13.夏休みといえば旅行だよね!
小学生の頃から夏休みと言やぁ旅行、家族で旅行がお決まりだった。ま、今年は学校行事が前半入っちまったから家族旅行は、お流れになっちまったんだけど。
だが、家族だけが旅行の同行者じゃない。俺には交流で培った同志がいる!
そう……俗に言う鉄オタ仲間が。
まぁ本音を言うとね?今年こそはカノジョを作って一緒に行きたかったんだけどね?
何故か俺のまわりに集まってくるのはヤロウばかりで、女子の鉄オタって見当たらないんだよね〜。
いや、別に鉄オタじゃなくてもいいんだけど。女子って、なんでああもガードが堅いんですかねェ……
高校に入って、もう半年経ったってのに全然女子とは親しくなれないんだもん。
同じクラスの女子でさえ、だぜ?女子は女子だけで固まって仲良くなっちゃうんだよな。
そのくせ、クラスが違う男子にはキャッキャ騒いだりするしよォ。
そんなミーハー女子とは違うと思っていた悠ちゃんグループの輪にも入り込めないし。
あっちはあっちで入りづらい雰囲気があるんだよな。周りのリア充でーすアピールは半年経っても健在でしたっと。
ぼっちじゃないけど女っ気ゼロ。今の俺の状況は、そんなトコだ。
夏休み後半も、同志と旅行の予定があるっきり。花火大会も同志と行く予定だし、あぁぁぁぁ。
畜生、誰だ?程度の低い高校なら女子もチャラいから、誘えばホイホイついてくるなんて言ったのは!俺だ!
現実は厳しい。ヤンキー女子のほうが非ヤンキー女子よりも、顔面偏差値ボーダーが高いんだもんなぁ〜。
表坂に入ったメリットは夏休みの宿題が思った以上に少なかった点ぐらいで、肝心のモテモテ計画は頓挫しっぱなしだ。
それというのも……
二組の小野山!そして六組の香取!
お前らのせいだ!お前らみたいに、顔面偏差値だけは高いバカがいるせいで!!
女子が下々の俺らまで回ってこないじゃねーか、ぐっぞぉぉ〜〜〜!
しかも、だ。小野山とは何でか行き先が、よくかぶる。呪われてんじゃないかってぐらいの頻度で。
こっちは鉄オタ同志、控えめに言って男子軍団なのに、あいつはレンカやら、やっちんやら女子を引き連れての登場だ。
ふっざっけんなー。大体、空手部はどうした、運動部は合宿あるんじゃないのかよ!?
香取とは、あんま出会わんなぁ。出会いたくもないけど。あいつはチャラオだし、外出の趣味が違うのかもな。
って、ことは、だ。小野山と俺の外出趣味は、ガチかぶりなわけ?やだぁー。
どうせかぶるなら、悠ちゅわんとかぶりたいよぉー。
悠ちゅわんの趣味……中村さん達と話しているのを小耳に挟んだ限りじゃ、手芸とか恋バナとか一般的女子っぽいんだよな。
俺とは一ミリも、かぶりそうにない。ショボーン。
にしたってプールや花火大会で一度も出会わないってのは、どーゆーこと?
悠ちゅわんの夏休みは、まさかの海外旅行派じゃないよね?
海外は、さすがの俺でも行ったことがない。
だって電車も新幹線も、海外までは繋がっていないんだもん☆
そう……厳密にいうと、俺は旅行が好きなんじゃない。電車が好きだから、旅行に出かけるんだ!
車窓から眺める景色、そして車内で広げるお弁当は、いつも食べる飯とは一味も二味も違うのだよ、フフ。
平日は学校あるんで大抵は日帰りだったけど、今は夏休み。来週には三泊四日で沖縄へ行こうって話になった。
沖縄なら、小野山と出会うこともあるまい……ないと思いたい。
早くも俺の脳裏じゃジメジメ蒸し暑い神奈川を離れて、カラッと晴れた沖縄の景色が展開される。
向こうで絶対!可愛い子を見つけてカノジョにするんだッ!頑張るぞ、オーッ!
――そんな希望に燃えていた日が、かつての俺にはありました。
なんてことでしょう。旅行が終わってもカノジョが出来なかったなんて!
えーん。メールでやり取りできる男友達は何人か出来たんだけどネ。
沖縄ガールもガード堅いなんて聞いてないよ〜。観光客へのサービスが足りてないんじゃないのォ?
同志と別れて帰り道をトボトボ歩く俺の目が、背の高いシルエットを捉える。
やだぁ。なんで嫌なものほど目ざとく見つけちゃうんだろ、俺のeyes。
――いや、そうじゃない。
俺の目が小野山を見つけてしまったのは、ヤツが一人じゃなかったせいだ。
いやいや、ヤツはいつも一人じゃないんだけど、そうじゃない。
ヤツと一緒にいたのは、いつもの友達軍団でもレンカでもなくて悠ちゅわんだったんだ。
え?
どうして悠ちゅわんがヤツと二人っきりでいるの!?
夏休みだし、クラスも部活も全然違うのに!!
すかさず二人の話し声が聴こえる範囲まで走り込んだ俺は、物陰へ滑り込んでベタッと壁に張りついた。
「――でね?ちょうどチケットが一枚余ってるし、良かったら小野山くんも、どうかなぁって。一緒に行こ?」
悠ちゅわんがヒラヒラさせているのは、何かのチケットだ。
ライブかコンサートか、それとも何かの入場券か。大方、一緒に行くはずだった友達がキャンセルしたってなとこだろう。
それはいい。だが、何故誘う相手が小野山なの?どこかに誘うほど、二人って仲良しだったっけ?
小野山は無言だ。悠ちゅわんに誘われてんだから、イエスかノーぐらい答えろってんだ。
できればノー一択で。イエスとか言ってみろ、許さないぞ。許さないって思うだけだけど!
「あ、部屋代は気にしないで。ウチが出すし」
ん?宿代が発生するってこたぁ、あれは新幹線のチケットなのか?
俺は目を細めてチケットに意識を一点集中、ふむ、今ちらっとだが大阪って文字が見えた気がした。
大阪かぁ……悠ちゅわんの故郷ですな。
や、はっきり本人が大阪出身だと名乗ったわけじゃないんだけどね。
ただ、悠ちゅわんの標準語は、イントネーションがビミョーに関西なんだわ。
どんなに隠していても、俺には判る。全国津々浦々、電車旅行で各現地人と語り尽くした俺には!
なんで大阪人なのを隠しているんだろ?
俺が今まで出会った大阪人は、大阪出身を誇りに思っている人ばかりで、関東圏に来ても大阪弁を崩さないんだけどなぁ。
「泊まるのは一日だけだし、そんなにかからないから大丈夫だよ」
「しかし……」
悠ちゅわんに押せ押せで勧められても、小野山の反応は鈍い。
まぁ、旅行は目的がないと面白くないよな。悠ちゅわんと行けるんだったら、俺なら即OKで行っちゃうけど。
「しかし?」
「何故、俺なんだ?桜丘なら、いくらでも誘える友達がいるだろう」
俺と同じ疑問を小野山も持ったみたいだ。
そうだよね、悠ちゅわんなら誘える友達、一ダースぐらい居そうなもんなのに。
小野山は小野山で、やっぱ友達が一ダースぐらい居るし、夏休みは、そっちとの予定で埋まっていそうだ。
だから渋っているんだろう。そういった俺の予想の遥か斜め上をかっ飛ぶ答えを小野山が吐き出した。
「それに、俺以外のメンバーが女子しかいないというのも……混ざりづらいんだが」
なんですってぇぇーーー!!
ハーレム!
ハーレム旅行に誘われているのに、行くのを渋っているですと!?
チクショー、ふざけんな小野山!ちょっと顔面偏差値がお高めだからって!!
「じゃあ、友達誘ってもいいよ?」
なんと悠ちゅわんったら太っ腹!
さっきチケットは一枚しか余っていないとか言っていたような気もするけど、友達追加オーダーきました〜!
その旅行、俺が混ざりたい!俺を誘ってよ、小野山!お前とは全く友達じゃないけれど!!
「あ」と、不意に悠ちゅわんがコッチを見る。
「え?」となった俺を指さし、悠ちゅわんが笑った。
やだ……天使。天使が今、商店街へ舞い降りた。
「ねぇ、小野山くん。倉石くん知ってる?うちのクラスの男子なんだけど」
え、なんで急に俺の話……?
悠ちゅわんは小野山を見上げて尋ねたかと思うと、またコッチを見る。
あ、れ。もしかして、俺。覗いていたのがバレている!?
泡食う俺に悠ちゅわんが呼びかけてきた。
「ね、そこにいるの倉石くんだよね?あは、学校以外で会うの、珍しい〜」
やべぇ、完全にバレてんじゃん。いつから気づいてたんだろ、俺が覗き見してんのに。
小野山までコッチを見ているしで、超絶居たたまれねぇ……
いや!これはチャンスだ。小野山が俺をダチ扱いしてくれたら、悠ちゅわんと旅行できる!
頼むぜ、小野山。俺をダチだと認識してくれよ。
俺は精一杯のアイコンタクトを小野山へ送り、そして小野山はというと。
じっと俺を品定めする目つきで見つめながら、ボソッと答えた。
「いや。全然知らん」
「そっか。じゃあね、倉石くん。小野山くん、坂下さんか月見里くんを誘ってみよっか」
二人は踵を返し、何処かへ立ち去ってゆく。
呆然と佇む俺を残して……
バカーーー!
バカーーーーーーー!!
小野山のウンコタレーーーーーーー!!!!
こうして、俺の高校初夏休みは何事もなく過ぎてゆくのであった……