おうとほうかい

五話 危機一髪!

王都を追われた没落のクレア姫は、自由騎士ホーリーと、その友人のシド、そしてダークエルフであるエルクの紹介により、賢者笹川の末裔をも仲間に加える。
「しかしシド、あなたが何故こんな処をふらついているんです?あなたは一旗あげに放浪の旅へ出たはずでは」
「……ま、色々とあってな。お前こそどうしたんだ?ロイスは飽きたのか」
「飽きたのではありません。十六歳になったお祝いに、主探しの旅へ出されたのです」
えへんと胸を張るホーリーへアキラの鋭い指摘が飛んでくる。
「早い話が追い出されたってこと?」
「ちっ、違いますよー!自由騎士は成人したら主を見つけに旅立つのが、ロイスの習わしなんです!」
「でも、それって結局追い出されてるのと、あんまり変わんないと思うけど」
「だな」と同郷幼馴染のシドにまで追い打ちをかけられて、ホーリーはぐうの音も出ない。
雑談が終わったタイミングで賢者が切り出した。
「クレア姫より現在の状況についてお聞きしました。私は私なりに、お力を貸すことができそうです。ただし、私が代々受け継いできたのは法術――守りの力です。攻めていくのは、あくまでも皆さんにお任せになります。その代わりバックで結界を張ることに専念してますから、ダークエルフの魔法を恐れる心配はありません」
「では守りの術は賢者様にお任せして、攻撃呪文はエルクさんが担当、僕とシドで前衛を。クレアさんは賢者様と共に後衛にさがって回復を担当してください」
ホーリーに命じられ、クレアも「はい」と笑顔で頷いた。
「ボクは?」
「さて、担当は決まったとして、問題はどうやってダークエルフに気づかれずに王都へ向かうか、ですね」
「ねぇねぇ。ボクは?って聞いているのにっ」
ぐいぐい袖を引っ張られ、ホーリーは引っ張ってきた相手を、まじまじと見つめる。
「えっ?まさかアキラさん、あなたもご一緒するおつもりなんですか?」
「決まってんだろ!ここまで一緒についてきて、今更ボク一人でどこかに行けっていうの?」
「どこか集落に送ってやるから、自分で生活できるような働き口を見つけなよ」
シッシと野良犬を追い払うが如くエルクからぞんざいな扱いを受けて、アキラはプゥッと頬を膨らませた。
「ボクはココに永住する気はないんだよ?ゲートってのを通って自分ちに帰るんだから!」
「残念ですが、ゲートは自然発生するものではありませんから~アキラ様が帰るには強大な魔力を持つ術者の協力が必要ですわね。それと、今はクレア様のご依頼を優先しますから……」
全員に困った奴扱いされては、アキラも途方に暮れるしかない。
彼らには目的がある。
悪しき凶悪なダークエルフから城を奪還するという、危険で無謀な目的が。
それが終わるまでは、誰も協力してくれまい。
そう考えると、アキラだって目の前が滲んでくるってものだ。
「わわっ、泣かないで下さいよ~。困ったなぁ……ちょっと、シド!ぼーっと見てないで慰めてあげたらどうなんです?」
騎士道精神で慰めても梨の礫、ホーリーはシドに問題を丸投げした。
ところが、この幼馴染ときたら「お前がやれよ」と素っ気ない。
「女の子に優しくするのは男の務めですよ、違いますかっ!?」
「迷子のお守りなんざ性に合わないっつってんだ。ガキはガキ同士お前らで慰めあえよ」
シドはともかく、ホーリーやクレアなんかは同世代に見える。
だというのに全員が自分を子供扱いしているのだと空気で伝わり、さっきまで泣いていたアキラはカッとなって叫んだ。
「ボクはガキなんかじゃないっ!ホーリー、キミたちの戦いにはボクも行く。嫌だなんて言わせないよ!」
「えぇっ、し、しかしですねぇ……あなた戦えるんですかぁ?」
アキラは手ぶらだ。何かの魔法を使えるようにも見えない。
いや、賢者の紹介によると、彼女はゲート通過者だというではないか。
魔法はもちろん、武器の扱いに慣れているとは到底思えない。
「こう見えたって空手の有段者だよ!試合ってみる?」
ぐっと握り拳で構えて見せられて、ホーリーは咄嗟に断った。
「い、いいえ、結構です」
空手と言われても全く聞き覚えはないが、自信ありげな態度を見るに、彼女の世界では有名な武術なのかもしれない。
「アキラ様……旅は危険を伴います。相手はダークエルフ、賢者様の援護があるとはいえ命を落とすかもしれません。アキラ様は死の覚悟ができておりますか?戦場では皆、必死です。あなたを守る手が回らないかもしれません」
クレアに諭されても、アキラは勢いよく答えた。
「そんなの承知の上だよ!ここで残って不安におびえてるぐらいだったら、ボクも一緒に行く。それで、戦いが終わったら家に帰るんだ。手を貸してくれるよね?」
クレアが真っ向覗き込んでも、アキラの瞳に怯えの色は全くない。
これなら、或いは戦場でも足を引っ張るような真似をしないかもしれないといった期待が見えてきた。
「はい。王家再建の際に集まった有志にも呼びかけて、必ずやゲートを開いてごらんにいれます」
真摯に頷きあい、追加同行も決まった処でシドが号令をかける。
「さてと。そろそろ行くか?」
「あ、ちょっとお待ち下さい。先ほどホーリー様もおっしゃっておられたように、王都へ向かうは良しとして、どうやって気づかれないようにするかですけれど」
そいつを遮ったのはエルクだ。
「あいつは魔眼石を持っているんだ。どうやったって気づかれるさ」
「魔眼石……?」と首を傾げるシドの横で、クレアは青ざめて俯く。
魔眼石なら誰かに説明されずとも、よく知っている。
ゴルゴル王国の秘宝だ。
あれがダークエルフに奪われていたとなると、賢者の結界も何処まで通用するのか怪しくなってくる。
「魔眼石ってのは魔力を増幅してくれる秘石の名前さ。ゴルゴル王が後生大事に持っていたんだけどね」と、エルク。
ホーリーも少し考え、口添えした。
「ダートさんは打たれ弱いダークエルフでしたよね。こちらにはいざというときの切り札がいますから、そこはご安心を」
「ダート?城の中にいるダークエルフはダートというのですか?」
訝しげなクレアの態度に、ホーリーはハッと気づく。
しまった、うっかり秘匿情報を口にしてしまった。
ダークエルフ盗賊団の副リーダーがダートなのは、盗賊団に所属したことのある者しか知り得ない。
「は、はい、そーです」
「ダート……どこかで聞いたような……」
首をひねるクレアを促したのは、シドだ。
「追々思い出すだろ。今は、すぐにでも出発しようぜ」
幼馴染の大雑把さに救われた。
途中の道で宿へ立ち寄り、荷物をまとめた後は徒歩でゴルゴル城方面へ向かう。
しかし、王都付近の村は立ち入り禁止区域となっていた。
一行は仕方なく、立ち入り禁止区域ギリギリの村で一泊する。
「ダートの奴の仕業だね。一体これから何をやらかそうって気なんだ、あいつは」
「確か世界征服が夢じゃありませんでしたっけ?」
何気ない雑談に、アキラが素朴な疑問を放つ。
「なんでホーリーが、そんなこと知ってんのさ?」
「ぎぎくっ!!い、いえ、風の噂でちらほらと……」
明らかに挙動不審な反応だったが、あえてアキラは突っ込まないでおいてやった。
今は全員が一致団結で城奪回に立ち向かわなきゃいけない。
「ふーん。あ、そういやさぁ、さっき切り札がどうのこうのって言っていたけど、それって何のこと?」
「チッチッチッ、切り札は最後まで姿を見せないから切り札というのです。まぁ、お城に近づけば彼も僕たちに気づいて行動してくれると思いますよ」
またしても内心の冷や汗を、そっと拭いつつ皆の顔を見渡した。
「それより、ここはもうダートの目の届く範囲です。どこに手下がいるかも判りませんから、町に出たら変装して偽名で呼び合い、それとなく様子を探ってみましょう」
かくして部屋で飯を取った後は、散開して情報収集に励んだ。
住民の話によると、最近はダークエルフも大人しく城に引っ込んでおり、何処とも争っていない。
近郊の村だけに初めは避難しようといった話もあがっていたが、しばらくは様子見でいくそうだ。
アキラたちが互いの情報を交換していると、誰かの大声が聴こえてきた。
「おぉーい、大変だ!向こうで喧嘩が始まったぞ」
騒ぎに駆けつけると、エルクがダークエルフの集団と睨み合っている。
その側にはコテンと倒れた賢者の姿も。
「賢者さん!しっかりして、大丈夫!?」
「あーこりゃ頭打ってのびてんな。ま、転がしときゃーそのうち目覚めるだろ」
「おや、こんなところにバナナの皮が落ちていますよ?」
昏倒する賢者の周りで騒ぐ三人に、エルクの叱咤が飛ぶ。
「そいつはバナナの皮で滑って転んだだけだ、ほっときな!」
エルクと向かい合ったダークエルフが、喉の奥で笑った。
「化粧で顔の色は落とせても口の汚さは相変わらずだなぁ、えぇッ、エルク姐さんよォ」
「あんた達こそ、いつからあたしに向かって偉そうな口がきけるようになったんだい!?」
エルクはダークエルフ盗賊団の元リーダー、全員に顔を知られている。
白粉で褐色の肌を隠したぐらいでは、誤魔化しきれなかったようだ。
「おぉっとぉ、そこの人間!お前どっかで見たような顔だと思ったらァ~」
ちらっと、こちらを見たダークエルフと目があい、ホーリーはギクリとなる。
「み、皆、何をぼーっと見ているんです、奴を捕まえてしめあげるチャンスですよっ!」
「ダークエルフがホーリー様のお顔を知っている……?ホーリー様、一体これは」
「クレアさん~っ、そんなことより神聖魔法を詠唱してください、ダークエルフの弱点ですよ!」
ホーリーの号令で、ぼーっとしていた仲間にも時間が戻ってくる。
「じゃあ軽くノシてやるね!」とアキラも意気揚々、一歩踏み出した。
その直後、ダークエルフの手元がチカッと光ったかと思うと数本のダガーが放たれ、アキラめがけて飛んでいく。
だが、刺さる!と思った瞬間、ダガーは直前で地に叩き落とされる。
シドの棒がダガーを叩き落としたのだ。
「あ……ありがとう」
悔しいが、いつナイフが飛ばされたのかも見えなかった。
気づいた時には何かが飛んできて、避ける暇なく叩き落された次第だ。
「ダークエルフと戦った事のねぇやつは後ろにさがってろ。二度は手助けできんぜ」
油断なく身構えるシドを見て、ダークエルフがくるりと踵を返した。
「お前は……!チッ、分が悪いッ。ここは逃げさせてもらうぜ」
敵はエルクやホーリーばかりではなく、シドにも見覚えがあるようだ。
逃げる背中にブチキレまくりなエルクの怒号が飛んだ。
「逃ぃがすかぁ~っ!破壊の炎よ、敵を焼きつくせ!『バーストフレアッ』!!!
「ばっ、馬鹿……ッ!」と慌てるシドやホーリーが「ちょっとぉ~エルクさん、町中で炎の呪文は勘弁してくださいよぉ~っ!!」と泣き叫ぶも一瞬遅く、炎の呪文は放たれた。
炎はダークエルフもろとも大通りに面していた屋台を数体吹っ飛ばし大炎上。
屋台のおっちゃんおばちゃんも巻き添えを食らう大惨事だが、ダークエルフは炎の中をよろよろと立ち上がり逃走を続ける。
「逃がすかぁーっ!」
激情のエルクに首根っこを引っ掴まれて、クレアが「ひゃんっ!?」と悲鳴を上げた。
「きゃーっ、やめやめエルクさんっ!人間大砲をクレアさんでやらないでください、って、あひゃぁぁぁぁっっ!!!?
クレアの代わりに、止めに入ったホーリーが投げ飛ばされる。
ホーリー大砲は見事ダークエルフに命中し、遠目に二人揃ってばたりと倒れるのが見えた。
「む……無茶苦茶すぎる」
呆れるシドには、いつ気がついたのか賢者が解説する。
「エルクさんは頭に血が上ると、前後の見境がつかなくなるのですわ~」
唖然とするアキラやシドを置き去りに、だっと走り寄ったエルクは元子分の首を掴んでガクガク言わせた。
「さぁーきりきり白状せんかい、オラァッ!」
怒号で我に返ったアキラも近づいて、半分グロッキーなダークエルフを問いただす。
「ねぇ、さっきホーリーとシドを見て驚いていたよね。どうして?知り合いなの?」
「そこのバカは最初俺達に味方していたんだぜ。要は裏切り者よ」
黒い指が示したのは、起き上がって頭をさすっているホーリーだ。
だがアキラやクレアが驚くよりも早く、エルクが怒鳴った。
「何言ってんだい!ホーリーはあたしに味方してくれたんだよ、裏切ったのはダートじゃないか!!」
「あ、なるほどね。エルクに味方するなら判る気がする」と、アキラも深く納得する。
ホーリーは初見の挨拶で、いきなり見知らぬ女性の掌にキスしてくるような奴だ。
きっとクレアやエルクと出会っても、アレをやって仲良くなったのだろう。
「じゃあホーリーはいいとして、シドは?どうして知っているの」
「裏稼業じゃ、そいつは有名人だ……奴隷商アギトの子飼い、奴隷調教師としてな」
ホーリーの時と違い、声に憎しみがこもっている。
過去に稼ぎを取られるようなトラブルが、あったのかもしれない。
「奴隷!?そんなのあるの!」
現代人の驚きに、クレアが浮かない顔で頷く。
「ありますけど、非合法な商売です。シドさん……」
「なんか言いたそうな顔してんな」と吐き捨てるシドからも視線をそらし、クレアは俯いた。
「……いえ。今は共に力を合わせ王都奪回に協力してくださる方ですから、文句はよしましょう」
一通りアキラの質問は終わったと見て、すいっと賢者がダークエルフの前に立つ。
「私からも、お聞きしたいことがございます。ダートさんは、まだ魔眼石のちからを使用しておりますか?」
「……あぁ。あれが今じゃ奴の力の源さ。あれがある限り、いくらお前らでも」
「それは好都合ですわ~。うふふふふ~」
謎の微笑みで返されて元子分は勿論、エルクも「どういう意味だい……?」と狼狽える。
「にしても、あっさり口を割りやがったな。……何を考えてんだ?」
シドの問いにも、ダークエルフは何処か投げやりに答えた。
「俺が戻ってこないと知った時、援軍がまわされる寸法だ……無理して口を閉ざす必要なんかねぇってこった」
その言葉を裏付けるかのように、続々と異形の魔物が町の入口から入ってきているではないか。
瞬く間に町は大混乱、逃げまどう人の波で流されてしまいそうな勢いだ。
――そんな様子を、遥か離れた丘の上から望遠鏡で覗く青年がいた。
「……合図があったら参上しろと言われたが、あれじゃ加勢した方が早いな」


To Be Countinued!