俺がサンタになってやる!
今年のクリスマスは坂下さんちで集まることになった。ぶっちゃけ前後にイベントがあるから遠慮したかったんだけど、小野山くんが参加するって言われたら来ないわけにいかないじゃない……!
策士ね、坂下さん。
具体的に何をやるか決めたんだけど、プレゼント交換会をやろうって話になった途端、風向きがおかしくなってきたのよね。
手作りプレゼント、あたしはアリだと思うんだけど、桜丘さんは嫌なんだって。
でもって、小野山くんはプレゼント交換会自体が嫌いみたい。
きっと過去に嫌な思いをしたのかもしれないわ。
プレゼント交換会……あたしも思い返すに、ろくなプレゼントがなかった記憶よ。
大抵が文房具なのよね、小学生の交換会って。
やれノートだの鉛筆だの、そんな沢山いらないっつーの。文具屋さんが開ける量が集まったわ。
とにかく、交換会をやるなら参加しないって言われちゃねぇ。
そこまで嫌ならケーキとツリーと、あとはゲームでもする?って話でまとめた翌日。
今度は月見里くんちで集まって、何のゲームをやるかって話をするつもりだったんだけど、小野山くんが切り出してきたのよね。
「交換会ではなく、渡したいと思う相手にプレゼントを渡すことにしないか」って。
「アァ〜ン?プレゼントの話は、昨日お前が終いにしたんじゃなかったのかよ」って坂下さんに絡まれても、なんのその。
「いいね、それ。誰が誰に渡したか解らないようにすると、もっと面白くなるんじゃないかな?」
月見里くんがノリノリで提案する。
その横では桜丘さんも「皆の見てない所でコッソリ渡すん?ドキドキだね」と喜んでいる。
あっ……そういうノリが好きなんだ、二人とも。
まぁ、あたしも異存はないわ。小野山くん案なら、なんだってオーケーよ!
渡す相手は勿論、小野山くん。
皆がゲームで盛り上がっている間にトイレと偽って、廊下で二人っきりになるのよ。
渡すついでに告白しちゃいたい、でも無理!「これ受け取ってください」って言うので精一杯!
真っ赤に染まったあたしの頬を小野山くんが優しく撫でてくれて、「俺も渡したいものがあった」とか言ってプレゼントを渡してくれるのよ、キャーーー!
「けど、誰にも渡されなかったら自分だけ貰えなかったのがバレバレになるんじゃねーのか?」
坂下さんの懸念に月見里くんは少し考え、言い直した。
「なら、こういうのはどうかな?宛先を書いたプレゼントを部屋の一箇所に山積みしといて、パーティの最後にプレゼントを受け取るようにしよう。プレゼントは一人につき一人だけっていうんじゃなくて、全員に送るのもアリだよ。この中で手作りや中古品が苦手って人は先に宣言してくれる?桜丘さんは中古も手作りもNGなんだよね?」
桜丘さんは「えっと」と呟き、ちらりと小野山くんを見る。
「ウチが嫌な手作りは送り主不明のプレゼントだけだよ。誰がくれるのか判るなら、嬉しいかな」
……チッ、面倒くさい女ねぇ。
そんな目線で教えてちゃバレバレなのよ、あんたがプレゼントを送ってほしい相手が誰なのか。
大体、あたし達は仲良しグループでクリスマスを祝うのよ?
送り主なんて、この中の誰かしかいないじゃない。
そりゃあね、あたしだって本音じゃ小野山くんのプレゼントが欲しい!けど!
坂下さんや月見里くんがくれるってんなら喜んで受け取るわよ。もちろん桜丘さん、あんたでもね。
「全員もアリなら、全員が全員に送るってルールにしねぇ?」
坂下さんの提案には、難しい顔で月見里くんが反論する。
「それだと予算が……うぅん、安物と中古だらけになっちゃうけど、それでもいいのかい?」
「お前、そんなビンボーなのかよ!小遣い貰ってねぇってのか!?」
思いやりの欠片もない言葉が坂下さんの口を飛び出し、月見里くんも慌てて言い直す。
「も、貰っているよ!けど人数分用意するのは大変だし、贈り物の差がついても嫌な思いをさせちゃうじゃないか」
「なら、こうしよ?」と言い出したのは桜丘さんで。
「プレゼントは手作り限定にして、山積みルールでいくってのはどうかな」
「て、手作り!?」と慌てたのは坂下さんと、あたしもよ。
手作りって言われても、ねぇ?今からセーターやマフラーを編むのは間に合わないし、そうなると食べ物、主にお菓子作りになっちゃうけど、ハッキリ言って、そっちは苦手分野だわ。
まぁ、あたしはまだ手芸が趣味にあるからいいけど、坂下さんどうすんの。何もなさそう。
「僕は構わないよ。ただし、何をもらっても文句を言わないって約束してくれればね」
月見里くんは自信ありげにニヤリと笑う。何を持ってくる気なの。
「手作りって言われても何を作れってんだ!?なぁ小野山ァ、お前だって手作りできねーよな?」
泡くう坂下さんを見下ろして、小野山くんはポツリと答えた。
「なら、もっと狭い範囲まで限定しよう。プレゼントは手作り菓子限定で」
「はぁぁぁ!!?」
俺も無理だと否定してほしかったのよね、坂下さん的には。
まさかの肯定、しかも菓子縛りキターー!
えっ、えっ、そういうってことは小野山くん、お菓子作れるの?
小野山くんの手作りお菓子が食べれちゃうの!?
やだ……プロポーズも同然じゃない、そんな贈り物。
「俺の作った菓子を毎日食べて欲しい」ってことよね、そうよね!?
「なら山積みじゃなくて、それぞれ作ってきたお菓子を皆でシェアしようよ。食べきれない分は持ち帰ればいいんだし」と、月見里くん。
「じゃあ、種類がかぶらないように作らないと」と桜丘さんも乗ってきて、この二人は確実にお菓子作りが得意なのね。
庶民派な月見里くんはともかく、桜丘さんもなの……意外だわ。
「む、無理だぜ、俺……何作っても炭しか作れねぇ」
及び腰な坂下さんには、小野山くんが説得にかかる。
「坂下。無理だと最初から決めつけるな」
「け、けどよ」
「俺も菓子作りは未経験だ……だが、渡す相手が決まっていれば作れると思う」
え?ハ?
未経験なのに、限定縛り提案してきたの?
はぁん、やだ……小野山くんったらチャレンジャー。
いいわよ、ドンとこいよ。小野山くんが作ったものなら消し炭でも完食してあげる!
「何を用意したらいいのかも、わかんねぇんだぞ!無理、無理無理無理!」
坂下さんは頑固に拒否しているけど。そこまで嫌なの?お菓子作りが。
「あ、なら、パーティ中に皆でお菓子作りしよっか」
どんどん話が変わっていくわね。そのうちに何のパーティだか判らなくなりそう。
「いいね、ゲームするより面白そうだし、そういうのって初めてだし!」
盛り上がる月見里くんと桜丘さんを見て、坂下さんも、ついに覚悟を決めたのか真剣な顔で頷いた。
「よ、よし……皆が一緒なら、作ってやるぜー!」
「その意気だよ」と桜丘さんはパチパチ拍手、月見里くんも「材料は僕と桜丘さんで集めておくよ」と気前の良さを見せてきた。
「え、でも、いいんですか?」
あたしの遠慮にも「いいよ、言い出しっぺは僕らだしね」と月見里くんが笑う。
「あ、どうしてもっていうなら佐藤さんも買い出し、一緒に行く?」
どうしてもってほどじゃないけど、桜丘さんに誘われて、あたしは「はい、是非」と即座に頷いた。
材料費を二人だけに全負担してもらうのは、やっぱ気が咎めるしね。
「んなら俺と小野山でメインのごちそうを用意すんぜ!」とか坂下さんが言い出して、小野山くんは一瞬驚いた表情を見せたけど、坂下さんに「な、それでいいだろ?小野山も」と確認を取られた時には素直に頷いていた。
いいのよ、小野山くん。無理して坂下さんに付き合わなくても。
つーか、そっちは二人だけでの行動なの?あたしも、そっちについていきたいわ。
けど、先に桜丘さんの買い物に付き合うって言っちゃったし……う〜〜ん、ずるい!後出しズルイ!
「それじゃ、今年のクリスマスパーティは、お菓子作りとケーキとチキンで決まりだね!」
「ん?お菓子の他にケーキも食うのか?」「お菓子作りがケーキの代わりじゃないの?」
月見里くんの決定稿に、坂下さんと桜丘さんが同時に首を傾げる。
「あっ……そうか。なら、クリスマスケーキを皆で作ろっか」と、月見里くん。
もっと簡単なクッキーを想定していたけど、ケーキも一応お菓子だし、ありっちゃアリよね。
「お菓子作りとチキンとゲームでしょ」
桜丘さんの訂正が入り、そういう流れで決まったわ。
「ゲームも皆で持ち寄んのか?」といった坂下さんの疑問には「ボードゲームを持ってくるよ」と月見里くんが答え、あたしも「家にゲーム機ありますけど、どうします?持ってきましょうか」と言うだけ言ってみる。
「ゲーム機は重たいから荷物になっちゃうでしょ。トランプとボードゲームで充分じゃないかな」
対戦ゲームで本気を見せる小野山くんを見てみたかったけど、桜丘さんの気遣いに感謝して、ここは遠慮しておくべきね。あたしだけ翌日筋肉痛ってのもシャレにならないし。
今年のクリスマスは皆で集まって、お菓子作りとゲーム。そういうことに決まったわ。
合同修学じゃ見られなかった、小野山くんのエプロン姿が拝めるのね……
当日を妄想するだけでも、ワクワク鼻血ブーだわ!ハァハァ。
エプロンは普通につけてもいいけど、裸エプロンだと尚更滾るわね。
腹部より下の膨らみを、じっくりたっぷり眺めた上で触りたい!ニギニギしたい!
触られて「だ……駄目だ」と言いつつも、小野山くんは頬を赤らめて逃げようとはしないのよ。
あぁん、可愛い。快感に悶えながらも我慢する小野山くんを見てみたい!
「じゃ、クリパの予定も決まったことだし、今日は解散だな」
「うん。当日が楽しみだね」
「それじゃ、バイバーイ」
小野山くんのピンクな脳内妄想でいっぱいになりながら、あたしは帰り道を急いだ。