14.夏が終われば体育祭
楽しい夏休みも、あっちゅうまに終わってしもた。二ヶ月って、こんな短かったっけ?
毎日誰かとどこそこへ行った記憶しか残っとらん。
ウチ、チョーシ乗って友達つくりすぎた感は、あるんよね。自分でも。
せやけど、それにしたって誘われる回数が小中の比やなかった。
中学と比べて宿題が思ったより少なかったんは幸いやったわ。
今年の夏休みは、小野山くんと旅行できたのが一番の想い出。
最初誘っても渋い返事で、ウチ、嫌われとんのかな?と思ったりもしたんやけど、坂下ちゃんや月見里くんを誘ぉ言うたら急に乗り気になって、誰と行きたかったんかバレバレや。
坂下ちゃんが一番なんやね。小野山くんの中で。
けど旅行中、坂下ちゃんとは喧嘩したり仲直りしたりで始終坂下ちゃんに突っかかられてたようにしか見えんのやけど、小野山くんめっちゃ嬉しそうで、よぅ判らんわ、二人の関係。
旅行中は小野山くんと二人っきりになれるチャンス、ずぅっと狙ぉてたんやけど、無理やった。
えぇんよ。来てくれた、それだけで。
そう思ぉうとしたんやけど、無理。
無理、無理無理無理。
う〜〜〜っ!
ど・う・し・て・も、小野山くんと二人っきりィなりたいっ。
こないに執着する相手が自分に出来るなんて、自分でも驚きや。
しかも、男友達で。
虫さん好きなんは一番高いポイントやけど、めっちゃ優しいんよね、小野山くん。
さり気ない優しさ言うたら判るやろか。
例えば、せやな、ウチの背が届かんで高いとこにあるモノ取る時に恩着せがましく「取ってあげるね」とか言うてこんし、取った後も「はい、これ」とか媚売った目線で渡したりせぇへんし。
これまで出会った、どの男子とも違う。そこもウチの気を引く重要ポイントや。
反面、ウチを全然女子と見とらん気もする。
女っぽい女子にキョーミないんやろか?
イメチェンしたろかな。坂下ちゃんみたく髪の毛短くして、化粧落として。
せやけど髪切る勇気、ないなぁ。
そないなこと考えとるうちに新学期が始まってもうた。
始まって早々、学校行事があるんよね、表坂は。
体育祭やて。
体育はウチ、苦手やないけど得意でもないねん。ついでに言うとくと、好きでも嫌いでも。
体育祭の後に文化祭があるらしゅぅて、そっちに興味津々や。
けど、練習は真面目にやったらんとあかん。
全員のチームワークが勝利の要やーってセンセも言うとったし。
チームはクラス単位で、四組は黄色のハチマキ。
代表選んでの団体戦と個人競技、それからクラス単位の団体競技まであるんやて。
ウチは個人競技、全パスさせてもろた。そないに足速ぅないし、第一疲れるもん。
チーム競技は玉入れと綱引きの二つ、他に女子は創作ダンス、男子は騎馬戦。
この行事のメインは男女混合リレーで、毎年それで盛り上がるんやって部活の先輩が言うとった。
ウチのクラスも男子女子それぞれ二人が選ばれて、毎日校庭ぐーるぐる。
いつも授業サボッてばっかの子でも、体育祭の練習は真面目にやるんやねぇ。
当日、朝からバンバン爆竹鳴らしてガッコもやる気満々や。
表坂の体育祭は学年で開催日が違うらしくて、ウチら一年が開催トップやった。
個人競技には出ぇへんし、開会式終わった後は、ずーっと応援席で応援するんやけど、これがまたしんどいねん。
応援席を始終センセが見張ってて、よそ見してる子や大人しゅう見てる子に「声出してけー!」って大声で応援要請してきて、少しの雑談も許さん姿勢見せてきよった。
あー。声出しすぎてウチ、明日は喉ガラガラになりそ。
「はーっ、悔しーっ。あとちょっとで一位だったのにー!」
50メートル走を終えた梓ちゃんが応援席に戻ってきて、ぶぅたれる。
「二位だってすごいよ!お疲れ様」とウチが笑顔で褒め称えると、梓ちゃんは「そぉ?ありがとっ」とニッコニコ。
梓ちゃん、何の部活もやっとらんのに足めっちゃ速いんよね。生まれつきの才能やろか。
この後も三つぐらい個人競技出る言うし、少しでも褒め上げて調子よく走らせたらんと。
ラストの混合リレーは、さすがに陸上部の子が選ばれとった。皆ガチや。ガチでリレーに全部賭けとるんね。
ちなみにさっきの50メートル走、ぶっちぎりで一位になったんは坂下ちゃんやった。
あとちょっとって梓ちゃんは言うとったけど、傍目に見ても、かなりのリード取られとったで。
坂下ちゃんて短距離走に強いんやね。何種目か梓ちゃんとかぶりそうで、強敵やん。
綱引きは全員縦に並んで引っ張るんやけど、ウチは「う〜んっ」って声だけ頑張って引っ張る真似しといた。
こんなん女子の出る競技ちゃうやろ。めんど。
これ、全クラスとやるんかと憂鬱になっとったんやけど、一回で終わって良かったわぁ。
次は借り物競争で、あっ二組のラインに小野山くん見っけ。小野山くん、こうゆぅの好きなん?意外。
ウチも出よか思うたんやけど、先輩の話だとヘンなお題が多くて危険やーちゅうからパスしたんよね。
パァンとピストルが弾けて一斉に走り出す。
途中に置いてある紙を拾った選手が全員動きを止めて、なんや眉をひそめたり首かしげとる。
やっぱ変なお題は健在やったんね、今年も。
小野山くんも棒立ちで呆けてたかと思ぅたら、いきなり叫んだ。
「この中で銀色のアクセサリーを所持している人がいたら、貸してくれ!」
いっつもボソッと小声で喋る彼とは思えんくらいの大声やった。
銀色なら何でもえぇんやったら、今日ウチがつけてきたやつ貸してもえぇけど?
って席を立ったら他にもガタッと席を立った子が何人もいて、ウチは椅子に座り直す。
「これ、これぇ!私の髪留め、小野山くん、使ってぇぇぇー!」
ひときわおっきな声で叫んで走り寄ったんは、見覚えあるわーあの子。
臨海学校ん時、ウチに絡んできた小野山くん大好きっ子ちゃんや。
今日も真っ赤なルージュで唇塗ったくって、生徒っちゅーよか保護者みたいな化粧して。
その子を押しのける形で、一組の、なんやったかな名前、坂下ちゃんのお友達がイヤリングを差し出した。
「こっちがいいよ!こっちのほうが小さいし!」
「何よ、あとから出てきて!私が貸すんだから、引っ込んでなさいよ!」
「そんな髪留め、チクチクして手に刺さりそうじゃん!危ないでしょ!?」
なんか無駄な喧嘩まで始まって、小野山くん、めっちゃ困っとる。
「ね、なんで悠ちゃん行かなかったの?」
隣に座った梓ちゃんに訊かれて、ウチは愛想笑いで誤魔化しといた。
「ん、競争率高そうだったし」
「そっか〜。でも、あんなふうに貸す側が揉めていたらビリになっちゃうよ、小野山くん」
それは杞憂ちゃう?他の子も借り受けるのに難儀しとるみたいやし。
そうとうヘンなお題掴んじゃった子もいるみたいで、あちこち拒否の声があがっとる。
しばらく悩んどった小野山くんは、一番近くにいた子が差し出した銀色のボタンを掴んで走り出した。
「私のじゃないのォ!?」とか「えーっ!それでいいの?アクセサリーじゃないじゃん!」といった二人の叫びがグラウンドに木霊しとったけど、まぁ、どっちを取っても後で揉めそやし、違う子のアクセを借りたんは正解やね。
前を走る子を一気に追い抜いて、堂々の一位を取りよった。
小野山くんも足、速いんね。
空手部やし力自慢なんかと思うとったけど、もしかしてスポーツ万能なん?
や、それにしても応援席。小野山くんがゴール切った瞬間、全方向から「キャーッ!」って声援あがってビビッたわ。
二組が盛り上がるのは判るんやけど、ウチの組の女子まで声援あげとるのって、どうなん。
「小野山くーん、かっこいー!」
って梓ちゃんも絶叫しとるし。今のレース、四組負けたんやけど。
そらね、ウチも小野山くんにはビリより上位を取ってほしかったけど、勝負は勝負や。
どんなに仲良うなりたい友達でも、そこは譲れないねん。
一組の坂下ちゃん、二組の小野山くん。
この二人が他にも個人競技出るんやったら、ウチにできるのは、ただ一つ。
声が枯れるまで応援したろ。
フレーッ、フレーッ、よ・ん・く・み!
あぁ、けどまだ前半戦なんよね……
ラストの混合リレーまでには温存したらんと、最高に盛り上がる競技で一人だけ喉カラカラになるんは嫌や。
ひとしきり叫んだ後、ウチは水筒のお茶で喉を湿らせたった。