FES

ジパン狂乱

肆の陣:一路、キョウへ 検問突破

検問が近づいてくるにつれ、皆の足も速まってゆく。
「なっ、なんじゃがぁッ!」と驚愕に慄く隊員を、「おりゃぁ!」と拳の一撃で突き倒したのはジェイドであった。
一定の間合いを取って立ち止まったレナは名乗りをあげた。
「我が名はレナルディ=セイナンス=アフラウディア!ジパンの地を乱す愚か者よ、この聖騎士が裁いてくれましょうッ」
「同じく聖都聖騎士、グリフィルス=J=ライアント!この槍を恐れぬ者は、かかってくるがよい!」
力強く前足を掲げたケンタウロスを見て、見張りは全員が狼狽えた。
「うっ、馬じゃぁ!馬が喋っとるけェ!!」
「っ……俺は、馬じゃねぇッ!」
怒りの一突きが手前の見張りを串刺しにし、その間に走り出したレナが二、三人まとめて一閃する。
検問には十五人の見張りがいたが「奇襲だとぉ、ふざけんなやぁ!!」と叫んだ今は全員が抜刀、検問を守る形で身構えている。
内一人が「おう、いたぞ!近藤はんの言った通りじゃ!虎男じゃ、虎男がおるぞ!あいつを捕えよっと!」と指をさし、全員の視線が後方へ向けられた。
最後尾で「おりゃー」と気の抜けた声をあげていたテトラがキョトンとなるのを見もせずに、シェスカも走り出す。
「せぇいっ!」
振り回した刀は誰にも当たらず、逆に「こんのヘナチョコ異人がァッ!」と斬り払われて慌てて身を伏せた。
やはり愛用の大剣ではないから、戦いづらいし間合いも測りにくい。
「死ねぇっ!」と斬りかかられても、悠々避けた上で反撃まで出来るレナが羨ましい。
そもそも何で、彼女だけはロングソードを所持しているのだろう?
疑問に思ったシェスカだが、それ以上は考える暇を与えてもらえず、「きぇぇい!」と斬りかかってきた凶刃を「ひぇ!」とギリギリでかわした。
オーギュとカイルは、テトラを庇う位置に留まる。
動きを見ていりゃ、よく判る。連中が躍起になって、こちらへ向かってこようとしているのが。
「おいらを守ってくれるだか?」
嬉々としたテトラへはカイルが頷いた。
「えぇ、あなたは無理に戦わなくて結構です。僕が全てを打ち払いましょう」
ちらりと目線を送られて、オーギュも片目をつぶって応えてみせる。
「……ま、一人で全部防衛ってのもつらいだろ。俺も協力するぜ」
手持ちの武器は使ったことのない脇差しで少々心許ないが、いざとなったらテトラを引っ張って逃げればいいだけだ。
見張りを分散させれば、前方で乱戦になっている面々も戦いやすくなろう。
それにしても、だ。
自前の剣を持っているレナはともかくとして、グリフィは借り物の槍だろうに奮闘している。
五人相手に斬りつけられたって、びくともしない。
いや勿論、血は飛び散りまくっているのだが、本人が引く気配を一切見せない。
ジェイドなんか素手で防具もつけちゃいないのに、野生動物が如しのフットワークで、よけるわ殴るわ軽快な動きだ。
さすが先陣切って突っ込んでいくだけはある。
検問での立ち回りに関する作戦は、何もなかった。
連携をどう取るつもりなのかと内心危ぶんでいたのだが、どうにかなりそうだ。
おっと、一人が大回りで此方へ走り込んでくる。
「ぬどりゃぁぁぁ!どけぇ、どきさらせぇっ」と叫びながら上段に斬りかかってくる侍を、「はっ!」と気勢一つで華麗に避けて、返しざまに蹴りつけたのはカイルだ。
刀を蹴り飛ばされて「どわったぁっ」とよろけた懐へ飛び込むと、「でぇいっ!」と肘を打ち込んだ。
腹を押さえて「お……ご……」の言葉を最後に、見回り組隊員は、がくりと崩れ落ちる。
近くで見ていたオーギュとテトラは、ぽかんと呆けた。
「え、お前って竜騎士……なんだよな?」
出かける前、カイルが慣れない武器だからと刀を断ったのは見ていたが、素手で戦えるとも聞いていない。
「えぇ、そうですか、それが何か?」
「いや、え?今、素手で倒したよな?」
「はい。僕はエンクウジの師範代ですから」
ますますもって疑問がオーギュの脳内を埋め尽くす。
――といった後方のやり取りはさておき、前方は、すっかり混戦になっていた。
「くそッ、このアマァやりよるど!」
むやみに斬りかかるだけでは捉えられないと悟ったか、連携での斬りに変えてきた。
前の侍が一閃するのを避けた直後に横からの斬りが胴を切り払い、初めてレナが後退した。
「くっ……」
鎖帷子が刃を食い止めたとはいえ、打撃による衝撃までは抑えきれない。
上に羽織るのも忍び装束一枚では、素肌を殴られるのと同じだ。
「なんぼ忍び風情が聖騎士の真似事したって、ちょいと斬られりゃバケの皮ァ剥がれっとなァッ!」
嘲り倒していた隊員は、斜め後方からの不意討ち馬キックで「ごはぁっ!」と吹っ飛んだ。
「団長!」
レナに群がった侍を、片っ端から蹴っ飛ばしているのはグリフィルスだ。
「グリフィッ!す、すみません」
「いえ、団長を守るのは団員の役目……我々も連携でいきましょう」
二人を囲むのは八人。
残りはジェイドを取り囲む。
内、一人二人は大回りに後方へ走っていくのだが、カイルがうまく撃退している。
自分にできるのは、誰のフォローか。
シェスカが考えたのも一瞬で、ジェイドに斬りかかる侍を横手から襲った。
「でやぁっ!」
「けぇッ、馬鹿の一つ覚えがぁッ」と避けられるのは想定内だ。
すぐさま後方へ飛び退くと、シェスカは「でぇぇい!」と腕を振り回す。
勢いよく伸びた腕は、しなりをあげて「なぁぁぁぁっ!?」と驚く隊員の顔面に刀ごとブチ当たった。
さらに体勢が崩れた隙を見逃さず、ぐるぐるっと腕を巻き付ける。
身動き取れずに混乱する相手を「どっせい!」と引っ張り寄せて、思いっきり投げ飛ばしてやった。
「なんじゃぁ、こいつぁ!バケモンかぁ!」
一斉に沸き立つ見回り組を睨みつけ、シェスカも威勢よく怒鳴り返す。
「そうだ、私はバケモノだ!怖いなら逃げてもいいぞ、私はお前ら悪党と違って逃げる背を切ったりしないからな!」
「オマエ、バケモンだったのか!」と味方からも飛んでくる非難には、ちょっぴり心を痛めながら。
奇襲から始まった乱闘は、こちらが圧倒的に有利だ。
「くそ、援軍や、援軍呼んできぃっ!」と叫ばれて、身を翻した隊員の背を黒い鞭がしばき倒した。
「きさん、さっき逃げる背を切らんっちゅうたがや!」との非難に、シェスカは悪人めいた笑顔で言い返す。
「ククッ、バケモノの言うことを額面通りに受け取るとは、お前らも甘いなぁっ」
大剣を使えない以上、自分にできるのは足止め、それしかない。
シェスカが拘束した隊員を、ジェイドが殴って昏倒させる。
レナが斬り払った隊員は、間髪入れずにグリフィルスの槍が突き刺してトドメを刺した。
やがて動く者のいなくなった検問を見渡して、カイルはホッと溜息をつく。
「……援軍を呼ばれずに済んだようですね。行きましょう」
死屍累々な隊員の中には、まだ息のある者もいたが、これだけ痛めつけてやったのだ。
たとえ魔法で怪我を治してもらったとしても、戦える気力があるかどうかは別物である。
腕に覚えのある者もいたはずだ。
なのに伸びる腕や馬キックでやられたとあっちゃ、プライドが粉々に砕けたであろう。
少しばかり同情したが、キョウ住民の悲劇を踏まえたら、あまり同情できる相手でもない。
二、三度首を振って気持ちを切り替えると、オーギュは先を行く仲間を追いかけた。

検問が大混戦になっていた頃――
裏地を抜けた一行は、まっすぐ降魔の里を目指していた。
大通りに例の羽織をまとった人影を見つけた劫火が、歩く速度を変えずに竜魔へ囁きかける。
「お前らは路地裏にでも隠れとけ。あいつは俺が追っ払っとくからよ」
「判った」の一言を残して、幾つかの気配が消える。
「ねこは、どうすればいいでちゅか?」
白いポワポワを見おろして躊躇したのも一瞬で、劫火は傍らの商人へ命じた。
「十三郎、こいつはお前に任せた」
「おう。ねこ、ちっと黙っとき?劫火が口八丁でかわしよるけんの」
「はーいでちゅ」
ねこむーちょを久我が抱きかかえ、ゆっくり見回り組へと近づいていく。
向こうも此方へ気がついて、声をかけてきた。
「おう、誰かと思えば堀田様の腰巾着やないかい」
「誰が腰巾着だって?壬生の使いっ走りに言われる筋合いだきゃあねェなぁ」
お互いに目つきも悪く睨み合い、ねこむーちょは内心震えあがる。
ぎゅっと久我の腕にしがみついて嗚咽を噛み殺した。
「ヘッ。ナゴヤを離れてキョウに何用ですかい、劫火様。ここにゃあ、あんたの出る幕なんザァ一つもありやせんぜ」
「町をのんびり見回ってりゃいいテメェらと違って、俺ァ忙しいんだよ。テメェに構っている暇だってねェんだ、さっさと失せな」
ペッと唾を吐いた侍は「威勢だけは相変わらずお勇ましいこっちゃなぁ、城の犬が」と捨て台詞を残して去っていった。
道を歩く隊員は、本当に町を巡回しているだけのようだ。
城仕えの面々とは敵対していると聞いていたが、即斬りあいになるわけでもない微妙な距離感だ。
大通りを歩いていく劫火の横へ、路地裏を出た志摩が、すっと近づく。
「案内するよ。ついてきな」
「おう」
短いやり取りを交わした後は、志摩が先をゆく。
気のないふりで歩いていた劫火が、久我へ短く合図を送る。
「走るぞ」
表を歩く人通りは、けして少なくない。
しかし志摩の速度は、ぐんぐんあがっている。
歩くというより小走りだ。
劫火と久我も次第に速度をあげていき、終いには全力疾走で里へ辿り着いた。


里へ一歩踏み入れた途端、外にいた住民が、わぁっと歓声を上げるもんだから、久我とねこむーちょは驚いた。
「竜魔様!」「本当だ、竜魔様だ!」
どの顔も竜魔へ視線が一直線。
白いぽわぽわなんぞは視界の隅にも入れていない。
駆け寄ってきた人々に囲まれて、竜魔は軽く頭を下げる。
「すまない、皆。心配させて」
「なんの、俺ァ信じていましたよ!あんたは絶対生きているって」
竜魔よりも上背のある屈強な男が、ぐっと涙を拭き取って笑う。
深い緑色の忍び装束をまとっているからには、彼も降魔忍者なのであろう。
「竜魔様、早くお屋敷へいってあげて!」と急かされて、屋敷へ向かうのへは劫火たちも追いかける。
その劫火を見咎めて、さっきの忍びが声をあげた。
「……おやおやぁ?ナゴヤの腰巾着まで一緒じゃないですか。頭目、これは一体」
竜魔や本人が何か言うより早く、志摩が口を挟む。
「腎蔵、こいつは協力者だ。共にキョウ城を奪還する仲間だよ」
「仲間ァ?」と声の裏返る忍者へ久我とねこむーちょも挨拶した。
「こんちゃー。久我 十三郎いいますゥ。ワイも城奪還のお手伝いしにきはりましたァー」
「ねこむーちょでちゅ。よろしくでちゅ」
ヘコリと会釈する謎の生き物を前に、腎蔵は言葉が出てこない。
ややあって、「なんですかい?物の怪ですか」と頭目に尋ねて、ねこむーちょを憤慨させた。
「誰がモノノケでちゅか!ねこまん島びぢんコンテスト優勝者にして、ねこまんと体操マスターのねこに喧嘩を売るとは、いい度胸でちゅう!そこになおれでちゅ、成敗いたすでちゅぅぅぅ!」
ジタバタ暴れるねこむーちょをチラ見した後、竜魔もフォローに入る。
「ねこ殿には世話になった……丁重に扱ってあげてくれ」
「へぇ。わかりやした。ところで」
腎蔵はあちこち見渡して、声を落とす。
「なんか匂いませんか?こう、ションベンくせぇっていうか」
「あ、ちゅみまちぇん」
小声だというのに聴こえていたのか、白いぽわぽわがお尻に手をやって恥じらった。
「さっき、ちょっとチビッちゃいまちた。あとで、お風呂を貸してもらえまちゅ?」
「うげぇ!汚ェッ」
騒ぐ腎蔵を、その場に捨て置き、一行は屋敷へ向かう。
大きな屋敷の居間には、座布団に座った青年がいた。
この人こそがキョウの殿様――であった、昴 頼智だ。
澄んだ瞳が竜魔を見つめて微笑んだ。
「竜魔、やはり生きていたか。俺は生きていて、これほど嬉しいと感じた日はないぞ」
少し離れた場所で、竜魔は膝をつく。
その両目には光るものがあった。
「殿、よくぞご無事で…………」
二人の再会を前に、劫火や久我も一安心。
ねこむーちょなんかは「竜魔しゃん、よかったでちゅ」と貰い泣き。
感動のあまりか鼻水まで垂れてきて、ずびびっと勢いよく鼻を啜りあげた。
そこに「おい、さっきの白い奴、風呂はどうするんだ」と駆け込んできたのは、腎蔵だ。
「あ、そうでちゅ。お風呂借りまちゅねぇ」
ぽてぽてと歩いていくねこむーちょを目で見送りつつ、劫火もボソッと呟いた。
「あいつらが到着するまでの間に説明しとくか」
「あいつらとは?」
頼智の問いには久我が陽気に答える。
「外から来た冒険者や。簡単に自己紹介しといたほうが殿様も判りやすいでっしゃろ?てなわけで、まずはワイからやな!」
だが「全員揃ってからでいいだろ、それは」と名乗り途中で劫火に遮られ、がくっとずっこける。
「俺が説明しておきたいのは、これまでに俺達が何をやっていたかだ」
佇まいを直して正座すると、改めて頼智に語った。
見回り組や柳一族、大地神社の動きや、竜魔との合流以降に起きた一連を。
話している間に玄関が騒がしくなったかと思うと、大勢が居間へ入ってくる。
「よぉ、お先」と片手をあげた劫火へ「ただいま到着しました」とレナが応えた。
一通りキョウの殿様へ自己紹介などを交わした後は、遅れてきた面々も好きな場所へ腰を下ろす。
洗いざらしのねこむーちょは、しっかり竜魔の隣に陣取って、てぬぐいで体を拭いている。
「さて、それじゃ本題に入ろうぜ」と劫火が仕切りだしたのは、ここへ来る前にも話していたキョウ城奪還の作戦だ。
城を攻めるにあたり、最大の難関となるのが増援を呼ばれる点であろう。
キョウはオオエドとナゴヤに挟まれており、どちらへ行くにも検問がある。
現在、検問も見回り組に占領されている。よって、検問を先に落とす必要があった。
落とした後は、すみやかにオオエドの侍が制圧する。
これでナゴヤの本拠地は勿論、オオエドに配置された隊員の援軍を封じ込められよう。
「検問を落とす策には異存なしでござる。しかしキョウにある駐屯所は如何致すのでござる?」
半蔵の疑問を受け止め、志摩が頷く。
「もちろん同時に叩くさ。三箇所を同時に攻めなきゃ、どんどん増援が追加されてしまうよ」
「この手数で分散するってのか?冗談だろ!?」と声を荒らげたのはオーギュで、検問突破が如何に大変だったのかを力説した。
実際、キョウとナゴヤ間の検問は激戦だった。
奇襲だからこそ突破に成功したようなもので、正面から殲滅するとなったら手数が足りない。
見張りは十五人も配置されていた。今は突破したせいで、もっと増えているかもしれない。
「……まずはキョウにいる隊員の人減らしから始めるか」
竜魔の呟きを拾って、「そうだ!オレが囮になるってのはどうだ?」と叫んだのはジェイドだ。
「一人で囮を?危険ではないですか。それに、攻める場所は三箇所あるんでしょう?」
即座にカイルが反対するも「だったら三箇所同時に囮を放てばいい」とグリフィルスは乗り気、シェスカまでもが「囮を出すんだったら私も行くぞ!」と名乗りをあげてくるではないか。
「待て待て待て、囮を出すんだったら待ち伏せも必要だろ」
血気盛んな三人を止めたのは、オーギュだ。
「こういうのはどうだ。三箇所に分かれて待ち伏せする……んで、その中から一人ずつ囮を出して、そこまで引っ張るってのは」
「それにしたって一人での囮は危険だろ。三つ手同時に攻略ってのもな」
眉をひそめて一同を見渡した後、劫火が竜魔を促した。
「キョウの住民たるお前に訊きたいんだがよ。キョウに建てられた駐屯所にゃあ何人の隊員が詰めてんだ?」
中を覗いたわけではないがと前置きした上で、竜魔が答える。
駐屯所に詰めているのは常に同じ面子で、三十人ほど。
たまに近藤と呼ばれる副隊長が訪問するが、長居はせずナゴヤの本拠地へ戻っていく。
「駐屯所を襲うにしても、真っ向切り込んでいくのは不利だよな……どうにかして中の奴らを分散させねぇと」
オーギュも考え込む。
手持ちの武器は心許ないし、狭い建物の中で暴れるのは同士討ちの危険もある。
「あ、だったらよ。囮作戦と待ち伏せ作戦を駐屯所襲撃でやるってのは、どうだ?」とジェイドに切り返されて、呆気にとられた。
「え?けど待ち伏せったって、どこで」
「雑木林がよかろう」と提案してきたのはキョウの住民たる殿様、頼智であった。
殿直々の提案に、志摩や腎蔵は浮足立つ。
今、立てているのは我らが故郷を取り返す作戦だ。
殿の為にも、無様な戦いはできない。無論、策についても入念に組む必要があろう。
少々思案した後に、竜魔は策を出す。
「では、やはり先に落とすべきは検問……オオエドとの検問を真っ先に落としましょう」
「ハァ?落とすならド真ん中にある駐屯所が先だろうが!」と怒鳴りつけてくる劫火を手で制し、竜魔は持論を突き通す。
「ど真ん中にあるからこそ、拠点は必要だろう」

まず最初に狙うのは、オオエドとキョウを結ぶ検問だ。
オオエドの手勢が制圧するのも援軍を送ってもらうのにも距離が近く、駐屯所を狙う拠点にうってつけである。
検問を制圧するには数を減らすのが得策だ。
故に雑木林を最初の拠点として、部隊を三つに分ける。
囮となるのはオオエドの街外れと、直接検問へ出向いて雑木林まで引っ張ってくる二つの隊だ。

「オオエドの町外れだぁ?検問を制圧しようってのに、どうやって反対側へ回り込むんだよ」
額に青筋立てての突っ込みにも、やはり竜魔は冷静に返す。
「オオエドへ入る方法は検問だけに非ず。森を抜けて大回りにゆけば、穴がある」
「穴?」と半蔵も首を傾げるのに頷き、「そうだ、穴だ。オオエドを囲む壁には穴が空いているのだ」と住民にも知られざる情報を明かしてきた。
「検問ったって柵は無限じゃないからね。柵の途切れた場所からオオエド領へ入るんだよ」とは志摩の弁。
森林を大回りにすれば、穴のある壁へと辿り着く。
飛鳥も「時間はかかるが、確実に検問の反対側へ回れよう」と締めて、一同の顔を見渡した。
「では、伝書鳩を飛ばしておこう。犬神殿に呼びかけておけば万事抜かりなく、焚き火を用意していただけよう」
半蔵が立ち上がって窓の側へいくのを横目に見ながら、劫火が話を進める。
「作戦開始はオオエドへ入る組が到着してから、だな。一応面子だけでも決めておこうぜ」
「ばたばたしていて、気の休まる暇もないでちゅ」とぼやき、ちらりんと上目遣いにねこむーちょが竜魔を見た。
「作戦開始する前に、ちょっとお休みしたいでちゅ。走り通しで疲れたでちゅし、お腹も空いてきまちゅた」
「おい、そんな呑気な話を――」「おう!オレも腹減った!メシ食いてぇ!」
劫火とジェイドの声が見事に重なる。
同時に腹の虫が大合唱。鳴らしたのはジェイドとねこむーちょだけでもなさそうだ。
「あー、くそッ。判ったよ。ゆっくり休んで準備ができてからにするか、作戦開始は」
ガリガリ頭をかいて劫火が納得したのを合図として、殿様も笑顔で皆を促す。
「奥の離れに飯を用意しよう。風呂も沸かしてある。布団も敷いておくから、体を休めて英気を養ってくれ」
居間で大歓声が上がった。