俺がサンタになってやる!
今年は一緒にクリスマスを祝える友達がいるって思って、ホッとした。中学最後の年に、突然の引っ越しで寂しい想いをさせてしまったから。
大学まで海外で過ごしたかったって愚痴を聞くたび、胸が苦しくなった。
私にも親しい友人がたくさんいたのに、あの人は私達の意見を何一つ聞いてくれなかったものね。
中学校も向こうで卒業させてあげたかった。
仕事だから仕方ない、ではなくて子供の心に寄り添って欲しかった。
こういう人を夫に選んだ自分が悪いと言われたら、そうなのかもしれないけれど……
だから高校でやっと友達ができたと喜ぶあの子を見た時は、私も嬉しくなった。
クリスマス会は、そのお友達とするみたい。
しかもホームパーティなんですって。
良かったね、颯太。めいっぱい楽しんでおいで。
前準備、なにか手伝いたかったけれど、全部自分たちでやるのが楽しいんだと断られてしまった。
でも、あんなに生き生きした颯太を見たのは中学ニ年以来で、私は思わず涙ぐむ。
やっぱり学校は友達がいてこそだと思う。
あの人は友達なんかいなくても通えると言っていたけど、そんなのは人それぞれでしょ。
あなたはそうでも、颯太はそうじゃなかった。それだけの話。
あの人は颯太の話を振っても、いつも「そうか」の一言で終わらせてしまうから、あと何年この人とやっていけるのか不安になったけれど、颯太が自立するまでは我慢しなくちゃ。
帰郷だけでも、あれだけ悲しませてしまったんだもの。これ以上の不幸はいらない。
それにしても、あの学校で友達が、できるなんてねぇ。
県下有数の不良高校だと知ったのは颯太が入学した後で、それが発覚した時には夫に叱られたけれど、あの人も入るまでは知らなかったんだから、おあいこだし。
それよりも、真面目な颯太は学校で浮いちゃうんじゃないかと心配だった。
入って三ヶ月ぐらいは学校に馴染めずにいたみたいだけど、初めての学校行事を終えた頃に友達ができたんだよと報告してくれて、今度は一体どんな友達なのかと不安になった。
話を聞くに真面目な子は颯太以外にも通っていたようで、噂を鵜呑みにする危険性を改めて感じた。
それ以来、いつも夕飯には学校で友達と遊んだ類の話を聞いている。
愚痴が一度も出てこないぐらいには、毎日仲良くやっているみたい。
あの子は向こうでも友達に恵まれていたけれど、あの頃は不満や愚痴もあったから。
今の友達は、いい子ばかりで助かる。颯太も、私も。
一番名前が出てくるのは、小野山くんという男の子。
会ったことはないけど、颯太のお気に入りみたいで、私まで彼に詳しくなってしまった。
今度うちに連れておいでって言っているうちにクリスマスのシーズンになっちゃったけど、未だに颯太が、うちへ連れてきたことはない。
なんだろ。向こうじゃ、よく友達を連れてきていたのに。
大人しくて優しくて真面目だけど、もしかして見た目は怖いとか?まさかね。
まぁいいや。うちに連れてこなくても、学校で仲良しなんだったら。
今日は朝から出かけていった。朝から夜までクリスマスを祝うんだって。
向こうのホームパーティも大体が夜までかかっていたから、帰りが遅いのはいいとして。
女の子のお宅にお呼ばれするのは、小学生以来じゃない?
まっ、他の子も一緒だから、小学生の延長線になりそうだけど。
その子の名前も、一応聞いている。坂下さんって言うんだって。
颯太の話じゃボーイッシュな子らしいけど、何かのきっかけであの子と親密になったりしないかな。
だって向こうにいた頃の颯太は女の子にモテモテで、引く手あまただったんだよ。
肝心の本人が恋愛に興味なかったのか、発展はなかったけど。
でも、もう高校生なんだし!
恋の一つや二つ、経験してもらわないと、私みたいに後悔する見合い結婚になっちゃうよ?
子供まで作っておいて何言ってんだって言われそうだけど、新婚ほやほやだった頃は一刻も早く子供を作らなきゃいけない脅迫概念に駆られていたんだよ、お義母さんに急かされて。
颯太には、グイグイ引っ張ってくれる活発な子が似合いそう。
話を聞く限りじゃ、坂下さんって、まさにそのタイプっぽい。
彼女が小野山くんや他の友達との縁も結んでくれたそうだし、颯太のミューズじゃない?
家で埃を被っていたボードゲームも鞄に突っ込んで持っていった。
幼少の颯太とあの人のお気に入りゲームだったんだけど私にはルールが難しくて、こっちに戻ってきてからは、さっぱり使われていなかったんだよね……
うん、ごめんね。ゲームに疎い母親で。
プレゼントは交換したりしないみたい。その代わり、ケーキを焼くんだって張り切っていた。
お菓子作りかぁ。颯太、得意だものね。その手腕で坂下さんを落としちゃえ。
あ〜、ワクワクする。楽しかったクリスマスの話、早く聞かせてね、颯太!