俺がサンタになってやる!
もうすぐ冬休み!んでもって、十二月はクリスマス!正確には前日のクリスマスイヴを祝うんだけどね、毎年家族で。
んっふっふ。今年のクリスマスプレゼントは、もう決めてあるんだぁ〜。
アリサちゃんにはサンタのミニスカコスプレビキニ。
んでもってぇ〜、育ちゃんにはサンタコスプレスーツ。
どっちも身体のラインがビッチリ判る、セクスィ〜な衣装だよぉ〜。
俺は出来合いのサンタコス衣装で、トリプルサンタの完成さ!イェー。
育ちゃんってサ……俺の息子なんだけど、俺と全然似てなくてイケメンなの。
顔だけじゃなくて、性格もね。
男女問わずで知らない人へ親切にできるし、知らないジジババにも手を貸せるし、知らないやつが捨てたゴミも拾ってゴミ箱に入れるんだよ。
すごいな〜。我が子ながら、尊敬しちゃう!
俺なら知らない人なんか無視しちゃうし、ジジババもスルーだし、ゴミは見て見ぬふりするよ。
こんな父親がいても良い子に育ったのは、全部アリサちゃんの教育の賜物だね!
頑張っている二人を応援するのが、我が家のクリスマスってワケ。
二人の好きそうなケーキも注文しといたし、クリスマスを祝う準備は万端だよぉ。
クリスマスツリーがないのは残念だけど、うち、狭いもんね。飾る場所ないんだ。
まぁ、育ちゃんがちっちゃい頃は、一応あったんだけどね。ビニールって風化するよね。
ちっちゃい頃の育ちゃんも、それはそれはカワユくて、んふふふ。
毎年ケーキを食べる姿、写真に撮ってあるんだぁ。今年もばっちり激写しちゃうもんね〜。
ちっちゃい頃の育ちゃんはクリームべたべたで指ペロしたりして、あぁん、パパもしゃぶりたい。
全身ペロペロしてあげたい。スイーツ育ちゃんカワユ。
そんな育ちゃんも、ついに高校生。
背は小二ぐらいからググーンと伸びて、今じゃ俺よりおっきいよぉ。
筋肉もねぇ、中一までには完成していたかな。ムッキムキ。
絶対モテモテだと思うんだけど、カノジョを連れてきたことって一度もないんだよね……
おっかしーなー。俺だって小学生時点でカノジョいたってのに。
育ちゃん、ちょっと恥ずかしがり屋さんだから、女の子たち近寄れないのかもしれないな。
よし!今年のクリスマスは趣向をかえて、午前中はマチナカ散策しよっと。
所謂ナンパってやつぅ。あっ、育ちゃんの為だよ、俺がしたいんじゃないよ?
俺には、もう嫁さんがいるもの……
一生に一度しか出会えないマイスウィートハニィ、アリサちゃんという美人嫁が。
まずは育ちゃんがガッコから帰ってきたら、予定を訊かなきゃね。
張り切ってスケジュール立てても、肝心の育ちゃんが行けないんじゃ意味ないし。
よーし、育ちゃんが帰ってくるまでパチッてこよっと。
あーん。今日は運が悪かったんだ。
お財布の中身、全部すっちゃった。
クリスマスケーキ、前払いで良かったよぉ。
「おかえり、父さん」
あっ、育ちゃん帰ってたんだ。机の上に広げているのは宿題かな。
育ちゃんね、高校入ったばかりの頃は宿題全然やらなかったんだけど、えっとね、確か梅雨入りの辺から宿題やるようになったんだぁ。
アリサちゃんも俺も勉強を教えられるような親じゃないから、全自力で。
でもね、夏休みの前後だったかなぁ、因数分解が判るようになったって喜んでいたよ。
すごいよね、友達に教えてもらったんだって。
同学年に勉強を教えられる友達もすごいけど、友達に教えてってお願いできるようになった育ちゃんもすごいよ!
優しいけど、コミュ障なのが育ちゃんの困ったトコだったからね。成長したね〜。
そうだ。宿題やってる最中だけど、一応訊いとこ。
「ねぇねぇ育ちゃん、今年のクリスマスの予定、なんかある?」
育ちゃんは、ほんのすこし眉をひそめて無言。
ややあって「あるといえばある……けど、まだ、どうなるか判らないんだ」と答えた。
え?なに、その煮えきらない返事。あるの?ないの?ぼんやりした予定だね。
まだクリスマスまで一ヶ月あるから仕方ないっちゃないんだけど、あるかもってのは友達と?
育ちゃん、カノジョの影はなくとも友達は多いからねぇ。
小中学だけでもクラスの半分が友達だったっぽいし、授業参観で見た限りじゃ。
「どうなるか判らないって、誰かにクリスマスパーティ誘われたりしてないの?」
「一応、誘われているんだ。ただ……」
そう言って、育ちゃんは俯く。
「……プレゼント交換会をやるんだったら、行くのをやめようかって思っている」
寂しそうに呟く育ちゃんを見た瞬間、俺の脳裏で過去がフラッシュバックしたんだよぉ。
あれは……忘れもしない、育ちゃん小四のクリスマス。
その年もクラスの子に誘われて、クリスマスパーティへ行ったんだ。
あのさ、子どもたちのクリスマス会用プレゼントって、全部親持ちなんだよね。
親がイイモン選んで買ってこなきゃいけないワケ。費用もトーゼン親払い。
一年生の時は、俺が選んだ栗模様のマフラー&手袋。
二年生の時は、アリサちゃんが選んだ筆箱と鉛筆三本&定規&消しゴムの文具セット。
三年生の時は、俺とアリサちゃんの二人で選んだイカす腕時計。
その腕時計が意外と高くってねぇ、四年目は、もう無理、いいの買えないってなっちゃって。
ヤケクソでアリサちゃんが思いついたのが、手作りのスイーツだったんだ。
俺は言ったんだよ。手作りをプレゼントにすんのは地雷だから、やめといたほうがいいって。
や、俺は嬉しいけどね?アリサちゃんの手作りなら何でも。
ただ、全ての人が手作り許容派じゃないからサ。
なんでそう思うかってーと学生時代に垣間見ちゃったんだ、人の心の闇ってやつを。
クリスマスじゃなくてバレンタインデーだけど、所謂ブス?デブス?要するに、自分の好みじゃない子から貰った手作りチョコを捨てたり横流しする同級生を散々見ちゃって、うわぁってなったトラウマ想い出だよぉ。
うん、つまりね。さして知らないやつの作った手作りは警戒されるってコト。
まず食べてもらえないと思っといたほうがいい。
でも予算オーバーのキャパオーバーでテンパっていたアリサちゃんは俺の忠告も振り切って、手作りクッキーを完成させちゃった。
育ちゃんがちっちゃい頃にも俺とつきあっていた頃にも作ったことがなかったのにね。
初めて作ったにしては綺麗に出来たよ。
失敗作が山と生まれたのを、見なかったことにすれば。
俺の不安は全然晴れなかったんだけど、「これからは毎年スイーツにすんわ!」って胸を張るアリサちゃんや、それを受け取って「皆も喜んでくれるよ」って嬉しそうな育ちゃんを見ちゃったらさ、「持っていくな」なんて、とても言えないじゃん……
で。
結果どうなったかってーと。
しょんぼりして帰ってきた育ちゃんを見ただけで、全把握した。
やっぱ捨てられたんだ。
しかも育ちゃんの頬に涙の跡があるってのは、眼の前でやられたんだ……!
許せねぇ。
俺の大切な育ちゃんを泣かせるたぁ、どこのクソガキだ、受け取ったのは。
ボコボコの血祭りにあげてコンクリ詰めにして海へ沈めてやりたくなったけど、いい歳した大人が、そんなコトしちゃ〜いけない。もう、ゾクは卒業したんだもんね。
育ちゃんを全身全霊で慰めながら、俺は言ってあげたんだ。
次にプレゼント交換会をするようなパーティに誘われたら、不参加を決め込んだほうが賢明だって。
アリサちゃんはギブアップの白旗をあげている状態だったし、俺も選ぶのに飽きていたからね。
やっぱプレゼントは好きな人に用意してこそ、だよ。
さして親しくもない同級生なんかにくれてやるんじゃなくってさ。
そんな過去のトラウマがフラッシュバックしたに違いないんだよ、育ちゃんも。
「参考までに訊くけど、誰に誘われたの?」
俺の問いに「友達、だよ」と答える育ちゃん。
や、友達なのは判っているって。俺が訊きたいのは、そいつとの仲良し度合いだよ。
「フーン、友達ねぇ。仲良いの?」
「あぁ」と即答したけど、浮かない顔で育ちゃんが付け足す。
「ただ、手作りは苦手ってのが一人いて……それで、どうしようかと」
やっぱトラウマ引きずっているよぉ。
まーアレはね、俺もショックで忘れられないぐらいだし、当事者なら尚更ね。
「交換会、やりたいって言い出した子とは仲良いの?」
「皆、乗り気なんだ」と、ポツリ呟いて育ちゃんは困ったような泣きそうな顔を俺に向ける。
「交換会をやるなら参加しないって言ったら、あきらかに皆がっかりして……俺一人我慢すれば済むのかな、って思ったんだ」
優しさは育ちゃんの長所だけど、短所でもある。
周りに気を遣って一人だけ楽しめないんじゃ、パーティとは呼べないよね。
「坂下にはノリが悪いと怒られたし、俺も、そう思う。だから……プレセントは自分で用意しようと思ったんだ、けど何も思いつかなくて」
「えっ、ごめん、ちょっと待って。坂下って?」
育ちゃんが友達の具体的な名前を出したのは、これが初めてで、思わず俺は聞き返しちゃった。
「ん。友達」
いやいや、友達なのは判っていますって。そいつが一番仲良しなの?
「育ちゃんが名前呼ぶってこたぁマブダチ?おめでとうマブダチ誕生!」
「そんなんじゃないって」と言いつつ、育ちゃんの目は泳いでいる。
めっちゃテレてるし、視線外しちゃったりして、こりゃ〜マブダチ以上の友達、や、もしかして――
「カノジョ?カレシ?ヒー?オア、シー?」
身を乗り出して追求する俺に、背後から待ったがかかる。
「こらこらー、ひーちゃん。息子のプライバシーに土足であがりこまないの」
アリサちゃんだ。おかえり〜。
「だって育ちゃんが友達の名前教えてくれたんだよ?今まで、どの友達と遊んでも、どこの家の子かまでは教えてくれなかったのに!」
「はいはい、どーどー。興奮するのは判るけど見てみ?育、引いてるから」
鼻息の荒い俺を手で押しやって、アリサちゃんは笑った。
うぅん、チャーミング。小悪魔って言葉が世界一似合う笑顔だよぉ。
「育、高校で仲良しフレンド出来たんだ。おめでと」とアリサちゃんにも祝福されて、育ちゃんはキョドったりせず真っ向アリサちゃんを見つめて「ありがとう」と頭を下げる。
アリサちゃんが相手だと、育ちゃん、ちょっと真面目っ子さんになるんだよね。
俺が相手の時は超フレンドリーなんだけども。
なんでだろ?ちっちゃかった頃はママっ子だったのに。思春期?
「育ちゃん、またクリパに誘われたんだって!でも、恒例プレゼント交換会があるらしくてさぁ」
俺の話題振りにアリサちゃんは眉をしかめて「うわ、進歩ない」と悪態をつきつつ、育ちゃんへ「行くの?」と確認を取った。
「どうしようかと今、父さんと相談していたんだ」
「んで、クリパの相談が何でマブダチ誕生へと脱線したの?」
不思議がるアリサちゃんに、ざっとあらましを話したらば。
「あー、なるほど。マブダチが企画して、そんで手作り拒否派が一人混ざっている、と」
アリサちゃんの脳裏にも、在りし日の育ちゃんがフラッシュバックしただろうね。
あの時、事の顛末を育ちゃんは何一つ教えてくれなかったけれど、我が子が落ち込んで帰ってくりゃ〜何が起きたかなんてのは親には判るってもんで。
育ちゃんが寝た後、二人で殺伐としちゃったのは永遠の内緒だよ。
アリサちゃんは、しばし考え込んだ後、結論を出した。
「よし、んじゃあ今年はアレだ、育が選んで自分の小遣いで買おう!ただし、交換会じゃなくて渡したい相手に渡すんだよ」
もう高校生だし、自分で選ぶのは当然だよね。
コクリと素直に頷く育ちゃんを、俺もけしかけた。
「いいね!育ちゃん、坂下さん?くん?にプレゼント渡しちゃいなよ!」
「他の子たちに交換会がいいって反対されても、渡したい相手に渡すほうが絶対思い出に残るって全員を説得するんだ。できるよね?」
アリサちゃんに念を押されて、もう一度、育ちゃんが頷く。
心なしか顔も晴れ晴れしてきたし、クリスマスパーティへ行く気になったみたい。
良かった〜。いつまでも育ちゃんが落ち込んでいたら、俺達しょんぼりしちゃうもんね。
俺ね、育ちゃんには、いつでも楽しく生きてほしいんだ。
「あ、でも……」と呟いた育ちゃんの後を続けるように「何?もらえない子が出たら可哀想だって言いたいの?」とアリサちゃんが予想する。
「だったら、プレゼントは皆の目がないところで渡すといいよ。皆にも、それを徹底させよう。誰が誰に渡したのか判らないんだったら、誰が貰えて貰えてないのかも判んないでしょ?」
さすがアリサちゃん、名探偵!
育ちゃんも優しいよね、貰えない不人気の心配してあげるなんて。
「けど」と、アリサちゃんが呟いた。
「贈り物大会になったら、必ず全員分持ってくる子がいると思うんだけどね。ねぇ、そのクリパは女の子も参加するんでしょ?」
育ちゃんは「あぁ」と頷き、こうも続けた。
「俺を含めて男は二人、女子は三人くる予定だ」
ほほぅ。で、マブダチは、男と女、どっちなんだろ〜?
めっちゃ訊きたい、ガンガン突っ込みたい。
けどアリサちゃんの手前、訊けないのがもどかしいよぉ〜。
モゾモゾする俺に気づいたのか、育ちゃんが苦笑した。
「坂下は女子だ、父さん」
ほほぅ!女子ってことはぁ〜、マブダチ以上の感情が芽生えるフラグもアリだね!
「へぇ〜、そうなんだ。その子、今度あたし達にも紹介してね」
俺が言おうと思っていたことをアリサちゃんが先に言ってくれて、育ちゃんも素直に頷く。
その後に小さく続けた独り言、悪いけど俺の耳は、ばっちり聞き取っちゃったんだよね。
「全員分用意……坂下には無理だな。あの二人に期待するしかない、か」