8.素敵な出会い!?
一週間後に控える中間テストに備えて、俺達は勉強会を開くことにした。前回はなし崩しだったが、今回は違う。ちゃんと約束しての集まりだ。
集合場所は、改めてダチになった同クラのやっちんちだ。
女子の家におじゃまするのなんざぁ、中二以来だぜ……ちゃ〜んとお土産も持ってきたし、抜かりはねぇ。
「じゃ、とりあえず上がっててよ。なんか飲み物入れてくるねー」と言い残して、俺をリビングに通したやっちんが台所へ消えてゆく。
今んとこ、集合時間五分前に到着したのは俺一人だ。
一旦帰宅して荷物を置いてきてからの集合って約束だから、小野山は一緒じゃねぇ。
今日のやっちんはピンクと白の横縞Tにジーパンで、太ったやつが着ると悲惨になるが、ほっそりした彼女が着るとアイドルみたいで可愛いぜ。
小野山も来るって伝えたら、そりゃ〜もう、大喜びだった。ついでにダチを二人連れて来るってのも教えてある。
ただ、そのダチが、誰なのかは俺も教わってねぇ。
特に何も言わないってこたぁ、いつもの木村さんや林といった顔ぶれじゃねぇかな。
教科書とノートを机の上に並べていると、やっちんが戻ってきた。
「おまたせー」なんて言って、紅茶のカップとクッキーの乗った皿をお盆に乗せて。
熊の形をした可愛いクッキーだ。
カップも気取らず、かといって貧相でもなく、白くて小ぶりで可愛いし、あぁ、本当にいいねぇ、年頃のお嬢さんがいるお宅ってやつぁ!
気のせいか、いや気のせいではなく今日のやっちんは清涼な香りが漂っている。
鼻にすぅっと抜ける、いつもと違う匂い……こいつが彼女の勝負パフュームか。
小野山に気を取られるのも結構だが、勉強はちゃんとやってくれよ?
肝心の学力だが、やっちんは以前俺に勉強を教えてほしいと言っていたように、本人曰く『バカ』らしい。
そんな彼女が、天高の学習方法を教えてほしいと今日は張り切っている。
どの学校でも勉強の方法は大差ねぇと思うけど、俺の知っているやり方は全部教えてやりてぇぜ。
「今日はテストに出そうな範囲を少しずつやっていこうぜ」
俺の言葉に、やっちんがはしゃいで手を叩く。
「わ〜、本格的ィ!ヤマを張ったりしないの?」
「ヤマは外れっと悲惨だかんなァ。それよか先生のヒントを元に割り出した範囲をやっといたほうがいいって」
「センセのヒント?そんなの出てたんだァ!全然気づかなかったー」
ピンポーンと間延びしたチャイムが鳴って、腰を下ろしたばかりのやっちんが再び立ち上がる。
すぐに何人か連れて戻ってきたが、ん?やっちん、ふてくされてんな。嫌な奴でも連れてこられちまったのか。
まさか高柳を連れてきたんじゃねーだろうなぁ。ってんで伸び上がった俺の目が小野山を捉える。
いや――正確には小野山の後ろをついてきた、人物に釘付けとなった。
な、なんだ、ありゃあ……!
ふわふわの栗毛は、ゆるやかにウェ〜ブを描いて背中に流れ、化粧っ気のない顔だというのに唇は艷やか。
薄いレース地のノースリーブは見えそうで見えないギリギリラインを攻めてきて、それでいて上品な雰囲気を崩さない。
ふんわりしたスカートは、ノースリーブと併せて純白。清楚なイメージで固めたファッションだ。
いや、もはや清楚だの上品だのといった言葉では表しつくせないほど、美しい。
きめ細やかな白い肌がトドメを差してくる。私は、他の女子とは別次元の生き物なのよ、と。
こころなしか彼女のまわりだけ、空気までキラキラ輝いている。
睫毛の長い物憂げな瞳、形の良い鼻筋は、絵本だ、絵本に出てくる美少女――そんなイメージを抱かせやがる。
やべぇ、マジかわいい……
やっちんも美少女だと思うが、この子は、その上を遥かに越えていきやがった。
昼飯でも休み時間でも見覚えのない、いや、こんな可愛い子は一度見たら一生忘れねぇ。
なんだ、いつ、どこで知り合ったんだ?彼女と小野山は!従兄弟か、それともご近所の別学校か!?
こんな異次元級美少女が身近にいたんじゃ、そりゃ〜カノジョを作ろうなんて思わねーよ!反則だろッ。
混乱する俺の前で、美少女が挨拶する。
見るものの期待を裏切らない可愛い声で。
「はじめまして、四組の桜丘 悠です。今日は小野山くんの勧めで、こちらの勉強会へ参加させていただきます。よろしくお願いします」
ん、イントネーションが微妙におかしいぞ、こいつぁ関西の訛りだな?
なるほど、最近引っ越してきた子だったか。
道理で近所のスーパーでも見たことなかったわけだぜ。
この子と合同行事で一緒だったのか、いいなー二組。そんで小野山と意気投合してダチになったってわけだな。
「あ、あのっ」と低い声がして、なんだ、まだツレがいたのかと、そっちを見やると、ひょろっとした男子が立っていた。
あれ?こいつ、顔に見覚えが……
「は、はじめましての方も、本日は、よろしくお願いします。六組の月見里 聡太と申します」
そうそう、ヤマナシだ、山梨じゃなくて月見里っつー変な漢字をあてる珍しい苗字なんだっけか。
「……俺も名乗ったほうがいいか?」と小野山が小声で尋ねてきやがったんで、俺は真横に首を振った。
「お前は、ここにいる全員が知ってっから省略でいいだろ。あーそうそう、俺は坂下 恋香、一組だ!よろしくなッ、桜丘さん」
しばしむくれていたやっちんが、笑顔に戻って挨拶する。
「今日は、いっぱい集まってくれてアリガト。あたしは望月 弥恵。あたしも一組なんだー。よろしくね、月見里くんに桜丘さん」
よろしくと言う割に、視界からさりげに桜丘さんを外しているように見えんのは俺だけか?
六人がけのテーブルについて勉強を始めるってなったら、やっちんが颯爽と仕切りだす。
「あ、桜丘さんは月見里くんの正面に座ってー。んでレンカは月見里くんの隣ね。小野山くんはレンカの隣、一番端っこでいい?」
誰一人いいとも悪いとも言わないうちに、小野山の正面に当たる端っこをキープするあたり、さすがだぜ。
クラスでも、こんなふうに皆の行動をテキパキ決めてやるのが、やっちんのリーダーシップなんだよな。
「今日の範囲どうする?どこまでやっちゃう?あーでもクラス違うと進みも違うよね、どうしよ」
あれこれ切り出すやっちんに俺が答えるよりも早く、桜丘さんが自分なりの意見を出す。
「苦手な教科一つに絞って、それぞれ自習にしたらいいんじゃない?判らない部分は、お互いに教え合うかたちで」
桜丘さんは、こういった勉強会に参加すんの、初めてじゃないみたいだな。特に異論はなかったんで、俺も頷いた。
「ん、それでもいいぜ、俺は。判らないとこがあったら、遠慮なく聞いてくれよな!」
「教え合う……お、教えられるかな……」
ガチガチに緊張する月見里に併せて、やっちんも「えー全部わかんなァい。ね、小野山くんは苦手な教科って何?一緒にやろっ」と早くも桜丘さんの案を無視する気満々だ。
「……数学、だ」とボソリ答えて小野山がノートと教科書を取り出す。
前回散々字が汚ェと罵ったんだ、あれから多少は綺麗にノートを取るようになったのか?
こっちの視線に気づいたか、なかなかノートを開こうとしやがらなかったんで、俺は焦れて手を伸ばす。
「どら、見せてみろ小野山。ノートチェックしてやる」
「結構だ」
「うるせぇ、見せろ!」
ひったくろうとする俺の手は空を切り、この野郎、俺の手が届かない頭の上にノートを掲げやがって、さては、あれから全然進歩してねーな!?
綺麗になっていたら、素直に見せるはずだ。俺の斜め向かいでノートを広げている桜丘さんみたいに。
やっちんの字は丸っこくて可愛い。桜丘さんの字はパソコンで打ったみたいに整っている。
「あ、あの、無理強いは良くないんじゃないかなぁ……!」と隣で控えめに俺を止める月見里の字も、それなり綺麗だった。
「ノート開かなきゃベンキョーできねーだろうが!さっさと見せろィ!」
机をバンバン叩いて怒鳴っても、小野山は明後日の方を向いて知らんぷりを決め込んで、あーもうっ、むかついた!
奮然と立ち上がった俺に併せて小野山も席を立つ。おのれ〜、どうあってもノートは見せねぇつもりか!
「ね、もうやめよ?ノートの取り方も文字の書き方も、それぞれの個性だと思うの」
鈴の音の制止に、俺は一にも二もなく頷いた。
「ハーイ💖」
桜丘さんは、ちらりと小野山を見て、ついでとばかりに付け足す。
「ノート見られるのに抵抗があるんだったら、教科書に直接書き込むのもアリだよ。ウチの父は、そうしてたって」
あー、そういう人もいるよな。ただ、そういう人はノートを取らなくても勉強できるタイプなんだよなぁ。
「それより、さっそく判らない問題が出てきたんだけど」と彼女が身を乗り出してノートを差し出してくるから、俺も乗り出して問題へ目をやる。
桜丘さんの苦手教科は化学だ。
「原子とか言われてもピンとこないし、センセは数式覚えれば楽勝って言うんだけど、ね……それの簡単な覚え方って、あるかなぁ?」
くぅー、近寄ると、ますます甘い香りが鼻ん中に入ってきて、誘惑の激しさにクラクラしやがる。
しかも、しかも、だ。ノースリーブに隠された胸は意外やおっきい。
中間テストが終わったら臨海学校が始まる。桜丘さんが水着になったら、鼻血吹いて倒れる男子続出じゃねーか!
こう、腰はきゅっとくびれてんのに、おっぱいはボイーンでお尻もプリッと小ぶりでスベスベしているに違いないぜ、グヒヒ。
柔らかそうな二の腕が、これまた無防備すぎて、思わずプニプニ突いてみたくなる。
おっぱいも突いたら、あんって可愛く喘いだ後に、もう、レンカちゃんのエッチって上目遣いで軽く睨んでくるんだぜ、ウヘヘ。
俺はスケベオヤジ顔負けのエロ妄想を脳裏に描きながら、彼女の知りたい勉強方法を教えてやる。
「簡単っつーか、数式の類は全部暗記だな、暗記最強!」
以前、佐藤さんや小野山にも言ったが、学校の勉強、その基礎は暗記にある。
解――何故そうなるのかを考えるのは応用になっから、今の時点では必要ない。
ここの生徒が、どいつもこいつも基礎前でギブアップしちまっているのは、中学時代の授業に問題があったんだろうぜ。
基礎の暗記だけで終わっちまったから、数は出せても解に辿り着かず、理解できずにつまらないもんになっちまったんだ。
「んで基礎を掴んだら、こっからが本当の勉強だ。何故その答えに辿り着くのかを考える」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って」と桜丘さんは俺の弁をストップさせて、下がり眉で尋ねる。
「この勉強会ってテスト対策だよね?解答だけ繰り返し覚えるんじゃ駄目なの?」
「この勉強会は、な。けど、基礎と応用を掴んどきゃ今後の授業も無駄にならなくて済むだろ」
「そ、そうかなぁ……でも、ね。思うの。このベンキョって本当におとなになった時、必要なのかなって」
「そいつを今考えるのは、それこそ無駄ってもんだぜ。大人になった時に役に立つかじゃなく、ここで学んだ知識を大人になっても活かせるようにするんだ、自分で」
ふと気づくと、俺と桜丘さんの問答を他の三人が凝視していやがった。
小野山なんかは席についてもいねぇ。ノートを手にしたままの棒立ちだ。
しばらくして、やっちんがポツリと呟いた。
「レンカすごーい。先生みたいなこと言ってる」
「こ、これが、天馬高校の実力ッ……」と月見里も息を呑む。
そんな驚くほど大層な会話じゃねーだろーがよー。
「つーか月見里、お前の苦手教科も英語なのかよ」
月見里の手元を覗いてみたら、英文の途中で書き込みが止まってやがった。
ゼロから百まで何もかも判らなかった佐藤さんと違って、月見里には問題を日本語訳できる程度の知識があるみてぇだ。
「"も"って?」と驚く月見里に、やっちんが笑う。
「あたしも苦手なんだー、英語。普段使わない言葉だし、全然覚えらんないよねぇ」
だから、俺は言ってやった。
「何いってんだ、普段聴いてる歌にも入ってんだろ。やっちんの好きなK-POPだって歌詞は英語バリバリじゃねーか」
「んー、そうなんだけどォ。歌詞で聴くのと文章で見るのは全然違うってゆうかぁ」
「同じだって、普段から好きな曲の歌詞を和訳するクセをつけてみろよ。そうすりゃ多少は苦手意識がなくなっからよ」
それにな、と難しい顔で腕組みする彼女へ畳み込む。
「好きな歌詞の意味が判ったら、曲にも感情移入できるだろ」
「うーん、そうかぁ、そうだねぇ、教科書のくだらない文章を読むより楽しいかも!」
「そうそう!」
教科書の例文がつまんねぇってのには同意だ。勉強は楽しんでやらなきゃ頭に入ってこねぇよ。
残るは小野山の数学だが……ノートを睨みつけて、ピクリとも動かねぇ。また一問目から詰まってんのか。
こないだは、うっかり母ちゃんに任せちまったせいで、宿題のほとんどを母ちゃんが問いちまった。
やっちんのお母さんは只今外出中、おかげで今日は邪魔が一人も入らねぇ。
小野山はチラと俺の顔色を伺い、すぐにノートへ目を落とす。
さっき散々抵抗した手前、ノートを素直に見せるのが恥ずかしいんだな?そうだな?
よしよし、もう字の汚さは個性で無視してやっから、早く教えを乞いてこいっての。
もう一度顔をあげた小野山は何を思ったのか席を立ち、月見里の背後に回って小声で耳打ちする。
月見里が「え、えぇっと、専門用語が判らない時はネットで調べれば、すぐに出てくるよ」と答えるのを聞いた。
んー、なるほど。月見里はネットが参考書代わりなのか。
悪くねぇ勉強法だが、そいつは一つ落とし穴がある。
ネットには嘘も存在するってこった。真面目に勉強したいんだったら、やっぱ素直に参考書を買ってくるべきだ。
でも、今の質問は俺にも大体予想できるぜ?
大方、次数を整頓しろだの何だの言われた瞬間、頭ん中がパッと真っ白になったんだろ。
前にも因数分解がさっぱりだって言ってたもんな。
だから無心に数式を暗記しろって言ってんのに、序盤も序盤、ジョの段階で詰まってんだよなー。
……ハッ!もしや、その暗記自体が苦手なのか?小野山は。
驚愕の眼でヤツを捉えると、月見里のケータイを借り受ける姿が目に入った。
「あれ?小野山くんケータイ持ってこなかったの」と、やっちんに尋ねられた小野山が「携帯電話は持っていない」と小さく答えるのを聞きながら、そういや、こいつがケータイ弄ってんのを見たことが一度もなかったのに気づく。
いつも忘れてきてんのかとばかり思ってたけど、単に持っていなかったんだ。不便じゃねーのか?
まぁ、こいつがチマチマゲームしてんのも想像つかねぇし、不要だと思ったんなら余計なお世話だけどよ。
そっと背後から覗き込むと、何度も打ち間違えては消すの繰り返しをやっていて、あぁ、じれってぇ。
指が太くてキーを打てないんだろ?貸してみろっての。
「よぉ、何が判んねーんだ?俺が検索してやるよ」
ケータイを奪い取って尋ねたら、無言が返ってくる。なんだよー、今更恥ずかしがる関係じゃねーだろ?
「もしかして因数分解?」と桜丘さんも割って入って、小野山を見上げる。
「数学だったらウチ、少しは判るかも。因数っていうのはね」と自分のノートの端っこに公式を書いて、図解での口頭説明を始めた。
俺のやり方とは異なるけど、これはこれで判りやすくていいんじゃねーか。
人間、文章よりは画のほうが入りやすいっていうもんな。
小野山は桜丘さんの隣に座って、じっとノートを見つめている。
時折フムフム頷いて、桜丘さんに「じゃ、この式は、どういう答えになるか判る?」と簡単な問題を出してもらって、例の汚い字で解答を書き込み「正解〜」をもらった暁には、ほんのり笑顔を浮かべて、やったな!その調子で、どんどん問いていこうぜ。
それにしても、桜丘さんにマンツーマンで教えてもらえるなんて、いいなー。
俺も何か判らないフリして、優しく教えてもらいてぇ〜。
残念なことに表坂の中間予想は、どれも復習の範囲内で、教えてもらうほどの難問は一つもねぇんだがよッ。
月見里は、やっちんと一緒に英語をやってんだが、ほとんど月見里がやっちんに教える形になっていた。
やべぇ。小野山を眺めている間に、俺だけ一人になってんじゃねーか。
「や、やっちん、俺も教えるぜ?わかんないとこあったら見せてみ?」
「あ、レンカ。あのね、ちょうど二人とも判んないとこがあって」
こっちに話題をふってくれた直後、桜丘さんの「すごーい、全問正解!じゃあ次は、もっと難しいのを出すね」といったお褒めの言葉がひときわ大きく聞こえてきて、そっちを見やると、なんと小野山は桜丘さんの真正面に座り直していて、やっちんの眉間には深い縦皺が寄る。
あ、こっちもヤベェ。
苦手教科がバラバラなせいで、やっちんと小野山が一緒に勉強できなくなっちまってんじゃねぇか。
このまんま険悪なムードで終わったら、勉強会後にやっちんの部屋を見せてもらう計画まで、ご破産になっちまう!
「ねぇ、レンカ。あの桜丘さんって人、なんなの?」
小声で囁いてきたやっちんに、俺も小声で返す。
「知らねぇ。今日初めて会った。あんな子がダチにいるなんて、一度も聞いたことねーんだけど」
「四組って言ってたよね。合同授業もないのに、なんであんなに小野山くんと距離チカなわけ?」
「こないだの合同修学じゃねーか?一緒にやるうち仲良くなったとか」
ボソボソ内緒話に割り込んできたのは月見里で、「そうそう、僕ら一緒に裁縫やったんだ」との話題フリに、やっちんの眉毛が跳ね上がる。
「桜丘さんのパッチワークトートバッグ、すごい上手な仕上がりだったよ。教え方も上手いんだよね。裁縫実習でも、あんなふうに丁寧に教えてくれるから、僕も小野山くんも綺麗にバッグを作れてね。あれは自分でも吃驚したなぁ」
「そう……そう、なんだ。合同修学でも小野山くんにベッタリだったんだ……」
やっちんは、もはや不機嫌なのを隠そうともしていねぇ。
だが月見里は全然気づいていねぇのか、ニコニコ笑って話を締めくくった。
「あの二人って結構お似合いじゃないかな、美男美女って感じで。でも、僕が見た限りでは」
空気の読めねぇ月見里の話は、まだ続きがありそうだったんだが、やっちんのヒステリックな叫びで途切れさせられた。
「もういいよ!」
桜丘さんと小野山にも注目を浴びながら、やっちんが怒鳴る。
「そろそろママが帰ってくるし、勉強会おしまい!ほら、さっさと帰って!!」
桜丘さんと小野山が仲よさげでキレたくなる気持ちは判っけど、いくらなんでも唐突すぎだろ。
ほら、二人も戸惑ってんじゃねーか。
俺や月見里にしたってそうだ。いや、月見里はやっちんの乙女心を知らねぇから余計に訳が判んねぇはずだ。
「あ、あの、僕、何か悪いことを言っちゃった?」とアワアワ泡食う月見里は、やっちんに背中を押されて玄関方向へつんのめる。
俺と桜丘さんも追い立てられる格好で飛び出して、最後に小野山だけは、のんびり出てきて、さよならを聴いた。
「それじゃ、ごめんね小野山くん。今度やる時はレンカと三人でやろ!」
無情にも扉は閉まり、中途半端な時間で解散になっちまった。
ああ、畜生。まだクッキーも全部食べていなかったし、やっちんの部屋を見る暇もありゃ〜しなかったぜ。
俺達は道端で呆然と佇んでいたんだが、「……んー」と指を口元に当てて考え込んでいた桜丘さんが口を開く。
「望月さん、急に都合が悪くなっちゃったみたいだし、宿題の残りはウチの家でやろっか?」
おぉぉぉ……美少女は心も広いんだな!こいつぁ〜桜丘さんと仲良くなれる、願ってもないチャンスだ。
俺の勘では、妖精の住んでいそうな広い庭付きの豪邸に違いねぇ。
庭で絵本を読む桜丘さんの姿が容易に想像できる。
きっと小さい頃から可愛かったんだろうな〜。機会があったら彼女の部屋と、それからアルバムも見てぇなぁ〜。
「今からお邪魔しても大丈夫かな?」と尋ねる月見里へも微笑んで「ウチの親、夜遅くまで帰ってこないから」と答える桜丘さんの後に続いて、俺達三人は彼女の家へと向かった。