那に問われ、「ジェイドらしき人影が角を曲がるのを見たのです」と正直にレナが答える。
約束は覚えていたとした上で、曲者とジェイドを探すのが先だとの持論にはカイルも頷かざるを得ない。
全員が揃っていなければ、会長と会うどころではない。
「それで、ジェイドさんは?」
カイルの問いに「見当たらないのです」と、レナも答えて腕を組む。
ジェイドが走り出したのと、レナが走り出したのは、そう時間も違わない。
なのに追いつけないというのは、どうしたことか。
「それに、盗人もです」
改めて屋敷内で気配を探り、耳を澄ます。
盗人が入ったのであれば、もっと騒がしくなっていてもいいはずだ。
だが、ことりとも物音がしない。
「途中、部屋を覗いてみたりもしたのですが……どなたもいらっしゃられないようなのです」
レナは首を傾げて困惑しきりだ。
「誰もいない?しかし、商会では日夜商談を行っていると聞いていますが」
カイルもまた困惑する中、刹那が廊下の先を見つめる。
「部屋だけとは……限らないわ……曲がり道に潜んでいるだけでも………回避できる……」
「では、手分けして――」
レナの案は、誰かの悲鳴で後半かき消された。
ジェイドの声ではない。
絹を裂くような乙女の悲鳴だ。
続いて、ガラスの割れる音。
そして誰かが殴られるような打撃音も聞こえてきた。
音が聞こえるのは、ここから通路を右に行き、さらに左に曲がった先からだ。
だが、それとは別にまっすぐ先、会長室からも大声が聞こえてくる。
「何だ貴様は!?勝手に入ってきていいと、一体誰が許可したというのだ!えぇい、これだから冒険者風情は信用が置けんのだ!!」と、野太い男性の声で大声で叫んでいた。
「あちらこちらから……ッ」
さすがに三人では手が足りない。
そう考えるレナの眼の前をカイルが駆け抜けていく。
「ま……待ちなさい、カイル!」と叫んだレナへ振り向き、カイルも怒鳴り返してきた。
「何をしているんですか、皆さん!?か弱き女性が襲われているんです、早く助けないと!!」
「……刹那、貴女は会長を!」と言い残し、レナが向かったのは打撃音のした方角だ。
二人を見送った刹那は一人、男の声がした部屋へ急ぐ。
怒鳴られているのはジェイドではないか。そんな予感がした。
扉の前まで近づいて聞き耳を立てる。声は二人いた――
「何が商談だ!ふざけるな、ナイフなんぞちらつかせおって!そんなもので私がビビるとでも思っているのか!!」
「そう声を張り上げなさんな、会長さん。あんたにとってもイイ話なんだぜ?これは」
野太い怒鳴り声は先ほどの男性であろう。
ナイフで男性を脅かしているのは年若く、かすれた男性の声だ。
「賊の話に耳を傾けるとでも思っているのであれば、ラグナル商会も舐められたものだな!」
「その強がりが、いつまで続くかな……?」
「ち、近づくんじゃないッ!クッ……だ、誰か!賊だぞ、賊が侵入した!!」
「誰も来ねぇようだなぁ……?」
「警備の者は何をしているんだッ!?おおい、誰かー!」
最早一刻の猶予もない。
刹那は扉を蹴破り、転がり込む。
部屋にいるのは中年小太りの男性。そして、ナイフを片手にちらつかせた盗賊姿の青年だ。
どちらが会長かなんてのは考えるまでもない。
「なんだぁ、お嬢ちゃん」と言いかける盗賊の懐へ潜り込み、鳩尾に肘をお見舞いしてやった。
賊はあっけなく「ぐ……ぅっ」との呻きを最後に崩れ落ちる。
少女の早業には、ルドも「なっ……」と言葉をなくして立ち尽くしている。
だが、刹那が「この人……誰?」と尋ねると、我に返ったのか「し、知らん」と震え声で答える余裕が戻ってきたようであった。
「そう……」
踵を返して出ていこうとする刹那の背に会長が呼びかける。
「ま、待て。お前は一体」
だが、刹那は説明一つ残すこと無く、小さく呟いただけであった。
「レナが心配……いくわ」
ひょいと賊を抱えあげて去り際、背中越しにルドの様子を伺うと、彼は青ざめた顔で棒立ちしていた――

盗人ピートを追いかけたジェイドは、一体何処まで行ったのか。
どこまでも猛犬が如く追いかけていった彼は、ピートがどんでん返しの壁を抜けるのに従い、自らも壁の向こうへ飛び込んで、ついに少年を捕まえるに至った。
「謝れ!コノヤロウ、謝れ!!」
「ぐ、ぐえぇぇ、ごめん、ごめんよぉっ」
上に乗っかられてグイグイ首を絞められては、少年も怒涛の勢いで謝るしかない。
「よし、許す!」
上から飛び降り、しかし少年の腕を掴んだままジェイドは尋ねた。
「オマエ、なんで人を突き飛ばす勢いで入ってきたんだ?案内嬢に頼めば門は開くってのによ」
「え、その……」と言い淀んだものの、ピートはじっとジェイドを見つめる。
ジェイドも見つめ返し、しばしの時を過ごした後。
「ま、いっか!ひとまずオレの仲間と合流するぞ」と腕を掴まれたまま歩きだされて、泡を食ったのは少年のほう。
「え、ちょっと、許してくれたんじゃなかったの!?」
「ん?許しはしたぞ。けど、オマエはカイルにまだ謝ってねェだろ。だから、カイルと合流するぞ」
「いやいや、え?許してくれたんなら離してよ!」
どれだけ暴れてもジェイドからは逃れられず、しかもジェイドの言い分は「カイルに許してもらってから言えよ」の一点張りだ。
無駄な抵抗を続けながら、ピートはズルズルとジェイドに引きずられていく。
壁を一回転させて廊下へ戻っても、レナ達三人の姿はない。
「んー」と考え込んだのも一瞬、ジェイドは「会長室が何処にあんのか知ってるか?」とピートへ尋ねる。
「え?なんで俺」「知ってんだろ?ここにゃ何度も入ってんだから」
腕を握る力を強められて、「あ、いたた」と顔をしかめながら、ピートは渋々答えた。
「……知っているよ。けど、俺そっちに行くのはマズイんだよね」
「なんでだ?」
全く考えないでの疑問には一瞬ポカンとなり、すぐにピートは叫んだ。
「あのね!俺、ここには何度も盗みに入ってるから!会長とあったら最後、警備団に突き出されちまうだろ!?」
盗人猛々しい反発にはジェイドも唖然となる。
「会長がオマエを警備団へ突き出すのは当たり前だろ。だってオマエ、盗人じゃねェか」
何を勘違いしたのかは知らないが、許したのは、ぶつかった件に対してだし、こいつを野に離すつもりはない。
「それより早く会長室の場所を教えろよ」
「嫌だって!」との反発には「なら、このまま外に出て警備団へ直接オマエを引き渡すかー」と気楽に言い放ってやった。
今、自分が何処にいて、どう進めば出入り口に辿り着くかも判らない、なんてのは内緒にしておくとして。
「うぇ……」
小さく呻いて少年が降参する。
「わ、わかったよ。こっちだ」
今進まんとしていた方向とは逆を案内されて、廊下を戻る途中でレナと鉢合わせた。
「ジェイド、どこまで行って……その少年はッ!」
「おう。捕まえたぞ」
ニッカと笑うジェイドを見た後、ピートのほうへも目をやり、改めてレナは考える。
この盗人と称される少年が、何を盗みに商会へ忍び込んだのかを。
ラグナル商会は貿易都市を仕切る問屋だ。
少年一人で盗みに入ったって倉庫は何処も鍵がかかっていようし、この子供が箱詰めの山から目的のものを即座に探し出せる目利きだとも思えない。
第一あの正門は案内嬢へ声をかけないと開かないようになっている。
――ピートは前回、どうやって忍び入ったのだろう?
考えられる答えは一つしかない。レナは鎌をかけてみることにした。
「ピート、あなたは誰に頼まれて囮を引き受けたのですか?」
「えっ!?」と驚く少年をひたと見据え、淡々と話す。
「私たちは会長室へ向かう途中で、悲鳴と怒号と何かが壊れる音を聴きました。それだけの騒ぎがあったというのに、屋敷の中は静まり返り、警備員はおろか店の人も見当たりません。そして、あなたを捕まえようとする人も……言いなさい、あなたは誰に頼まれて私たちを分散させようとしたのです」
ジェイドとレナ双方の視線を受けて、少年の額を汗が滑り落ちる。
「くっ……ちくしょう!ベイルさんの役にも立てなかった!!どうにでもしろよ。俺を殺すなり、警備団に突きだすなり、好きにしやがれ!でもな、俺は絶対に口を割らないぜ!混乱のどさくさにミーナとミーナをすり替えようとしてたなんて、絶対にお前らんトコの会長には教えるもんか!」
堰を切ったかのように全てを話し出すピートには、鎌をかけたレナも、側で聞いていたジェイドも呆気にとられる。
「ベイルって誰だ?」とジェイドに尋ねられて、ピートは憎々しげな目で彼を睨んだ。
「白々しい!全部判っているんだろ、商会の犬が!」
「商会の犬ぅ?」
ますますジェイドの脳内はハテナで埋まり、レナは額に手を当てる。
察するに、この少年は商会と敵対する側か。
「あなたはラグナル公女の誘拐事件と関与しているのですか?」
「お、俺を尋問したって無駄だぞ……俺は只のサンシタだからな!」
自ら三下だという割に、所属組織の企てた作戦について詳しいようでもある。
警備や店員が一人残らずいない件についても、訊いてみる価値はあろう。
そこまで考えをまとめた時に、「こちらにいらしたんですか!探しましたよ、レナさん」と叫んでカイルが駆け寄ってきた。
カイルは一人ではない。手を引き、少女を連れていた。
皆が尋ねる前に「こちらはミーナさん、ルド会長の娘さんです」とカイルが紹介する。
「ヘェ、ラグナル公女と同じ名前なのか。紛らわしいな!」
ジェイドの感想に「ミーナなんて、どこにでもある名前ですわ」と本人はすまして受け流した。
「最近誘拐未遂されたとお訊きしました。大変でしたね」と労うレナをちらりと見上げ、ミーナは微笑んだ。
「えぇ、お気遣いありがとうございます。ミーナ、このごろ悪漢に教われまくりですの。この間も港で船に詰められて、どこかへ売り飛ばされる処でしたわ。でも、通りすがりのナイト様が助けて下さいましたのよ。見ず知らずのミーナを命がけで守って下さって……うふん」
どこまでも続きそうなノロケを遮ったのは刹那だ。
「この人……見たことある」
床に降ろしたのは、見るからに怪しい盗賊スタイルの男だ。
ただし意識はなく、しかも後ろ手に縄でグルグル巻きになっている。
「賊は二人も侵入していたのですか!」と驚くレナを横目に、ミーナは気絶した男を丹念に眺め回した。
「……えぇっと、見覚えがありますわね。広場でたむろしていたムサイヒゲ軍団の中にいたような気がしますわ」
「ムサイヒゲ軍団?なんなのですか、それは」と、レナ。
ミーナは「このところ、広場を占領している汚いヒゲヅラ軍団ですわ。おかげでフリーマーケットも開けやしないと、もっぱらの評判ですのよ」と答え、腕を組んでのご立腹だ。
フリーマーケットはラグナルで毎年行われている一大イベントだ。
それの妨害行為は、ラグナル商会へ真っ向喧嘩を売っていると言えやしないか。
皆の視線はおのずとピートへ集まり、ピートの顔色は見る見るうちに悪くなっていく。
「ま、まさか本気で俺を警備団へ突き出す気じゃぁ」
「そうなるでしょうね」と頷いたのはレナだ。
「盗みが未遂であろうと不法侵入した罪は消えません」
「待って、待ってよ!全部話すから、警備団へ突き出すのだけは許してくれよ!」と喚き出し、盗人は全貌を明かした。
ピートが属する組織はラグナル商会の信用を落とすのが狙いで、店の者や警備員は別の囮が外へおびき寄せた。
そこで転がっている男の名はジャスラ。
彼ともう一人、会長になりすましたベイルとで来客を引きつけ、会長が脅されているのに警備員が駆けつけてこない……といった状況を見せつける。
ピートの役目は、会長室だけに人が集まりすぎないよう撹乱する囮であった。
結果として追いかけてきたのはジェイド一人だったので、失敗したも同然だ。
「では、悲鳴は何だったのです」と問うレナに答えたのはカイルだ。
「こちらのお嬢さん、ミーナさんが逃げていく賊を見たそうです」
「えぇ、賊ばかりではありませんでしたわ」
ミーナは、ちらとピートを見、「うちの者も何人か。警備員も一緒でしたわね。あれが別の囮でしたのね」と話を締める。
「それより会長が偽物ってこたぁ、本物のオッサンは何処行ったんだ?」
ジェイドの弁に誰よりも早くミーナが反応する。
「そ、そうですわ!お父様は何処へ行ったんですの!?まさか、もう殺して……」
くらっと目眩を起こして倒れかかる彼女はカイルが支え、かわりにぴーとを尋問したのはジェイドだ。
「オマエ、会長を殺しちまったのか!」
襟首をがっくんがっくん揺さぶられながら、ピーとも懸命に答える。
「ル、ルド会長なら公女と一緒に誘拐したって、ボスが……!」
「どこなのです!それは」
レナも尋問に加わり、ピートは泣きっツラで記憶を総動員した。
「え、えぇと、確か……そうだ、船着き場だ!船着き場のボロ船に隠すって、ボスが言っていた!!」
「ボロ船……どうして、そんな場所に」
「誰も探しに来ないからだよ!万が一を考えて広場にも囮で何人か集まってんだ。あちこちに怪しいやつがいれば、誰も船なんか調べないだろってボスが!なぁ、これで全部話したよ、俺を警備団へ突き出さないでくれ!俺は誓って盗みなんかやっちゃいないッ」
しかし必死の命乞いも秩序を愛する善神信徒の前では、全く通用しなかった。
「駄目です。あなたは無断侵入した上、会長と公女の身を脅かす組織に加担した。牢屋で反省なさい」
聖騎士にバッサリ却下されて、ピートは「そ、そんなぁ……」と項垂れる。
「それで……公女の誘拐と、ラグナル商会の娘は……どこで関わってくるの?」 刹那の問いに、しょぼくれたピートが答えた。
「あぁ、それはミーナとミーナをすり替える作戦も同時進行していたんだ。けど、それは無理だからってんで終わったはずなんだけどなぁ」
首を傾げる少年に「でも、さっきも誘拐されそうになりましたのよ?」と、ふくれっ面でミーナが応戦する。
「うちの者や警備員が間一髪で助けてくれましたから、事なきを得ましたけど」
「ルド会長に化けたベイルさんなら、もっと詳しい内情を知っていそうですね」とのカイルの思案を受けて一行は会長室へ向かうも、会長室は既にもぬけの殻であった。
「逃げ足の早い……」
苦い表情になったのも一瞬で、すぐにレナは音頭を取る。
「この事件の黒幕が誰なのかを調べなくてはいけませんが、それよりも優先すべきは公女様の安全確保ですね。船着き場へ行きましょう!カイル、あなたは賊二人を警備団まで連行してください。それから、こちらのミーナさんも安全な……そうですね、冒険者ギルドへ送り届けてください」
「船着き場へ急ぐのは判りますが、広場には囮がうろついているのではありませんでしたか」
カイルは首を傾げ、懸念を話した。
「この人数で駆けつけるとなると、どうしても目立ちます。それに公女様が誘拐されたのは、かなり前……にもかかわらず、身代金の話も出ていない。彼らが公女様の身に危害を加える可能性は低いと推測されます」
「あなたの推測が、どこまで信用なるというんですか!」とレナも持論を曲げず、両者は真っ向睨み合う。
しかし刹那のポツリと呟いた一言、「そうね……もし過剰に彼らを煽ったりしたら、彼らも考えを変えるかもしれない。公女が殺されたら、レナの責任ね……」が二人の間に割って入り、「ぐっ……!」と、レナの勢いを挫くのには成功した。
「なぁ、一旦そいつらを警備団とこに連れてってから、船着き場に行かねェか?」と提案してきたのはジェイドだ。
「でしたら、行き先は警備団よりも冒険者ギルドが適任でしょうね。救援を出してもらいましょう。ミーナさんを、ここに残しておくのも危険ですし」
皆が盛り上がるのを一歩下がって見つめながら、刹那は、そっと考える。
カイルやレナは冒険者ギルドを絶対的に信用しているが、刹那から見ると、あれはそこまでの信頼があるように思えない。
近頃は柳一族を使って禁呪を探し回っているし、いずれは予想もつかない正体を表すのではないか。
だが盛り上がる仲間に水を差すわけにもいかず、黙っていることにした。
ギルドへの疑惑は、自分一人だけの違和感だ。今、ここで話す意味もない。
「まずは冒険者ギルドへ行きましょう。そこで港への派遣を頼み、そこのならず者二人を引き取ってもらいます」
ならず者と称されたピートは、ずっと大人しい。
そして、相変わらずジャスラなる盗賊風情も気絶したまんまだ。
意識を失うにしても長過ぎる時間に、だんだんジェイドは心配になってきた。
「なぁ。コイツ、死んでねェよな?」
「その人は……封魔の技で意識を失わせているだけ」との返事で、「起こす?」と尋ねられたレナは真横に首を振った。
「いいえ、それはギルドについてからでいいでしょう」
ピートはジェイドが引っ張り、ジャスラはカイルが担ぎ、ミーナの手を引いたレナを先頭に歩き出す。
皆の後を刹那が追いかけ、一同は冒険者ギルドへ急いだ。